滝番小屋

新城市出沢と鮎滝の近況を紹介、その他雑感を少々。

残留思念

2014年04月20日 | 瑠璃光浄土

 声なき声に導かれ、強右衛門の墓碑の前に佇んでから10年になる。
鬱蒼とした杉木立の中の参道奥に鎮座した碑の脇で大銀杏がざわめいていた。
何か、私に言いたいことがあるようだった。

『強右衛門の芝居をやるまい』
歌舞伎仲間に声をかけた。折しも市町村合併の話が進んでいて、
新城歌舞伎で【のぼり祭り】に参加、アトラクションに、長篠城址で
野外歌舞伎〔鳥居強右衛門〕を打つことになった。

『歌舞伎は真っ昼間から外で踊るもんじゃない』
『古戦場でやったら、取り殺されるぞ』

 師匠にも、仲間にも今ひとついい返事がもらえない。
何処かに有るはずだという根本も手に入らない・・・。
その上、誰も強右衛門をやるものがいない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 何としても、強右衛門との約束を果たしたい。
ここは、自分がやるしかないか・・・。
根本は、原田一さんが書き下ろした。
拙いながら、30年近く素人歌舞伎を踊ってきた。
仲間も、師匠の世話にならなくても、役さえ与えられれば其れなりに踊れる。

 こうして前代未聞の野外歌舞伎が実現したのだが、
今思うと、あの前後一月は何かフワフワとしていて、
自分ではなかったような気がする。強右衛門に体を支配されていたのだろうか。

・・・一月後、循環器クリニックで〔心房細動〕の診断結果。
以来〔ワーファリン〕のお世話になり、9年目。
今年、出沢区長として鳥居閣祭に参列。
これでなんとか強右衛門との約束を果たした。

 明治・大正・昭和・・・
皆、平成な世を望んでいるのだが、
世が乱れ民心が救いを求めるとき、強右衛門が現れるという・・・。

 人には生存本能がある。心の奥底を覗き込むとき、
乗客より先に脱出した船長の行動を、隣国の話だ、
不届きな奴だと一笑に付すことは出来ない。

 だからこそ、命をも投げ出した利他主義の強右衛門は権現様なのだ。

 

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