元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」

2020-05-31 06:31:21 | 映画の感想(さ行)

 (原題:THE LAUNDROMAT)2019年10月よりNetflixで配信。本国では賛否両論の評価を受けているらしいが、それも頷ける内容だ。奇を衒ったライト感覚の作劇は、重大なテーマをサラリと見せる効用はあるが、観る者によっては悪ふざけが過ぎるという印象を持つだろう。さらに、キャストが場違いなほど豪華なのも悩ましい。要するに、受け取り方が難しいシャシンである。

 湖の遊覧船が高波で転覆するという事故で、エレン・マーティンは夫を亡くす。犠牲者は彼を含めて21人にもなり、遺族は運営会社にその補償を要求するが、会社が入っていた保険は内実の無いペーパーカンパニーが担当していたことが判明。そのため、保険金はわずかしか払われなかった。自分で事の真相を探るエレンは、どうやらこの絡繰りを仕掛けていたのは、ユルゲン・モサックとラモン・フォンセカという2人の弁護士であるらしいことを突き止める。

 彼らは世界中に山のような数のペーパーカンパニーを作り、富裕層の“税金対策”として売り出していた。それらの所属先は、いわゆるタックスヘイブンである。たが、そんな詐欺に引っ掛かった者達は、次々と不幸を呼び込んでゆく。モサック・フォンセカ法律事務所によって作成された、租税回避行為に関する一連の機密資料“パナマ文書”を題材にしたジェイク・バーンステインのノンフィクションの映画化だ。

 エレンが真相解明の当事者になるのかと思ったら、狂言回しにもなっていない。序盤と、そして“オチらしきもの”が付くラストにしか出てこない。代わりに“主役”を務めるのはモサックとフォンセカで、最初から司会者気取りで観る者に向かって話しかける。あとは、彼らの詐欺の被害者たちの末路がオムニバス的に羅列される。

 小難しい金融用語などは出てこないし、寸劇を観るような雰囲気でスムーズに進行する。ただ、それらのエピソードは徹底的に辛口でブラック。監督はスティーヴン・ソダーバーグだが、いかにも彼らしい冷笑的なスタイルだ。しかしながら、この現在進行形のネタがこういう軽々しい筆致で綴られて良いのかという疑問は残る。

 かつてのソダーバーグもスノッブでシニカルなタッチで素材を料理してはいたが、シリアスな姿勢は崩さなかった。ところが本作では、最初から最後まで緩めの態度で臨んでいる。個人的にはこれもアリだとは思うが、広範囲な支持は得られないだろう。さらにメリル・ストリープをはじめゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、ジェフリー・ライト、ジェームズ・クロムウェル、ロバート・パトリックとキャスティングだけは華やかだ。このあたりのチグハグさを受け入れられない観客が多いのも、納得するしかない。
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「ポーラー 狙われた暗殺者」

2020-05-30 06:30:53 | 映画の感想(は行)
 (原題:POLAR )2019年1月よりNetflixで配信。観ていて笑ってしまった。これは、主演のマッツ・ミケルセンの“勇姿”を堪能するためだけの映画だ。筋書きに無理があろうと、活劇の段取りが納得出来なくても、マッツ御大の俺様的パフォーマンスを見せつけてしまえば、それですべて丸く収まるのだ・・・・と考えている観客には大いにマッチする。言い換えれば、それ以外のオーディエンスはすべて“蚊帳の外”である。そう割り切るべきシャシンだ。

 ブラック・カイザーことダンカン・ヴィズラは世界的な“殺し屋派遣会社”に雇われている凄腕の暗殺者だ。この会社の定年は50歳で、彼はあと2週間でその年齢になる。引退後は会社から一生食うに困らないだけの“年金”が支給されることになっているが、CEOのブルートはその“年金”を拠出するのは損だと考え、定年に達した殺し屋を次々と始末していく。ダンカンは自分の居場所が知られないように、世界中に“別荘”をセッティングして追っ手の目を眩ましていたが、過去の一件により多額の寄付を続けていたことが会社側に知られたため居住地が割れてしまう。



 一方、ダンカンは根城にしていたモンタナ州の片田舎で、隣に住む若い女ヴァネッサと知り合う。何か訳ありのような彼女のことが気になるダンカンだが、会社が差し向けた5人の殺し屋の襲撃に遭い、ヴァネッサは連れ去られてしまう。ヴィクター・サントスによるコミックの映画化だ。

 冒頭、引退してチリで悠々自適の生活を送る暗殺者が、ブルートの手下に殺害されるシーンからして徹底的にマンガチックで派手派手しい。つまりは“これはマジに観るシャシンじゃないよ”と宣言しているようなもので、この開き直り方はアッパレかもしれない。

 ダンカンは大して苦労もせずにいくつもの危機を突破し、終盤には手酷いリンチを受けるが、なぜか短期間“静養”するだけで一線に復帰してしまう。普通の人間ならば100回は死んでいるようなシチュエーションも、マッツ御大のふてぶてしさで乗り切ってしまえると作者は確信しているようだ。とはいえ、スプラッタ描写も満載なので観る者を選ぶ。

 ヨナス・アカーランドの演出は繊細さとは縁が無いが、勢いは認める。カミーユ役のヴァネッサ・ハジェンズがあまりにも地味であるのは不満だが、キャサリン・ウィニックやルビー・O・フィーといった“お色気部門”はしっかりと仕事をしている(笑)。続編を匂わせる幕切れなので、またマッツ御大の“体当たり演技”が観られるかもしれない。
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「汗」

2020-05-29 06:29:22 | 映画の感想(あ行)
 内田吐夢監督による1929年製作のサイレント映画。島耕二扮する大金持ちのボンボンが、ひょんなことからルンペンの身分に転落(?)。日雇い人夫として、今までやったことのなかった“労働”に励むうちに、勤労の価値と素敵な彼女を得ることになるという、当時流行っていた“傾向映画”の一本。

 こういう“身分取り替えネタ”は古今東西くさるほど取り上げられているけど、そこは内田監督、娯楽映画として十分な要素を網羅し、社会風刺も散りばめつつ、しかもコメディとして大いに笑わせ、結果50分の上映時間に収めているのは興味深い。このネタを今のハリウッドでやったら、余計な場面を水増しして2時間以上になっていただろう。娯楽作品は短いに限る。

 まあ、自分本位に生きていた主人公が、少しばかり世間の荒波に揉まれたところで簡単に変われるはずもなく、元の鞘に戻る終盤でも目覚ましい意識の向上は見受けられない。だが、それが大きな瑕疵にはなっておらず、ストレス無く楽しめるのだから文句は言うまい。

 島耕二は1939年から監督に転身。数々のヒット作や秀作を生み出しているが、この映画では軽妙な二枚目を楽しそうに演じて好印象。吉井康や滝花久子、沖悦二、村田宏寿、田村邦男といった脇の面子も良い。

 余談だが、私は本作を某映画祭で観ている。その際に上映前には“この映画はサイレントです”と運営側が断っているにもかかわらず、上映が始まると“音が出ないぞー!”と文句言う奴がいて、周囲のひんしゅくを買っていた(笑)。上映時の注意事項は、ちゃんと聞くものである。
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「アメリカン・ファクトリー」

2020-05-25 06:52:56 | 映画の感想(あ行)

 (原題:AMERICAN FACTORY)2019年8月よりNetflixで配信。第92回米アカデミー長編ドキュメンタリー賞の受賞作である。これは面白い。取り上げられた題材はまさに現在進行形で、しかも語り口はスマートでユーモラス。鼻につくようなインテリ臭さも奇を衒った作劇も無く、いま世界で何が起こっているのかを平易で誰にでも分かるように提示してくれる。必見の映画と言って良い。

 オハイオ州デイトンの町には、かつてゼネラルモーターズ(GM)の大規模工場が存在し、住民の多くがそこで雇われていた。しかし2008年にGMの業績不振により、この工場は閉鎖。従業員たちは路頭に迷うことになった。ところが2015年に思わぬ“救世主”が現れる。中国の自動車用ガラスメーカーのフーヤオ(福輝)がアメリカ法人を設立。デイトンの旧GMの工場を買い取り、フーヤオのプラントとして稼働することになったのだ。

 もちろん、フーヤオはかつての従業員たちを多く受け入れた。しかし、中国の企業文化とアメリカ人のメンタリティは水と油ほども違い、トラブルが続出する。ついには組合の設立をめぐって、労働者側と経営側が真っ向から対立。事態は混迷の度を深めていく。

 米中当事者の確執が勃発した原因は、フーヤオ側の無理解とゴリ押しであったことは明らかだ。従業員たちの給与はGM時代の約半分になり、逆に業務は苛烈さを増した。業務災害も頻発し、これは誰が見てもブラック企業である。だが、中国の経営側にも言い分がある。労働者という“道具”を安く買い叩いて調達し、“効率的に”使い回して最大限の利益を得るというのは、彼らにとって当然の所業なのだ。

 そのためには、会社に対する盲目的な忠誠心を社員に植え付けるのは有用な方法で、フーヤオの本社に招かれたアメリカ従業員たちはひたすら自社を礼賛する中国人社員達によるイベントを見せつけられて呆れるしかない。もちろんこれは、民主主義のアメリカと共産党独裁の中国との国情を反映しているのだが、問題は、どうして両者が共同して仕事をする必要があったのかだ。そう考えると、本当の原因(諸悪の根源)が明らかになる。それは、グローバリズムだ。

 国境を越えて世界規模で経済主体が移動し、自由貿易や市場主義経済が広がる、その担い手は多国籍企業である。本来、フーヤオの経営体質は中国国内に封じ込めておくべきシロモノだ。それが無秩序な世界進出により不必要な軋轢を生んでいる。労働者が組合を作って対抗しようとしても、安価な労働力は世界中に転がっており、それを補充すれば何の問題も無い。しかも、フーヤオは機械化によってさらなるリストラを企んでいる。

 劇中では当初敵役として描かれるフーヤオのツァイ会長にしても、根っからの悪人ではない。信心深く、貧しいが楽しかった子供時代を懐かしがったりする。そのツァイ会長にしても、経営者としてグローバルな利益を生み出そうとすると、いきおい冷徹な方法を採らざるを得ない。そのディレンマは重いものがある。

 スティーヴン・ボグナーとジュリア・ライカートによる演出は、平易かつ訴求力が高い。あちこちにギャグを挿入したりするなど、観る者を飽きさせない工夫もある。また、この映画がバラク・オバマとミシェル・オバマが設立したハイヤー・グラウンド・プロダクションズの製作によるというのは、皮肉でしかない。何しろラストベルトの苦境を描いた本作が、奇しくも民主党政権の敗北とトランプ大統領の誕生を裏付けているのだから(苦笑)。その意味でも、興味の尽きない作品である。
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「マイ・インターン」

2020-05-24 06:30:46 | 映画の感想(ま行)

 (原題:THE INTERN)2015年作品。とても評判の良いコメディ映画のようだが、個人的には全く受け付けなかった。ストーリーもキャラクターもリアリティが無く、笑えるシーンは見当たらない。演出はモタモタしていて覇気が感じられず、中盤付近から観ていて眠くなってしまった。作り手自身が物語の要点を見定めることが出来ず、微温的に流してしまったという印象だ。

 ニューヨークのブルックリンに住む70歳のベン・ウィテカーは定年退職後に妻に先立たれ、子供は遠方住まいのため一人で暮らしている。無為に過ごすことを潔しとしない彼は、ファッションサイトを運営する会社のシニア枠採用に申し込み、入社することになる。経営者はジュールズ・オースティンという30歳代前半の女性で、創立から一年半で何百人もの従業員を抱えるまで会社を成長させた。

 ジュールズのダンナは専業主夫で、彼女は幼い娘を彼にあずけて自身は仕事に打ち込んでいる。だが、ジュールズは明らかにオーバーワークで余裕が無い。そんな彼女に人生経験豊富なベンは何かとアドバイスを与え、ジュールズや他の社員もベンに一目置くようになる。そんな時、彼女の側近がCEOを外部から迎えてはどうかという提案をする。

 まず、ベンの造型が説得力を欠く。彼は昔はそこそこ名の知れた企業に勤めていて、しかも元部長だ。そんな人間はたいてい“現役の者たちは全員部下である”と思っている(笑)。ベンのような物分かりが良くて如才なく、オシャレでスマートな御老人は、まずいない。どうしてもそんなキャラクターを創造したいのならば、それ相応の作劇上の手順を踏むべきだが、本作にはそれが無い。

 ジュールズが率いる会社はアパレル関係であるのは分かるが、具体的にどういう商品をどんなポリシーで扱っているのか、なぜ僅かな期間で急成長したのか、さっぱり見えない。ロフトを改造したオフィスの外見こそ垢ぬけているが、社員は長時間労働を強いられており、けっこうブラックな企業だ。

 ジュールズの夫の浮気騒ぎとか、彼女と母親との関係性とか、どうでもいいモチーフが並べられた後は、それこそ気勢の上がらないラストが待ち受けているだけ。ナンシー・マイヤーズ監督の仕事ぶりは、気合いが入らぬ平板なもの。

 ロバート・デ・ニーロにアン・ハサウェイ、レネ・ルッソと悪くない面子は出ているが、上手く機能していない。見どころはジャクリーン・デメテリオによる衣装デザイン(特にデ・ニーロが着るスーツ類)ぐらい。あえてチェックする必要は無いと考える。
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「トリプル・フロンティア」

2020-05-23 06:51:02 | 映画の感想(た行)

 (原題:TRIPLE FRONTIER )2019年3月よりNetflixで配信されたクライムアクション。製作にキャスリン・ビグローが関与しているので期待出来るかと思っていたが、中身はさほどでもない。有り体に言えば、盛り上がらないまま終わってしまう。ただロケ地の風景は魅力的なので、そこだけに着目すればある程度は満足出来るかもしれない。

 かつて米軍陸軍特殊部隊に所属し、今は南米の民間軍事会社に籍を置いていることサンティアゴ・ガルシアは、麻薬組織のボスであるロレアを追撃している際にロレアが自宅に大金を貯め込んでいるという話を聞きつける。これを強奪することを考えた彼は、早速昔の仲間のトム・デイヴィスに話をもちかける。

 気の進まないトムであったが、別れた妻と娘に生活費を渡さなければならない立場上、しぶしぶ引き受ける。他に3人のメンバーを加えた一行は、ブラジル奥地にあるロレアの邸宅に侵入して見事に金を入手することが出来た。しかし、逃走用のヘリコプターが山中に不時着。彼らはやむなく徒歩で山岳地帯を抜け、国外脱出のための船が待つ海岸線を目指す。

 ロレア邸から金を掠め取る場面はいくらでもサスペンスとアクションが挿入出来そうなものだが、意外なほどあっさりと切り上げている。ひたすら逃げる主人公たちを追って、組織側からは山のような実行部隊が出撃してもおかしくはないが、なぜか姿を見せない。わずかに途中で彼らがトラブルを発生させた村の者が私怨で迫ってきたり、海岸地帯でロレア配下の武装集団(とは名ばかりの、単なる不良少年グループ)が襲ってくる程度。要するに、あんまりスリリングではないのだ。

 その代わりに何があるのかというと、それはサンティアゴたちの内面的屈託なのかもしれない。確かに、登場人物たちが軍を退いてからの虚脱感みたいなものは示されていた。だが、あまり印象的ではなく、描写不足と言ってもいいだろう。とはいえ、バックに映し出される南米の大自然には圧倒される。ロケ地はコロンビアとのことだが、まさに目覚ましい美しさだ。

 J・C・チャンダーの演出は平板で、盛り上がる箇所は少ない。ベン・アフレックにオスカー・アイザック、チャーリー・ハナムといった顔ぶれ自体は悪くないが、目立った仕事はしていない。特にアフレックは昨今出演作こそ多いものの、特に成果を上げていないのは辛いところだ。
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「シャフト」

2020-05-22 06:56:20 | 映画の感想(さ行)
 (原題:SHAFT )2019年6月よりNetflixで配信。2000年製作の同名映画の続編で、時制もキッチリとその分経過させているところは良い。出てくる面子も申し分ない。しかしながら、ギャグ方面に振りすぎた分、幾分締まりの無い出来になってしまったのは残念だ。もちろん笑わせるのは結構だが、ディテクティブストーリーらしいキレの良さも強調して欲しかった。

 前回の事件のあと、マフィアの顔役に家族もろとも狙われたニューヨークのハミ出し私立探偵ジョン・シャフトは、妻子を守るため家を出て一人で生きる覚悟を決める。時は経ち、息子のJJは有名大学を出て分析官としてFBIの管理部門に勤務するという、父親とは正反対のエリートコースを歩んでいた。



 ある日、JJの親友カリムが遺体となって発見される。警察は麻薬の過剰摂取による事故として片付けるが、納得出来ないJJは単独で捜査を開始する。しかし、この事件の裏にはいろいろとヤバい連中が絡んでいることが分かり、銃と暴力が嫌いなJJは踏み込んで調べられない。そこで、子供の頃に別れて以来一度も会ったことがなかった父親に、やむを得ず協力を依頼する。

 離れて暮らす父ジョンが、息子の誕生日にいろいろとヘンなものを贈っていたのには笑った。さらにジョンが別れた妻マヤの再婚話にヤキモキして、何かと邪魔をするというのもウケる。全体的に会話のテンポは良く、矢継ぎ早のジョークも万全だ。だが、プロットの組み立ては平凡で驚くような展開はない。敵の正体も、まあ予想が付く。

 アクション場面はスリルよりもお笑いの要素を重視しているようで、さほど盛り上がらない。クライマックスもジョンの父親まで登場して3世代のシャフトが揃って大暴れするのかと思ったら、ベタなズッコケ場面が先行して鼻白むことになる。ティム・ストーリーの演出は前作のジョン・シングルトンほどの力量は無く、軽く流している印象を受ける。

 とはいえ、ジョンを演じるサミュエル・L・ジャクソンが画面の中心に腰を下ろすと、何となく映画としてサマになってしまうのだ。JJ役のジェシー・T・アッシャーは悪くないし、マヤに扮するレジーナ・ホールはシッカリとした演技力でドラマを支える。さらにはジョン・シャフト・シニア役のリチャード・ラウンドトゥリーは、何とこのシリーズの第一作「黒いジャガー」(71年)に主演しており、けっこう感慨深いものがある。もちろん、あの有名なテーマ曲も挿入されており、あまり難しいことを考えずに気楽に向き合うには適当なシャシンかもしれない。
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「タイラー・レイク 命の奪還」

2020-05-18 06:51:05 | 映画の感想(た行)

 (原題:EXTRACTION)2020年4月よりNetflixで配信。かなり楽しめるバイオレンス・アクション巨編で、どうしてこれがネット配信のみなのか理解しがたい。映画館のスクリーンで対峙したかったシャシンだ。「アベンジャーズ」シリーズでお馴染みのクリス・ヘムズワースとしても、当たり役の一つになることは必至だろう。

 主人公のタイラー・レイクは、数々の修羅場を乗り越えてきた傭兵だ。今は裏社会からの危険な任務を請け負っている彼は、インドのムンバイを根城にしているマフィアのボスの息子である中学生のオヴィを救出するという仕事を引き受ける。オヴィを誘拐したのはバングラデシュの麻薬組織の親玉アミールで、タイラーは早速ダッカにある敵のアジトに向かう。無事にオヴィを連れ出すことに成功したタイラーだが、アミールは町のギャング共はもちろん軍や警察も牛耳っており、雲霞の如く押し寄せる敵の大軍の攻撃に晒される。ジョー・ルッソ(脚本も担当)によるグラフィック・ノベルの映画化だ。

 正直言って、タイラーの内面は深くは描かれていない。彼の仲間の正体も不明だ。大きな屈託があって傭兵になったことは窺われるが、その背景は示されず、身体中に刻まれた傷が彼の過酷な人生を暗示しているだけだ。しかし、本作ではそれが大きな欠点にはならない。まさにアクションがキャラクターを語るというか、主人公のニヒルな表情と程度を知らない大暴れが、タイラーの存在感を画面上に叩き付ける。

 観る者をアクションでねじ伏せてしまう思い切りの良さが、存分にアピールしている。とにかくタイラーの仲間とオヴィ、そして途中から味方に付くサジュ以外は、出てくる連中は全て敵なのだ。殺しても殺しても、次々と敵は湧いて出てくる。それでもめげずに卓越した身体能力で相手をなぎ倒してゆくタイラーの頼もしさに、驚き呆れるしかない(笑)。

 活劇の段取りはそれぞれよく考えられており、特に激しいアクション場面が連続するにも関わらず、カメラワークは長回しを多用するという大胆さには唸ってしまった。これがデビュー作になるサム・ハーグレイブ監督の仕事ぶりはパワフルそのもので、最初から最後まで弛緩することはない。

 ヘムズワース以外のキャストでは、傭兵の女リーダーを演じるゴルシフテ・ファラハニが相変わらずの美貌を披露して好印象。ランディープ・フーダーやデイヴィッド・ハーバー、パンカジ・トリパティといった脇の面子も良い。ダッカの街の遠景も魅力的だ。続編製作決定とのことで、楽しみに待ちたい。
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「鉛の時代」

2020-05-17 06:57:40 | 映画の感想(な行)
 (原題:Die Bleierne Zeit )81年西ドイツ作品。題名通り、暗く重々しいタッチの映画だが、力強い内容で惹き付けられてしまう。戦争の後遺症から抜け出せず、先の見えない70年代までのドイツの状況を活写しながら、次の時代に託すメッセージをも感じさせる。第38回ヴェネツィア国際映画祭にて大賞を獲得しているが、それも納得だ。

 ユリアンネとマリアンネの姉妹は戦時中に牧師の家庭に生まれ、鉛の時代といわれた1950年代を経て、次第に社会に対する疑問を持つようになる。長じてマリアンネはテロリストのグループに入り、実力行使によって社会を変えようとする。一方ユリアンネは、女性雑誌の編集委員として働いていた。70年代になりドイツ赤軍と当局側との対立が増す中、マリアンネは逮捕され獄中死する。



 自殺とされていたが、その発表に疑問を抱いたユリアンネは、妹が残した息子を引き取ると共に、死因を究明し始める。77年に獄中で没した過激派のメンバーであるグードルーン・エンスリンと、その姉でジャーナリストのクリスチーネ・エンスリンをモデルにした実録物だ。

 本作は、マリアンネとその仲間たちの政治的主張や、当局側の思惑などのポリティカルなモチーフは扱っていない。性格は違うが仲の良かった姉妹が決別し、妹の死後にやっと姉はその背景を知るという、つまりは社会体制が人間関係を蝕む様子こそがこの映画の眼目だ。マリアンネは自身の“戦い”のみが正当性を持つと信じ込み、それに与しない周囲の状況の方が間違いだと思っている。

 言うまでもなくそんな考え方は真実ではないが、幼少時からの体験とそれを強いた社会状況が彼女の主張の背景にある。皮肉にも、その構図をユリアンネが知るのは妹が死んでからだ。そうじゃなかったら、姉にとってマリアンネは頑迷な反社会分子としか思っていなかっただろう。姉妹の思いはマリアンネの遺児の世代に受け継がれ、やがて(映画製作当時は誰も予想していなかった)89年の冷戦終結へと繋がっていく。

 マルガレーテ・フォン・トロッタの演出は曖昧な部分が無く、テーマに対してストレートに切り込んでゆく。彼女にとっては「三人姉妹」(88年)と並ぶ代表作だと思う。主役のユタ・ランペとバーバラ・スコヴァは好演。フランツ・ラートのカメラワーク、ニコラス・エコノモウの音楽、共に及第点である。
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「不能犯」

2020-05-16 06:55:21 | 映画の感想(は行)
 2018年作品。若年層向けのホラー作品を多数手掛けている白石晃士監督の作品を初めて観たわけだが、なるほど決して重くならずにテンポ良く話を進め、後味サッパリと仕上げるという、ある種“職人気質”みたいな持ち味で登板回数が多いのも頷けた。出来自体はとても真っ向から批評するようなレベルではないが、これはこれで割り切って観れば良いのではないかと思う。

 ある電話ボックスに殺してほしい人間の名前とその理由を書いた紙を貼り付けると、ナゾの男がその依頼を引き受けてくれるという噂話がネット上で飛び交っていた。そんな折、都内では変死事件が連続して発生し、現場では必ず黒スーツの男が目撃される。宇相吹正と名乗るその男は、赤く光る目で見つめるだけで相手を死に追いやることが出来た。



 ある一件で宇相吹は所轄の警察に拘束されるが、取り調べに当たった刑事をその“能力”で殺害した後、姿を消す。ところが署員の一人である多田友子に対しては、宇相吹の“能力”は通用せず、彼女は身を挺して宇相吹を追う。一方、町では爆弾テロが続発し、友子たちはそちらの捜査にも当たらなければならなかった。宮月新と神崎裕也による同名コミックの映画化だ。

 まず、宇相吹に“仕事”を依頼する者たちの思慮の浅さに脱力する。挙動不審な町内会長を事情も知らずに消そうと思った男や、一度冷たく扱われただけで姉に対して殺意を抱く妹、仕事の出来る後輩を妬ましく思っている奴、いずれも動機が軽すぎて説得力が無い。宇相吹は傷つけば血も出る生身の人間のはずだが、普段何をやっているのか想像が付かない。爆弾魔の存在はまあ興味深いが、終盤に正体を現すそいつの造型はただの“中二病”だ。

 そもそも、出てくる捜査員がまったく警察官に見えないのには参った。お手軽なテレビの刑事物だったら許されるのかもしれないが、スクリーン上では辛いものがある。ただ、ストレス無くドラマが展開していく点は認めて良い。宇相吹の手口はけっこう面白いし、さらに彼に“仕事”を依頼した者はたいてい破滅していくという設定は悪くない。このノリで行けば続編をいくらでも作れそうだ。

 宇相吹に扮する松坂桃李は笑ってしまうような大芝居だが、このぐらいのハッタリは許容範囲内だろう。対して、友子役の沢尻エリカの演技はヒドい。表情もセリフ回しも一本調子だ。例の一件により今は彼女は芸能界から遠ざかってしまったが、日本映画界にとってはそれで良かったとも言えよう。

 また新田真剣佑に間宮祥太朗、真野恵里菜、芦名星、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍と脇はそこそこの面子が揃っているためか、ドラマが大きく崩壊することはない。白石監督のスムーズな仕事ぶりも含めて、時間があれば観ても良いという水準には達している。
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