元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラブ&モンスターズ」

2021-07-31 06:25:38 | 映画の感想(ら行)

 (原題:LOVE AND MONSTERS )2021年4月よりNetflixより配信。他愛の無いSFサバイバルスリラーだとは思うが、上手く作ってあり最後まで飽きさせない。また、困難を乗り越えて主人公が成長してゆくというビルドゥングスロマン的な興趣もあり、話が表層的にならないのも好印象。

 近未来、地球に衝突しようとした小惑星をミサイルで破壊した際に、有害な化学物質が地上に降り注ぎ、小動物の遺伝子に影響を与えた結果、巨大化したモンスターが大量に出現。そいつらは人間を襲い始め、7年後には人類の大半が死に絶え、運よく生き残った者たちは地下シェルターで生活せざるを得なくなる。その中の一人ジョエルは、無線を通じて恋人のエイミーが別の避難所で生存していることを知る。彼女に会いたい一心で、彼はモンスターが跳梁跋扈する地上に出て、遠く離れた場所にいるエイミーのもとに向かうのだった。

 ジョエルは絵に描いたようなヘタレ野郎で、エイミーと離ればなれになって長い時間が経過しているにも関わらず、再会すればまた昔の関係を取り戻せると信じて疑わない。ただ、その一途な思い込みが彼を冒険に駆り立てるのだから、結果オーライである(笑)。道中ではタフなサバイバーたちに出会ったり、犬のボーイ(好演!)と行動を共にしたりと、的確なモチーフが付与される。

 そしてもちろん、モンスターたちの襲撃もてんこ盛りだ。こいつらは確かに不気味なのだが、見た目がどこか古い特撮映画のようなテイストが感じられて悪くない。苦難の果てに彼はエイミーと会うことが出来るのだが、それからの展開が切ない。ただ、そんな感傷に浸っているヒマは無く、新たなバトルに身を投じるという筋書きは(定番ながら)申し分ない。

 マイケル・マシューズの演出はテンポが良く、ドラマが停滞しない。アクション場面も段取りは万全で、繰り出されるアイデアは非凡だ。また、過去の諸作のネタが挿入されているのも嬉しい。主演のディラン・オブライエンは、一見頼りないがピンチになると力を発揮するという、好ましいキャラクターを上手く演じている。

 ヒロインのジェシカ・ヘンウィックが東洋系だったのには少し驚いたが、昨今のアメリカ映画ではよくあるパターンなのだろう。マイケル・ルーカーにダン・ユーイングといった脇の面子も良く機能している。しかしながら、この手の映画は劇場のスクリーンで対峙したいというのが本音。ネット配信だけになったのは残念だ。
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「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」

2021-07-30 06:13:57 | 映画の感想(か行)

 (原題:GUNDERMANN)分かりにくい映画だ。たぶんその理由は2つある。一つは観る側がドイツの戦後史に関して疎いこと。これは私だけではなく、多くの日本の観客も同様だと思う。東ドイツの秘密警察(シュタージ)の存在は知ってはいても、その具体的な活動内容となると、考えが及ばない。二つ目は、映画自体が分かりにくい構成を取っていること。本国の観客にとっては問題ないのかもしれないが、ヨソの国の人間としては辛いものがある。

 ベルリンの壁崩壊に先立つ80年代。褐炭採掘場でパワーショベルを運転するゲアハルト・グンダーマンは、シンガー・ソングライターとしての顔も持っていた。彼は仕事が終わると、自作の曲をステージ上で仲間と共に披露していた。彼のパフォーマンスは評判を呼び、ボブ・ディランのドイツ公演の前座を務めるほどになった。ところが90年の東西ドイツ統一後、自身も友人もいつの間にかシュタージに協力していたということが発覚し、波紋を呼ぶ。本国での評価は上々で、2019年のドイツ映画賞(独アカデミー賞)で6部門を獲得している。

 シュタージが介在した数多くの案件において、加害者と被害者との関係性がよく分からない。どういう者たちがどのような理由で密告に及んだのか、映画はほとんど説明しない。さらに、加害側のプロフィールは明らかにされているのに、被害者のリストは非開示という事情も詳説されない。また、映画は80年代初頭と90年代のパートに分かれているが、それぞれがランダムに配置されているので、観る側としては戸惑うばかりだ。

 しかも、登場人物たちが年を重ねているように見えないのだから、さらに混乱する。たぶん本国では大道具・小道具の選択と配置等によって時制の移動は十二分に提示されているのだと思うが、観ているこちらは首を捻るしかない。

 また、グンダーマンがその名を知られるようになったプロセスに関しても明らかにされていない。彼は炭鉱労働者でしかなく、最後までアーティストとしての凄味を出すことは無いのだ。また、肝心の楽曲も“悪くはないが、特に良くもない”というレベルで、求心力に欠ける。結局、印象に残ったのは主人公が働く露天掘り炭鉱の荒涼とした風景と、そこで稼働している巨大な重機類の存在感ぐらいだ。

 アンドレアス・ドレーゼンの演出は堅実とも言えるが、くだんの時制の不規則進行により、あまり良い点は付けられない。主演のアレクサンダー・シェアーをはじめ、アンナ・ウィンターベルガー、アクセル・プラール、トルステン・メルテンといったキャストも、それほどの存在感は無い。
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「キャラクター」

2021-07-05 06:33:26 | 映画の感想(か行)

 食い足りない箇所はけっこうあるが、最後まで飽きずに観ることが出来た。これはひとえに(文字通りの)キャラクターの造型に尽きる。登場人物に存在感を持たせれば、作劇面での瑕疵はある程度は相殺するのは可能だ。さらに、ケレン味の強いネタを扱っているわりには演出は正攻法である点も申し分ない。

 有名漫画家のアシスタントである山城圭吾は、独立して連載を持つことを目指していたが、出版社に原稿を持ち込んでも良い返事をもらえない。才能の限界を感じていた折、山城は背景画のスケッチに出掛けた住宅地で一家惨殺事件とその犯人を目撃してしまう。警察の取り調べに“犯人の顔は見ていない”と嘘をついた彼だが、一方でその犯人をモデルにしたサスペンス漫画を描き始め、それが大ヒットする。

 そんな中、漫画の内容とそっくりな殺人事件が次々と発生。そして真犯人の両角は山城に接触し、一連の事件は2人の“共作”であると嘯くのであった。小説やコミックの映画化ではなく、長崎尚志による脚本はオリジナルだ。

 犯人が使用する凶器はナイフだが、それ一本で一度に多人数を片付けるのはどう考えても無理だ。しかも、両角は死体をすべて移動させるというハードルの高い重労働を自身に課している。そもそも、犯人の背景がハッキリと描かれていない。山城の父親は再婚しており、母親と妹とは血が繋がっていない。ところが、この家族は何の躊躇もなく危険な“おとり捜査”に協力する。そしてクライマックスの山城の言動も納得出来るものではない。

 しかしながら、監督の永井聡はテンポ良く各モチーフを処理してゆく。サスペンスの盛り上げ方も悪くない。そして山城と両角の描写は出色で、付かず離れずの丁々発止のやり取りは、けっこう見せる。さらに事件を追う刑事と、山城の妻の造型も浮ついたものにはなっていない。

 山城に扮する菅田将暉は真面目さとニューロティックなテイストを併せ持った人物像をうまく表現していた。両角役のFukase(映画初出演)はちょっと童顔過ぎるが(笑)、不気味さは出ていた。高畑充希に中村獅童、小栗旬といった他のキャストも十分に機能している。また、直接的な残虐描写は抑え気味なので、幅広い客層にアピールしそうだ。
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マイケル・クライトン「恐怖の存在」

2021-07-04 06:18:07 | 読書感想文
 初版発行は2004年。著者は「ジュラシック・パーク」や「ディスクロージャー」などで知られるが、本作もスケールの大きなアドベンチャー物として評判になったらしい。ただし個人的な感想としては、冒険小説としては大したことがないと思う。少なくとも「ジュラシック・パーク」や「アンドロメダ病原体」には及ばない。しかし、一種の啓蒙書としては大いに価値がある。その意味では、読んで損の無い本だ。

 2003年、南太平洋のシェパード諸島に位置するバヌアツ共和国が、地球温暖化による海位上昇によって国土が水没する危険性があるとして、CO2を大量に排出しているアメリカを相手に訴訟を起こす。この訴訟のバックには環境保護団体の米国環境資源基金(NERF)が控えており、その親玉は大富豪のジョージ・モートンだ。彼は裏で環境テロリストと結び付いており、また自身の金儲けのため人為的に自然災害を起こそうと画策していた。モートンの顧問弁護士エヴァンズと秘書のサラ、大学教授のケナーらは、この陰謀を阻止するため決死の戦いに身を投じる。



 エヴァンズたちと環境テロリスト組織とのバトルは、大して面白くはない。描き方が散漫で緊張感に欠ける。キャラクターの掘り下げも浅い。映画に例えれば、ローランド・エメリッヒやマイケル・ベイの監督作みたいなものだ(笑)。しかしながら、前半に散りばめられた環境保護派の主張に対する反論の数々は、かなり興味深い。特に、地球温暖化の議論を欺瞞だと断じるあたりは、読んでいて思わずニヤリだ。

 もちろん、本書に展開されている“反エコロジー”のロジックがすべて正しいというわけではない。事実、この本の出版後に専門家筋から批判的な論評が相次いでいる。地球温暖化がデタラメだろうが何であろうが、環境破壊は断固として阻止しなければならないのだ。

 クライトンの作品は何度も映画化されているが、本作に限ってはそれも難しいだろう。ただし、トレンドに安易に乗っかることの危険性を指摘している点は、評価したい。世の中がひとつの方向に大きく振れた時にこそ、冷静な分析と思考が必要なのである。
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「Mr.ノーバディ」

2021-07-03 06:21:53 | 映画の感想(英数)

 (原題:NOBODY)とても楽しい1時間半だった(笑)。もっとも、活劇物としての筋書きには目新しさは無い。予定通りに粛々と進んでゆくだけだが、その中に常軌を逸したキャラクターを放り込むことにより、目覚ましい求心力を発揮させている。作劇のテンポやアクション場面の段取りも申し分なく、観て損の無い快作と言える。

 主人公ハッチ・マンセルは、ロスアンジェルス郊外の自宅と勤務先の工場を往復するだけの日々を送る、地味な中年男だ。ゴミを出し忘れたり、妻から軽く見られたりと、その生活はあまり快適ではないように見える。ある日、マンセル家に強盗が押し入る。ハッチはその気になれば撃退出来たが、実力行使には踏み切れず、犯人を逃がしてしまう。

 そんな彼の態度に家族はガッカリするが、ハッチ自身も自己嫌悪に陥り、その腹いせに路線バスで狼藉三昧のチンピラどもを信じられない体術で半殺しの目に遭わせる。実はハッチはかつて“その筋”の大物エージェントであり、今は過去を封印して平凡な市民として暮らしていたのだ。彼がブチのめしたチンピラの一人がロシアン・マフィアのボスの身内であったことから、逆恨みした組織の悪党軍団が大挙してハッチとその家族に襲い掛かってくる。

 一見普通のオッサンが、怒らせたら手が付けられなくなる奴だったという設定のドラマは過去にいくらでもある。例を挙げれば、スタローン御大の「ランボー」シリーズとか、セガール御大の「沈黙」シリーズ、デンゼル・ワシントンの「イコライザー」やトム・クルーズの「ジャック・リーチャー」シリーズなど、枚挙に暇が無い。

 しかしながら彼らは、出来るならば暴力に訴えたくないとは思っており、それが成り行き上暴れ回るハメになるという案配だった。しかし本作の主人公は、密かに機会さえあれば暴れたいと熱望しているあたりが、実にヤバい。マフィアとのいざこざは口実に過ぎず、容赦ない殺戮の嵐に喜悦の表情を見せる。

 ヘタすればサイコ・サスペンスになりそうな御膳立てだが、ハッチ自身には得がたいユーモアのセンスがあり、また相手が殺されても仕方が無いような連中なので、陰惨さは控え目でカラッとした明るさが全編を覆う。しかも、妻はそんな彼の“素性”を知った上で結婚したというのだから、呆れつつも笑ってしまった。イリヤ・ナイシュラーの演出は活劇場面に手腕が発揮され、弛緩することなく見せきっている。

 主演のボブ・オデンカークはあまり知らない俳優だが、昔の渋くて男臭いアクションスターを思わせて好印象。妻役のコニー・ニールセンや、敵役のアレクセイ・セレブリャコフも良い味を出している。そしてハッチの父親を演じるクリストファー・ロイドは、久々に水を得た魚のような活躍を見せる。とにかく、沈んだ日常を一時でも忘れさせてくれるような快作で、アクション好きには無条件で奨められるシャシンだ。
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「浪人街」

2021-07-02 06:33:33 | 映画の感想(ら行)
 90年作品。どう考えても、ATG出身の黒木和雄監督に斯様な娯楽時代劇を撮らせるのは、適切とは思えない。案の定、要領を得ない出来に終わっている。もっと相応しい人材がいたはずだが、プロデューサーにはそういう考えが無かったらしい。キャストは豪華だが、うまく機能していない。

 江戸下町において夜鷹が次々に斬られるという事件が起こる。この街で用心棒をしている赤牛弥五右衛門や荒牧源内、そして母衣権兵衛らは犯人を突き止めるべく、おとり作戦を敢行。見事に下手人を成敗したと思われたが、連続殺人はまだ続いている。実はこの事件は、旗本の小幡一党による集団的な狼藉であった。恋人のお新にも魔の手が迫ってきたことに憤慨した源内は、100人以上もの小幡一味に対して戦いを挑む。また、権兵衛たち他の浪人たちも助太刀に駆けつけるのであった。昭和3年にマキノ正博が監督した「浪人街 第一話 美しき獲物」のリメイクだ。

 マキノ版は観ていないし、本作がどの程度元ネタを反映させているのか分からないが、チャンバラ物としては気勢が上がらないのは確かだ。好き勝手に振る舞っていたアウトローたちが、大義のために一致団結して敵と対峙するという筋書きはよくあるパターンで、ちゃんと作ってもらえればそれなりに盛り上がるものだが、本作はそうではない。

 とにかく、浪人たちの心意気がまったく伝わってこないのである。源内を除けば、皆なんとなく戦いに加わっているようだし、各人が抱えているはずの熱いパッションも、どこにも見当たらない。そして、活劇場面の低調さは致命的だ。終盤、画面上では十数分にも及ぶ乱闘が展開されるが、大殺陣と形容できるダイナミズムは見出せず、チャンバラとしての“型”はあるものの段取りが悪いため、迫力が出ない。

 各剣客が登場するタイミングも悪く、鼻白むばかり。やっぱりこのネタは黒木監督には無理だと思う。深作欣二や工藤栄一あたりに任せた方が、もっと面白い映画になったはずだ。原田芳雄に田中邦衛、勝新太郎、樋口可南子、石橋蓮司、中尾彬、佐藤慶、杉田かおるなど、配役は多彩だが、それぞれ持ち味を十分出していたとは言い難い。印象的だったのは松村禎三による音楽ぐらいだ。
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