青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

木曽三川の風に吹かれて。

2023年11月09日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(夜のホームに一人@美濃山崎駅)

一応は養老鉄道のフリー乗車券を購入したものの、揖斐に行って帰ってくるくらいでまだ半分も権利行使をしていなかったこの日。夕方の入浴を海津温泉(しょっぱくてよく温まります)で済ませた後、ちょっと一往復電車に揺られてみることにしました。やって来たのはパークアンドライドが出来る美濃山崎の駅。駐車場にクルマを置いて、灯りも乏しい静かな集落の端にある暗がりのホームに立つと、揖斐川を渡って来た秋の夜風がスゥーっとレールの上を吹き抜けて行きます。

美濃山崎駅の夜。この辺りは駅間距離が長いので、けっこう交換シーンのある駅です。桑名方面行はモ601を先頭にするトップナンバー編成。モ601を始めとする近鉄(養老)600系シリーズは、元々は本線筋で使われていたラッシュ時の増結車を支線用の編成に小さくまとめて転用改造したグループで、何を隠そう(隠してないけど)近畿車両にて昭和39年製造の1600系に遡るのだそうな。現在の養老鉄道、元近鉄の500系・600系グループと東急からやって来た7700系のグループに分かれてはおりますが、近鉄組も東急組もともに昭和38~41年製造ときっちり昭和40年(1965年)前後の車両でまとまっており、平均車齢は60年程度。おそらく同じ東急7000系列を使用している弘南鉄道と並んで、路面電車を除けば日本一平均車齢の高い鉄道路線なんじゃないかなあ・・・さすが養老・・・(四国の「ことでん」とかもいい勝負してますかね)。

夜の養老線。美濃山崎から乗った桑名行きの電車には誰も乗っていなくて・・・うん、夜の地方ローカル私鉄なんてこんなもんか感は確かにあるけど、養老線はこの大垣経済圏と桑名経済圏に向かう流動から外れた旧南濃町の部分が非常に厳しいのです。これは前回乗った時も同じでしたね。この旧南濃町の辺りって、大垣も遠い、桑名も遠いという感じの農村地帯ですが、この辺りの人は木曽三川を渡って海津市を通り抜け、愛西市とか稲沢市の西側のあたりの経済圏と関わってるんじゃないかと思うのですよね。鉄道の敷設されてる方向が人の流れに合ってない。ここらへんの不幸な感じ、なんとなく長電の屋代線沿線の雰囲気に近い。屋代線も、沿線住民が千曲川渡って長野市街に出る流動に路線が合わなくなってしまった不幸があるのでねえ。そんなこんなを考えながら、一駅一駅人のいないホームを辿って行く。

角型の尾灯が余計にクラシカルな印象を受ける桑名行きの近鉄電車は、濃い臙脂の入ったシンプルな近鉄マルーン。この色は「ひのとり」に採用されて一躍脚光を浴びましたが、普段使いでは地味な感じでむしろやや野暮ったさすら感じる色ではあります。夜の下野代の駅での交換待ち。大垣行きの到着を待つ静かな駅に、近鉄車の奏でる静かな機械音だけが聞こえる空間に、思わずホームに出て体を伸ばしたりする。地方私鉄の存続のためにお客さんは乗っていて欲しいけど、かといって地方私鉄に求めているのはこういう時間を愛でる事だったりする訳で、とかく鉄道ファンは色々と注文がうるさいものだ。

秋の一日を楽しんだ養老鉄道の旅。近郊電車然とした揖斐~大垣~美濃高田、長閑な田園地帯に山並み迫る養老~駒野、ゆったりと天井川をくぐりながら揖斐川沿いの街を下って行く駒野~桑名。揖斐から桑名まで57.5kmは、決してカメラマンが押し寄せるような絶景が続いている訳でもなく、耳目を集める車両が揃っている訳でもありませんが、いつ行っても落ち着いた趣のある地方ローカル私鉄の雰囲気を楽しめる、乗りごたえのある路線だと思います。

ホームに続く通路に沿って咲く彼岸花と、近鉄マルーンがその色を競っていた美濃山崎の夜です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南濃、街並み、営み。

2023年11月07日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(水神様の社の前を@大外羽~友江間)

西日薄く迫る大垣の街外れ、田園地帯の鎮守の森を横目に走る東急7700。「水神社」と言う名前の神社がこの辺りにはそこかしこにあって、まっこと稲作に大切なのは水と言うことになりましょうか。方々を旅していると、どこの田園地帯にもまっ平らな稲穂の波の中にポッコリと木々に包まれたお社様があって、作物の豊かな実りが祈念されているのだけど、この地方だとまずはという万物をつかさどる「水」への思いが先に来るようだ。もちろん、農業において「降る時に降り、照る時は照る」ことは非常に大事なファクターなのだけど、それ以上に生活の基盤が水から守られていること=治水への思いが強いのではないか。

宵闇に紛れる鎮守の森。こちらは石津駅隣の杉生神社。こんな雰囲気の、失礼を承知で言えば日本中どこにでもあるような神社でも創建800年を超えるという由緒を持つという。参道の中を養老線の線路が横切っている。この手の「参道&鳥居&お社」という組み合わせは、夏の出雲でもさんざっぱらやってしまったのでアングル的には食傷気味かもしれません(笑)。ですが、この長年続けているローカル私鉄を巡る旅の中で、やはり集落の人の暮らしと営みを支えるのは、糧としての農であり、漁であり、食であり、そして祈りであると思うのですよね。

秋の祭礼を控えて、提灯の下がる参道を抜けて行く近鉄電車。
集落の明かり灯る頃、夕餉の匂いとともに。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

揖斐路秋色。

2023年11月05日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(養老名物サイクルトレイン@養老北線車中)

土休日はほぼすべての列車が自転車持ち込み可能になる養老線。取り組みがすっかり定着しているのか、結構利用者がいる。主に沿線の高校生が家から駅→最寄り駅から高校という流れの中で使っているようだ。走行中の電車がそこそこ揺れるので車内の安全にはご注意と言う感じなのだが、気にも留めずぞんざいにロングシートへ身を投げ出す高校生たち。

午後ののんびりした空気、養老北線を走るラビットカー。ビュンと走り抜けるオレンジの風に、線路端のコスモスも揺れる。養老北線の大垣~揖斐間は、ラッシュだと20分間隔で走ってたりしますし、沿線は案外と住宅も建ち並んでいて、南線のそれとは違った郊外電車の趣がある。池野あたりでギリギリ名駅から一時間くらいだろうか。関東だと電車で一時間くらいって十分通勤圏なんだけど、超ド級のクルマ社会である中京圏だとどうなんでしょうね。電車で一時間なんてかったるくて通勤してらんないかな。

養老北線の終着・揖斐駅。以前は広い構内を持っていたと思しき草むらの跡。近鉄養老線の揖斐駅は揖斐川町の南の外れにあるのに対し、名鉄が岐阜市内から黒野を通って線路を伸ばしていた名鉄揖斐線は、川向こうの揖斐川町中心部まで向かっていました。平成中期の名鉄の大リストラ(岐阜市内600V線区全廃、揖斐・谷汲線全廃)によってその鉄路が消えてしまった今、養老鉄道は揖斐川町へアクセスする唯一の鉄道路線となりましたが、中心部までは僅かな本数の町のコミュニティバスが結んでいます。

何の気なしにダイヤを眺めながら降りたり乗ったり、陽だまりの東赤坂で揖斐行きのラビットカーと交換。オレンジのボディを見送る親子連れと、西濃の秋が緩やかに過ぎて行きます。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

水都大垣、伝統の涼味。

2023年11月03日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(元祖金蝶製菓總本家@JR大垣駅前)

養老鉄道の楽しみ。それは近鉄の残党のレトロな電車だったり、「養老焼肉街道」こと薩摩カイコウズ街道の焼肉だったりする訳ですけど、それと並んで大垣駅前の和菓子の名店「金蝶園の水まんじゅう」も、来たからには味わっておきたい水都・大垣の逸品。何年か前にも養老鉄道に親子で乗りに来た時に食べた金蝶園の水まんじゅう。あの時は真夏だったけど、10月までやってたっけ?一応水まんじゅうって夏の食い物だし、外はまだまだ暑いのだけど、どうなのかな。

いつもだったら、駅前通りに面した外売りのカウンターで水を流しながら涼味たっぷりに売るのが金蝶園の水まんじゅうですが、この日は水こそ流れていたものの売り場に人の姿はなし。店内の売り場で尋ねたら、今日はもうこしあんの水まんじゅうしか残っていないとのこと・・・と言うことで、定番の金蝶園の水まんじゅう&冷茶セット。クラッシュアイスに浮かべた水まんじゅう、通常時は赤・緑・茶色の三色のあんの組み合わせになっているのですが、かような都合により今日は阪急マルーン一色。それでも、プルプルとあんこ周りを包む葛粉の吸いつくようなモチモチ感は官能的な食感で、変わらぬ美味しさなのであります。

甘いものを入れて駅に戻ると、午前中は養老南線で運用に入っていたラビットカーが午後は北線の運用に投入されていた。今度は揖斐行き。養老線はスイッチバックの大垣駅を境にバタッと運用は分断されているため、揖斐方面から桑名方面に直通する列車はありません。このスイッチバックで系統分離がされているのって、身近な例で言えば東武野田線における柏なんだけど、一応野田線も柏でスイッチバックして通しで走る列車もあったりはするんですよね。

午前中は撮ったので、ひとまずラビットカーに乗って揖斐方面へ。窓の外を眺めると、西濃のウサギの横を、カンガルーの西濃が通り過ぎて行った。最近、地方の鉄道路線はクマやらシカやらイノシシやらとの衝突が大問題になっていますが、どうやらこの辺り、レールの上を走る動物が多すぎるようです(笑)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業路線の面影。

2023年11月01日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(養老の「実務面の」顔@西大垣駅)

養老鉄道の「顔」が養老駅なら、「実務上の顔」なのが西大垣駅。車庫への出入と乗務員交替のため、大垣~西大垣間の1駅だけの区間運転も多数行われます。駅前には日本有数の電子回路の基板製造を担う電子機器メーカー、イビデンの本社工場がありますが、イビデンも養老鉄道もルーツを辿ると「揖斐川水力電気」という電力会社を基にした同門の企業です。

桑名方に向かって左側にある養老鉄道の乗務区と西大垣駅本屋。相対式ホーム2面の真ん中に中線が入っていて、ここで大垣駅から一旦引き上げた編成が小休止したりしているシーンを見ることが出来ます。この中線は、かつては貨物列車が旅客列車を退避するために使用されたもので、かつては貨物輸送の盛んだった往時の養老線の姿を今に留めるもの、と言えましょうか。

昭和30年代に近鉄の名古屋線は改軌され、1435mmの広軌となった近鉄名古屋線ですが、養老線は、西大垣や美濃青柳のイビデン、駒野の紡績工場、桑名の住友セメントと国鉄との貨車の連絡輸送を長い間続けていた産業路線という役割もあり、改軌の対象にはなりませんでした。これは、道明寺線で国鉄との貨物受け渡しで繋がっていた河陽鉄道を始めとする大阪鉄道(現在の近鉄南大阪線)のグループと同じで、同様の理由で車両も近鉄南大阪線系統の車両を多く受け入れることになります。

養老鉄道、有人駅では必ず列車別改札と入線列車に対するホーム監視を欠かさない。ワンマンとはいえ全扉乗降なので、降車客の検札と言う意味も持っているようですが。現在は近鉄の本体とは切り離され、周辺自治体と「養老線管理機構」により運営されている養老線ですが、そこかしこの設備や職員の振る舞いなどには、かつての大私鉄・近鉄時代の残滓を見ているようでもあります。

「肉フェス」対応の大垣~養老間の臨時電車。この駅での交換がない場合は、大垣行きも桑名方面行きも駅本屋側の1番ホームに付ける様子。さっき養老駅で見かけたシナモロール号。行先表示板が下がっているところにも、シナモロールちゃんが掲示されています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする