青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

津軽の生ける産業遺産

2019年02月28日 17時00分00秒 | 弘南鉄道

(異形ノモノ、降臨ス。@石川駅)

石川プール前で直線をかっ飛んで行ったラッセル(思ったより速かった)を追い掛けて、石川の駅にやって来ました。ここは交換駅なので、構内除雪と上下列車の待避が行われます。まずは下り線の除雪のため、大鰐方面行ホームに逆線進入したキ105。オデコの一つ目ヘッドライト、二つの旋回窓が完全に目玉のよう。鼻筋の通ったラッセル板と連結器の口があって、ハッキリと意思を持った生き物に見えます。

 

大鰐方面のホームで小休止するキ105。係員の方が降りて来て、なにやら点検作業。雪を削り取る先頭のフランジャーだけでなく、側面には雪を線路脇に飛ばすウイングが付いていますので、その点検作業でしょうか。もちろんホームに接している時はウイングが開けませんから現在は「閉じ」の状態です。


当たり前のことながらラッセルは定期列車の邪魔は出来ませんので、大鰐線のダイヤのすき間を縫って手短に行われます。JRの特雪みたいに運休かけて昼間の2時間とかやりませんからねえ。あんまり悠長に撮れるトコはないんですが、それでも午前スジで一番停車時間が長いのはここ石川の駅だと思いますのでご参考までに(都合10分くらい停まってたかなあ)。まずは後から来た中央弘前行きに道を譲るキ105&ED221。東急7000も、渋谷と桜木町を走っている時には、こんなセンパイと一緒に仕事するとは思わなんだろうな。

 

ホームに上がり、ラッセルとデキのコンビに接近してみる。ラッセルは、屋根上に魚雷のようなタンクをいくつも載せているのですが、これはウイングやフランジャーをエアーで動かすための空気溜めだそうです。動力は持ちませんが、車内の暖房用に石炭ストーブ(驚)が備えられていて、車体から出る煙には何となくSLチックな香りも。動力役の凸型電機ED221、アメリカのボールドウィン&ウェスチングハウス社製。カニの目のような愛らしい尾灯と、何となしにアメリカンな無骨な鎧戸風ベンチレータ。随分ととんがったスノープロウを履いていますが、カウキャッチャーとか装備したらよりアメリカンな感じで映えそう。


酸いも甘いも噛み分けた、古豪同士のランデブー。色々と流転はしたけれど、きっと二人はここが終の棲家。デキの側面に浮き出たリベット、波打った台枠、剥がれかけては塗り直しの外っ面。歴戦の古傷が、若けぇモンには決して出せない味わいと深みになっていて、大袈裟ではなく見る者の胸を打ちます。斜め後ろから見る複雑な造形美、古代の兵器を思わせる「漆黒ノ異形ノモノ」としか言いようのないキ105。二人で一つの、これぞ津軽の生きた産業遺産。間近に眺めては、その古強者の迫力にただただ圧倒されるばかりなのでありました。
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神様がくれたひととき

2019年02月26日 17時00分00秒 | 弘南鉄道

(カモン!ラッセル!@鯖石~石川プール前間)

大鰐駅でED221のパン上げと出区準備を確認したとあらば、その次に考えなければならないのが、運行されるラッセルをどこで撮ろうかということ。キ105の魅力と言えば、やっぱり鉄仮面の如き前面のフランジャーで豪快に雪を弾き飛ばしていくシーン。そーいうのが撮りたいね!となれば、線路に近付いてカブリツキを撮りたくなるところではある。ただ、跳ねた雪が当たるほど線路に寄っては危険だし、そもそも作業の邪魔。たかだか趣味ごときで現業に迷惑をかけるのは愚の骨頂だからな…と思いを巡らせた結果、ほどよく立ち位置の取れそうな石川プール前駅の南側で構える事にしました。


石川プール前駅から、線路に沿って鯖石方面へ真っ直ぐ伸びる道があって、その途中までは除雪が入っているのをさっき確認していたんだよね。これならどん詰まりまでクルマを入れてしまえば邪魔にもならんかな。その先にもリンゴ畑の中を伸びる道があるのだけれど、除雪が入ってないし農道沿いにある雪の下の用水路でも踏み抜いてしまったら嫌なので、除雪が入っている位置ギリギリまで入って座を構えることにしました。足元の雪をよーく踏み固めてアングル調整、(おそらく)ラッセルの前走りであろう大鰐発8:50の11列車。積もった雪がスノープロウに当たって、なかなか良い雪の飛ばしっぷり。


中央弘前9:00発の12列車。大鰐8:50発の11列車と続行で走るのか…と思わせて待っていましたが、結果としては12列車が大鰐駅に到着した後、9時半ごろにラッセルは大鰐駅を発車した様子です。リンゴ畑の雪原に目を凝らして待っていると、おそらく鯖石の駅で構内除雪をしているのだろうか、入替の汽笛が聞こえてきます。

 

鯖石から石川プール前駅までは一直線。遠くからキ105のライトの灯りと、フランジャーが雪を飛ばすシャー!という音がだんだん大きくなって来て、思わずシャッターに触れる指先に力がこもる。駅の向こうの踏切がラッセルの接近を告げるとまもなく、雪に覆われた路面を鉋で削り出すように、薄氷を巻き立てて迫りくるオールドコンビが、ファインダーの中に飛び込んで来た。鋭角なフロントマスクが描くV字のシュプール!ヤバい!美しい!カッコいい!来て良かったぁ!!(歓喜)。


あわよくば、見れたらいいね、ラッセルを。そんな程度で決めた冬の津軽行き。津軽鉄道のストーブ列車とは違って、天気と積雪とダイヤがかみ合って、初めて拝めるとびっきりのプレミアムトレイン。初訪問の一発目でラッセルに遭遇出来るとは正直思ってなかったんだけどさ。まさかお目にかかれるとはねえ。とりあえず撮り鉄の神様がいらっしゃるとしたら、青森土産のお茶菓子でも持ってご訪問させていたいた上で、深く深く感謝を申し上げたい次第なのであった(笑)。
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雪神様、目覚める

2019年02月25日 17時00分00秒 | 弘南鉄道

(大鰐駅リターンズ@大鰐駅北口)

とりあえずラッセルの具合はどんなもんかいな、ということで再び大鰐駅へ戻って来た。朝方は僅かに朝陽も差した大鰐線界隈でしたが、結局また天気は雪模様。しかも結構な降りっぷりである。大鰐町は津軽平野の南のどん詰まり、この辺りから東北地方の背骨を成す奥羽山脈と白神山地がぶつかって、平川の谷が狭まって来る漏斗のような地形ですから、弘前の市街と比べてもワンランク雪が深いような気がします。土休日は終日無人となってしまう大鰐駅北口、JRのキップでこっち側から降ろしてくれるのかしら。駅裏のマックスバリュで買い物して行きたい人とかいると思うけど。

  

ホームの上屋から垂れ下がる氷柱。そして、JRと大鰐線を結ぶ跨線橋のレトロチックな雰囲気。雪に霞む【弘】【南】【鉄】【道】のパネル看板、割とこの会社は一文字ごとパネルに書いてアピールするの好きですよね。8時の列車が大鰐のホームにゆっくりと滑り込んで、パラパラと乗客が降りて行きます。青いラインを横に二本引いた爽やかなデザインの7031編成。改造顔が混じる弘南線と違って、大鰐線は東急7000の原型顔が揃っているのが魅力の一つでもあります。


先人の撮影記などをもとに情報を探ると、運行のある日は8時くらいから準備を開始するらしいのだが…今のところ動きはありませんね。積雪は十分なんだがなあ。目算でしかないけど、これで運行しないんならいつすんの?というくらいには積もっているのだ。まあ、運行があるなら大鰐駅発8:50の11列車以降になると思われる。ここから列車の運転間隔が1時間おきになって、ラッセル運行のスジが入れやすいからだ。


昨日からの強風に雲の流れは早く、雪は強く降ったり弱まったりと目まぐるしい。大鰐駅の構内をとりあえずウロウロとしながらコトの推移を窺っていると、時刻は8:05、駅舎の横の物置(?)から長靴履きのジャージ姿の男性がスタスタと出て来た。あれ…?とその行方を目で追うと、ホームの先から線路に降りて、ラッセルと電機の置いてある引き込み線に向かっていくではないですか!


男性係員はデッキから機関車ED221の屋根上に登り、やおら竹の長ボウキでパンタグラフ周りの雪を払い落とし始めた。上空には1500Vの架線が張られている中で、足元の不安定な高所作業だが手慣れたものである。どうやらこれでラッセルが動くのは間違いなさそう。ってかこれで動かなかったら泣くぞ(笑)。さすがに確定の赤ランプ、出してもいいんじゃないでしょうか(興奮)。

 

雪落としが終わり、小さな体に大きなパンタグラフを雄々しく掲げて出区準備を整えたED221×キ105。自走のための動力を持たないキ105は、このED221がいなければ動く事は出来ません。車歴を紐解けば1926年(大正15年)製造の元・信濃鉄道1形で、御年92歳の超古豪。古豪のラッセル車として、キ105にどうしてもスポットライトが当たってしまうのですけれど、国鉄苗穂工場で1937年(昭和12年)に製造されたキ105が御年83歳ですから、ED221のほうがキ105よりよっぽど年上なのである。信濃鉄道と言っても信越本線を三セク転換した今のしな鉄のほうじゃなくて、今のJR大糸線の前身(松本~信濃大町間)を開通させた私鉄のことですからお間違えなく。

津軽の鉄路の雪神様は、合わせると175歳のスーパーフルムーン。
出動の準備が整ったようです。
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壮大な夢のあとさき

2019年02月24日 17時00分00秒 | 弘南鉄道

(朝焼けの石川高架橋@石川~義塾高校前間)

石川から義塾高校前の駅にかけて、大鰐線はJRの奥羽本線の上をオーバークロスします。これが石川の高架橋で、大鰐線の中でも最大の構造物。コンクリートの橋脚をトレッスル橋のようにやぐらに組んだ作りで、見た目が少し華奢なのがいかにも地方鉄道らしい。大鰐線の開通は1952(昭和27)年、弘南鉄道とは別会社の、弘前電気鉄道の路線として開業しました。当時の国鉄弘前駅は戦前からの弘前市街を大きく外れた位置にあったため、弘前電気鉄道は「弘前市の中心部へ鉄道を通そう!」という意気込みで、弘前市や三菱電機の全面協力を受けて敷設された路線。雰囲気からもっと昔からある路線のように感じてしまうのですが、意外と新興の路線なんですよね。


ほんの少しの間だけ雪が止み、つかの間の朝焼けに染まった石川の高架橋。大鰐駅に留置されていた朝の二番列車が、コンクリートのトレッスルを渡って行きます。弘前電気鉄道は、僅か11ヶ月の突貫工事で岩木山の西麓を切り拓き、大鰐~中央弘前間を開通させたそうです。弘前電気鉄道は、国鉄の通らない岩木川の西岸に交通路を整備する…という名目で、弘前からさらに五能線の板柳までの延伸を計画していましたが、弘前地域のモータリゼーション化によって思うような収益が上がらず、1970(昭和45)年に弘南鉄道へ経営権を譲渡し清算。津軽平野に描くはずの壮大な夢を果たせぬまま、短い生涯を終えています。


石川~大鰐プール前間の雪原を。弘前・平川・黒石と小さいながらも弘前の都市圏を結ぶ弘南線に比べ、大鰐線の沿線には目立った市町村はなく、大鰐方面から主に弘前市内にある学校や病院への移動手段としての利用が中心。弘前電気鉄道時代から収益が上がらず、弘南鉄道に拾われてからも黒字経営の弘南線におんぶにだっこの大鰐線。直近の試算では年間収支は3000万円の赤字なのだとか…。大鰐から弘前は2駅13分240円のJR、13駅30分430円の大鰐線。どっち使います?という話よね。


もちろん大鰐線サイドとしても手を拱いている訳ではなく、地元密着の路線として駅の新設(義塾高校前・石川プール前)も行っていますし、老人の通院需要も拾おうと医療機関(または温水プール石川)の往復利用の際、病院でハンコ押して貰えば帰りの運賃が100円となる「あんしんパスプラス100」なんて珍しい企画乗車券も売っていたりする。冬なんか、病気のじっちゃんばっちゃんがクルマ運転して病院行くってのも難儀な話だもんね。中央弘前の駅近くには総合病院もいくつかありますし。


ラッシュ時間は30分間隔の運行なので、あまり待たずとも電車が来るので適当にヒマが潰れる。ラッシュと言っても土曜日なので、車内に乗客は疎らなのであるが…大鰐線の中で一番新しい石川プール前の駅を発車する中央弘前行き。弘前市立の石川プールは清掃工場の排熱を利用したスポーツ施設。焼却炉の煙がたなびく空は再び鉛色にどんよりと曇り、雪が舞い落ちて来ました。
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一日一回の逢瀬

2019年02月23日 17時00分00秒 | 弘南鉄道

(朝一番の交換駅@石川駅)

大鰐駅近くのコンビニでサンドイッチを買い、暖かい缶コーヒーとともに喉に流し込みながら、ぼちぼちと大鰐線のロケハン。石川の駅にやって参りました。空は相変わらず鉛色の雪雲が覆う津軽地方ですが、それでもゆっくりと夜が明けて、薄明りの中で大鰐線の一日が始まって行きます。並走するJRの奥羽本線にも石川駅がありますけど、大鰐線の石川駅とはだいぶ離れていて、単純にJRと乗り換えようとするなら隣の義塾高校前の駅の方が全然近い。以前は「新石川」と名乗っていたようですが、なんでわざわざ乗り換え駅と混同しやすいような改称を行ったのかは謎。

  

駅の北側の踏切から石川駅の全景を。駅はリンゴ畑と住宅がほど良くミックスされた半農半住といった感じの場所にあり、島式ホーム1面2線の交換駅。外側に1本保線用の側線があって、バラスト散布用のホキが1両留置されています。始発電車の前ということもあって、レールはすっぽりと雪の下。一晩でだいぶ積もりましたねえ…。かつては有人駅だったのかな、という雰囲気の駅の待合室。近所に保育園や児童館があるためか、子供たち向けの注意書きが目立ちます。駅の構内通路に掲示されている大鰐線名物の死にます看板、何も間違ったことは言っちゃいないのだが、インパクトは抜群。


時刻は6時半。ほどなく踏切が鳴って、大鰐行きの下り始発列車がレールに積もった雪をかき分けながら、ゆっくりと入線して来ました。やはり積もりたての雪はブレーキングに影響するのか、慎重な運転だなあと感じます。よく見ると踏切の脇にレピーター(だよね?)が立ってますけど、後方の2両目がポイントを通過する前に上り線の進行現示を出しちゃうのさすがに早くないですか?(笑)。昨日から弘南鉄道の交換がやったら高速なのは気が付いてたけどさ…どこもこんなもんなの?


一般的に鉄道はクルマと同じく左側通行ですが、石川の駅は右側通行になっています。鉄道車両の運転台は基本左側に付いているので、島式ホームの交換駅では通票(単線区間の通行手形みたいなもんです)の交換の利便性を考慮し、運転台がホーム側に来るようにあえて列車を右側通行にしている駅も地方私鉄では見ない事もない。「通票の交換なんかもうやってないんだから、素直に左側通行に直したらええやないの」と思わなくもないのだけど、ワンマン運転の大鰐線ではドア扱いの際の運転士の確認作業が右側通行の方が楽だし、そもそもスプリングポイントの定位(通常時の進行方向)を変えるのも面倒くさいのかもしれない。


石川駅の交換は、大鰐行きが先に右側の線路に進入して弘前行きを待つ形でしたが、前述の通りせっかちな交換を行う弘南鉄道ではゆっくりと並びのシーンを抑える事は至難の業と言えます。失敗しちゃったなあ…と思ってもリベンジの機会がなかなかないのが辛いところ。なぜなら、現行の大鰐線のダイヤでは石川駅での交換は朝の上下の始発電車が行き交うこのAM6:29の一回こっきりなのだ。↑の待合室の写真の時刻表を見よ。


ってか石川の交換が一日一回しかないの、こっち来る前に手書きで弘南鉄道のスジ引いてて気付いたんだけどね。時間なんかスマホがあればカンタンに分かる時代ではありますけど、割とそーいうところはマメ。ちなみに大鰐線の交換駅は、列車間隔の違いによって以下の5パターンとなっているようです。

1.始発列車は石川
2.2番列車は千年
3.朝ラッシュは(30分間隔)千年、鯖石
4.中央弘前発9:30・大鰐9:50発は鯖石
5.以降は終電まで(40~60分間隔)津軽大沢

ご参考までに。
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