青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

彩色兼備

2019年06月28日 23時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(三色団子が山登り@大平台駅)

引退するサンナナ編成が正調登山線カラーのオレンジバーミリオン&シルバーのロマンスカーカラーでまとめられているのに対し、おそらく最後(?)の旧車群の砦を守る事になるヨンロク編成は、6月初旬に106号が小田原市内線カラーと呼ばれるアイスブルーにレモンイエローのカラーリングに塗り替えられて出場して来ました。ほどなく5月に先行で緑塗装に塗り替えられていた109号と組成され、出来上がったのが104(現行の登山線カラー)+106(小田原市内線カラー)-109(昭和30年代の登山線カラー)という見事なカラフル三色団子。引退のサンナナ編成とともに、登山線強羅開業100周年に花を添える編成となっています。

まともな直線区間の少ない登山線において、編成写真っぽく収めるには貴重な大平台駅入口のストレート。三色団子に組成されたのが2週間ちょっと前くらいだったか、目ざとい登山ファンがこのカラフルでポップな編成をカメラに収めるのを見るたびに、撮りたくてウズウズしておりました。個人的には、真ん中に入っているアイスブルーの小田原市内線カラーを先頭に出して欲しいのだけど、そーすっと登山線の現行カラーが真ん中になってしまうのがあまりよろしくないのだろうか。

大平台名物のスプリングポイントを割り出して、箱根の山を登る三色団子。ほぼ3両とも塗装を塗り替えたばかりという事でピッカピカの出で立ち。 都会の車両ではありえないような、漆黒の濡れ羽色の床下回りが輝いています。床下から屋根上まで急勾配を上り下りするための各種のブレーキ保安装置がほとんどを占めるため、冷房装置の搭載する余地がなかった旧型車。窓を開けて、山の風を浴びながら眺める紫陽花もまたひとしおの風情だろうか。

夕暮れ迫り、夕食の終わったらしい宿のお客さんが浴衣姿でそぞろ歩く紫陽花の小径。大平台の駅に居並ぶ鉄道ファンにちょっと驚きながらも、「カラフルでカワイイね!」と走り去る三色団子と紫陽花をスマホでパチリ。古くから箱根七湯に数えられた湯本・塔之沢・宮ノ下・堂ケ島・底倉・木賀・芦之湯とは異なり、箱根の中では戦後に掘り当てられた新興の温泉地である大平台温泉。小ぢんまりとした家族経営の温泉旅館が連なる路地は、窓を開ければ登山電車の走る音が聞こえて来るような、そんな温泉場。大平台温泉の元湯は駅から徒歩5分の共同浴場の姫之湯で楽しめますが、柔らかい無色透明な肌馴染みのいいものです。

もう紫陽花の時期にここに通い始めて何年になるか・・・そろそろ一回くらい泊まってみようかな。

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函嶺の潤夜に咲く

2019年06月27日 22時00分00秒 | 箱根登山鉄道

 (大平台宵の口@上大平台信号場~大平台間)

お目当てだったサンナナは夜を待たずに入生田行きとなってしまいましたが、新たに小田原市内線塗装となった106を真ん中に挟み込んだ104+106-109の三色団子を宵の口の大平台で。大平台駅入口の四種踏切付近はここ何年か紫陽花の勢いも花付きもよく、ライトアップの光線も強めに当たる一級品の撮影地。こんな時間までようやるよ!(お前もな)というマニアが通勤ラッシュのようにひしめく中、ヤブ蚊に足を刺されながら待つのも撮るのも一苦労。いやいや、このフィーバーぶりはいったいぜんたいどうしちゃったのと言う今年の登山線界隈です。

梅雨時の湿り気を帯びた夜の空気が、大ヶ獄の隧道から流れ込む塔ノ沢の駅。まるで蜷川実花の世界のように、極彩色にホームに咲き乱れる色とりどりの紫陽花と、駅に隣接する深沢銭洗弁天。龍神様の手水鉢で口を漱いで軽くお参りすれば、きっと運気が巡ってくる・・・はず。

この時期の風物詩、函嶺の夜を彩るあじさい電車。塔ノ沢の駅ではダイヤの合間を縫ってホーム散策の停車時間。いつもはひっそりとした山峡の小駅が、あじさい号の乗客でひとしきり賑やかな時間を迎えます。絶対的に観光優先のダイヤなので、夜の7時を過ぎると1時間に2本程度と極端に運転間隔の開く登山電車ですので、このようなスジを入れる事も可能になっています。基本的にあじさい号ってサンモリッツ・ベルニナ・アレグラが起用されますけど、一本くらい旧型が入ってもいいんじゃないかなあ。

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東武トラッド、雨を衝いて

2019年06月23日 10時00分00秒 | 東武鉄道

(東武と言えばこの色この顔この編成@東武スカイツリーライン新越谷駅)

昭和の東武電車永遠のスタンダードであった8000系。昭和40年代から20年に亘り、総数にして700両以上が製造され、「私鉄の国電」と呼ばれたそのスタイルはまさに東武鉄道の「顔」でもありました。今回原形のまま保存されている8111編成が、某旅行会社の団臨として動く事が発表されました。この編成、通常運行を退いた後は東武鉄道ではなく一般財団法人東武博物館の所蔵となっており、博物館の収蔵物として動態保存になっているのですが、流石に東武鉄道を興した根津財閥は文化に対する造詣が深いなあと感心してしまうのであります。普段はどっか駅間で展開したかったんだけど、時折強い雨がざあっと降り付けるこの天候では・・・という事で屋根のある新越谷で。スジが良く分からないので通過2時間前から待つという自分でもあまりやらないことをやってしまったのだが、周りを20人以上(?)の知ったかぶりとイキリの目立つガキキッズ鉄に囲まれてしんどい事この上なかった。暗い雲に覆われたシンコシ、ここは金網越しに撮るのでどうしても絞れないのと貧レンズの画像の悪さはお察しなのですが、雨の中やって来た8000系はカッコ良かったなあ。けど、もう二度とやらね(笑)。

団臨は北千住で折り返して入区するので、回送を小菅の駅でガキキッズ鉄たちと。現在でも野田線やら北関東の支線区では改造された新8000系の系列が元気に活躍しているのでありますが、やっぱり原型&東武伝統のセイジクリーム塗装と言うのは価値が高いという事でしょうか。キッズには目新しく、そしてオッサンには懐かしいこの塗装とこのお顔。まあ東武の電車なんて一昔前は8000系に限らず全ての車両がこの顔で、子供心に「みんなおんなじでつまんない」的な感想を抱いていたものだ。柏の駅に転がってた5000系シリーズとか、旧型国電の吊り掛け駆動に8000系のボディだけ乗っけたハリボテチックな電車みたいのも、今思えば懐かしい。柏の駅の東武線ホームの奥に国鉄との連絡線があって、使ってるんだかどうかわからない東武の貨車が転がっていた時代である。

ちょっと暗くて分かりづらいのですが、いかにも東武の車両らしいミンデン型の台車が渋い。どしっとした下揺れ枕と横に張られたボルスタアンカー。あの頃は「みんなおんなじでつまらない」なーんて思っていたキッズ鉄が、今や「うむ、セイジクリームにこの東武顔、まさしく東武トラディショナルを具現化した存在であるな!」なんてイキっているのだから、オッサン鉄もタチが悪い事には変わらないのであろうなと思う。歳を取るだけ業が深い。

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思い出の中のオレンジ

2019年06月17日 22時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(吊り掛けサウンドの終着地@箱根湯本駅)

今回引退するサンナナ編成は、鼻の詰まったような独特の重低音を響かせる「吊り掛け式」のモーターを架装する最後の編成でした。以前のモハ1・モハ2全盛の時代は、それこそ登山電車と言えば吊り掛け音が当たり前だったような気もしますが、いつしかベルニナ、そしてサンモリッツ、とどめのアレグラと新世代の車両の投入によって、ズモモモーンと下っ腹に響く感じのあの音が、箱根の山から消えて行きます。

「吊り掛け駆動方式」ってなんなの?と言われると、単純に列車の進行方向と同方向のモーターの回転を、そのまま車輪に伝えて走る方式、と言えばいいのだろうか。「吊り掛け」の対義語として使われる「カルダン駆動」は、歯車をL字型に組み合わせるベベルギアを使って、横回転を進行方向の車輪の回転に変換して走る駆動装置である。今回引退するサンナナ以外の旧車群は、既にカルダン駆動に換装されていてこの音を聞く事は出来ません。

箱根湯本の駅で発車待ちの103。折角の紫陽花シーズンですが、大涌谷の火山活動が「レベル2」となったせいでロープウェイが運休しており、箱根ゴールデンコースが周遊出来ないせいかいつもよりは人出が控えめな感じのする箱根界隈。冷房のないサンナナ編成、梅雨の晴れ間のこんな日に窓を開け放って山の嵐気を取り入れるのは気持ちがいいものだが、大混雑の梅雨時に、雨でも降られるとムシムシして地獄と化すのが旧車の泣き所。標高を上げていく箱根の山の旅路とは言え、年々暑くなる夏への対策か、2020年を前に旧車群は全廃の見通し。 

塔ノ沢から80パーミルの坂道を降りて来るサンナナ。登山の旧車は吊り掛けだけじゃなくて、ブリルの台車を履いた古参組がいて、それも良かったですよね。まだ小田原まで登山電車が来てた時代の話だ。急行を降りて、小田原の駅のホームの先っぽの方に行くと、止まっているオレンジの2両の登山電車。当時の登山線の小田原口は、6連の急行を受けるのが2連の登山電車だったりするのでたまらないものがあった(笑)。夏休みなどはそらもうすし詰め状態で、「ロマンスカーならこんな混んだ登山電車に乗らないで湯本まで行けたのに!」と、倹約した親を恨んだものだ。

箱根登山のモハ1・モハ2を追い掛けていると、口に出すのは恥ずかしいのだが子供の頃の思い出を振り返っているような気がしてならない。親子で旅した箱根の思い出は、いつも色々な乗り物が描かれた箱根フリーパスと、オレンジの登山電車によるスイッチバックの旅であった。まあ両親は絶対覚えちゃいないだろうが、小田原駅でみんなで買った東華軒のお弁当を持って登山電車に乗り、彫刻の森の芝生で食べた「こゆるぎ茶めし」がとっても美味かったのを何故かはっきりと覚えている。

大人になってから食べた「こゆるぎ茶めし」は、ご飯に鯛のおぼろが乗っかっている以外は、幕の内的な普通の弁当であった。

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函嶺旧車會

2019年06月16日 20時00分00秒 | 箱根登山鉄道

(朝露に濡れる@大平台・アジサイの小径)

大雨で肌寒かった土曜日とは一転し、強い日差しと気温に夏を思わせた日曜日。前の日に晩酌をキメてさっさと寝てしまったのが功を奏して、早く目覚めた朝。午前中の散歩がてらに、箱根詣ではちょうど良い。紫陽花の色付きを気にしながら、箱根旧車軍団サンナナ編成の最後を撮影しに小田原厚木道路を下る。現在オダアツは何年かに一回の大規模修繕中でところどころ通行止めや片交があったのだけど、朝6時台なら関係ナシ。さすがに時期早く三分咲き程度の大平台ではありましたが、日当たりの良い株はもう見頃のものもあったりして。朝露に濡れる紫陽花のシズル感。

何となくだが、土日はサンナナかヨンロクのどっちか一方しか動かさないイメージがある登山電車の運用。朝から動いていたのは、引退間際のサンナナの方でした。先週あたりから7月の引退を間近に控えた記念のステッカーなどで装飾されています。引退だからこそ普段着で送り出したい気持ちもない事もないんだけど、まあ電鉄本社が引退へ用意した餞という事なのだろうか。今日は緑の109+107-103という並びなので、面の出ている103を集中的に。

遠く天下の嶮の山峡にこだまする、重厚かつ濃厚な吊り掛けサウンド。大平台隧道の東口を、緑のマルキューを先頭に降りて行く湯本行き。上大平台から大平台隧道東口まで、何年か前に紫陽花が刈られたまま草生しているのだが、再整備する雰囲気がない。箱山文庫という謎の洋館の前の小径はいつもひっそりとしていて好きなのだけど。

 今日はまっこと梅雨の中休み、といった天気の青空の下、姫之湯踏切を降りて行くサンナナ。午前中の光でサンナナが前に来るのは湯本~塔ノ沢と姫之湯踏切の辺りくらいだろうか。ちなみに、ヨンロク編成の方も106が「小田原市内線カラー」と呼ばれるクリームと水色のツートンに塗られたので、ぜひそっちも撮影したかったのだが、午前中の運用には入ってませんでしたね。

湯本の温泉街へ降りて行くサンナナの姿。車歴を紐解けば、大正時代の小田原電気鉄道チキ1形に遡る。車両の鋼体化による載せ替え、昭和30年代の台車の交換などにより製造当時のオリジナル部品を使っている部分と言うのはほとんどないだろう。それでも車両を廃車とせず、作り替えながらでも長年使い続けて来た理由は、連続する80パーミルの勾配に耐えうる車両を開発し、装備を一から新造するには技術的にも資金的にも大変だったからなのではなかろうか。特殊な環境下において姿形を変えながら生き延びて来たモハ1形の逞しさに、ガラパゴス的な進化を垣間見るのである。

 

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