青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

千垣、払暁の空。

2022年02月28日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(払暁の空の下@千垣駅)

立山への県道から、少し下がった位置にある小さな駅舎。 岩峅寺を過ぎると、終点の立山に向かって一駅ごとに雪が深くなって行く。今でこそ立山線の線路に沿った道が整備されてはいるものの、一昔前は、ひとたび雪が降れば、千垣や芦峅寺の人々には接続するバスと地鉄が頼りだっただろう。芦峅寺も、この冬の積雪が2mを超えたと聞く。駅前には、立山の修験者が住むという芦峅寺へ向かうバス乗り場があって、除雪された階段と雪の踏み跡に、駅の息遣いを感じた払暁の千垣。

お世辞にも広くないホーム。雪に埋もれてさらに狭くなっていた中を、KB301列車・快速急行立山行きがやって来た。 電鉄富山5:24発。シーズンであればアルペンルートへ向かうハイカーや登山者の足だ。 立山に向け、ここからさらに登り坂は厳しくなり、雪は深く重く線路を囲んで行くだろう。 かぼちゃ京阪こと10030形が力を込めて、東の空に薄明かりを漂わせる千垣を発車して行く。凍った架線にパンタが触れて、バリバリバリ・・・と盛大なアークを引いた。

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横江、雪溺の始発前。

2022年02月26日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(雪溺の駅@横江駅)

片寄せされてうず高く積み上がった雪。出入り口だけはしっかりと確保されていても、その雪は夜半の気温低下でパリパリと凍っており、軟弱な都会人の足元を容赦なく掬う。午前五時半、小さな集落の小さな駅で、手袋をしていても悴む手でシャッターを切る。駅舎の蛍光灯だけは煌々と輝いており、雪の力によって駅前は思った以上に明るさが満ち溢れていた。

初めてこの駅を訪れたあの雨の日から、もう何度も撮影した駅だ。勝手知ったるところもあって、特にここで語る事もない。去年の冬は壁に掛けられていたように記憶している横江駅の絵が、外されて窓の桟に立て掛けられていた。傳言板は、誰かの落書きと思しきハートマークと名前が記されていた。折しも季節はバレンタイン、この富山のローカル私鉄の片隅から、愛が芽生える事を願ってやまない。

駅舎から、ホームに続く通路はキレイに除雪され、凍結防止用の塩カルでも撒かれておるのか、そこだけは黒光りして凍ってはいなかった。塩の結晶の様に存在感を持って固まった雪が、水銀灯に映えてキラキラと粒だって輝いている。雪原を吹き抜けて来る風がもろに当たるホームで震えながら待っていると、山を降りて来た一番電車の灯りが見えた。

立山AM5:20発・普通電車電鉄富山行き。横江到着はAM5:44。本日は14760形での運行。トップバッターが60形とは幸先の良いスタートだ。車内に乗客ナシ。アルペンルートが閉鎖されている冬季期間、立山方面からのこの時間の流動はほぼ皆無かと思われる。それでも、ダイヤ通りに列車は走る。そういうものだからだ。最近は鉄道業界も背に腹は代えられない部分があって、この「そういうものだから」という理論が破綻しつつある。過疎・高齢化・疫病による乗客の減少。どこも苦しい、されど支援は乏しい。いつ終わるのか目星も付かず、もう鉄道会社が持たなくなっている。簡単に減便に打って出たり列車を間引いたりという事が横行して、公共交通の「公」の部分が大きく揺らいでいるような気がしてならない。

それでもこの日、地鉄の電車はダイヤ通りに、夜も明けきらぬ雪の駅にやって来た。
そういうものだからだ。

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本当の雪景色を求めて。

2022年02月24日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(深夜二時・雪の中の湯@国道158号線)

去年富山に行ったのは、確か2月の終わり頃。一通り撮影したんだけど、最近の暖冬傾向もあったんで雪がイマイチ少なかったんですよね。今年はエルニーニョの発生のせいなのか、北日本の日本海側の雪が物凄い。そこで今回は昨年より少し時期を早め、本物の雪国の雪景色を求めてこの冬何度も大雪に見舞われている富山へ行って参りました。ファーストショットは真夜中の中の湯・安房峠道路入口にて。島々から奈川度、沢渡と上がっていくたびにどんだけ積雪残ってるかとヒヤヒヤしましたけど、流石は天下の国道158号。信飛国境を繋ぐ大動脈は、きっちりと除雪も入って走りやすかったですね。

松本ICを日付が変わる頃に抜け、真夜中の安房峠を超えるのはこれで何回目であろうか。平湯から神岡の道の駅まで走って、ここで仮眠するのも恒例行事・・・だったのだけど、流石に氷点下7度でエンジンを消しての仮眠は寒かった。車内でマットレスと毛布にくるまってても寒いもんは寒い。最近宿に泊まらず車中泊で済ませてしまうことが多いのだけど、車中環境の充実も今後の課題かもなあ。仮眠から起きてR471をひたすら北へ。平湯~神岡~猪谷とひたすら暗い山道が続くのだが、この辺りが正直運転していて一番退屈。神岡から30分で通過する富山県境。ここで「富山市」と言われても・・・という山の中なのだが。

時刻はAM5:30、始発電車の前の時間に滑り込んだのは、立山線は横江の駅前。何となく地鉄に来ると、この横江の駅から撮影を始める事が多いような気がするな。これもルーティーンか。昨年の冬も訪れたけど、それより圧倒的に多い雪の山。除雪車に踏み固められ、カチカチに凍て付いた駅前広場。立山颪か、風がビュービューと吹いていて、体感温度が極めて低い中でカメラを出す。そんな富山の一日の始まりです。

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荒川の 流れ漱ぎて 岩肌に。

2022年02月22日 17時00分00秒 | 秩父鉄道

(うつりみず・ゆらめき@親鼻橋梁)

夕暮れ迫る親鼻の鉄橋は、荒川が刻む河岸段丘を飛び越える、大きなガーター橋。赤いレンガで積まれた橋脚の見事さは、いつでも変わらない秩父路のシンボル。モチーフを探して河原を彷徨えば、早い流れの脇に見付けた小さなワンド。僅かながらに流れ込みがあるので鏡と言う訳にもいかず、くにゃくにゃと揺らめく水に映り込む元東急8590系。秩父・富山と自分の好みの地方鉄道に現れるこの車両。特に思い入れがある訳ではないけれど、横浜や二子玉川でよく見た顔も、すっかり地方暮らしが板についた感じがあります。

夏であれば川遊びに興じるファミリーや、バーベキューで賑わう親鼻鉄橋の河原も、冬のこの時期は静かなもの。ただ、カメラを握る人々(特に秩鉄ファン?)にとっては冬の親鼻河原こそ至高じゃないですかね。きれいな北関東の空気に、赤々と沈んで行く鉄橋越しの夕陽はこの時期のお楽しみ。鉄橋が南北に走っているので、荒川の下流側に行けば年中列車&夕焼けの構図は作れるんだけど、やっぱ夕焼けは冬の澄んだ空気の方がいいんである。冬の両パン時期は、朝の三輪から始まって夕暮れの親鼻鉄橋でシメるのって結構無意識のルーティーンみたいなところがあるかもなぁ。意図してる訳じゃないのに、この日もついフラフラと上長瀞の駅を降りてしまったので・・・

この日は西の空はそこまできれいに抜けず、雲混じりの夕暮れ。それでも、雲間から漏れ射す夕陽を背景に、荒川の流れをメインキャストに迎えて一枚。瀬を速み、岩を漱ぎ、泡立つ荒川の流れ。太陽が西秩父の山並みに隠れる頃合い、返空のヲキ車を連ねた原谷行きの貨物列車が親鼻の鉄橋に乗っかったところをパチリ。夕映えの空に、デキの両パンと盃形のヲキがシルエットを結びました。

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春は皆との別れ、皆野の別れ。

2022年02月20日 16時00分00秒 | 秩父鉄道

(町の中心駅にも、合理化の波@皆野駅)

秩父鉄道は、首都圏を走る鉄道ながら、長い事SuicaやPASMOなどのいわゆる「交通系ICカード」というものが使えませんでした。殆どの駅で駅員さんが窓口に居て、出改札業務をこなすオールドスタイルの駅務はこの鉄道の特徴の一つでもあったのですが、とうとう今年の3月から秩鉄にもPASMO導入が決定。それに伴い、大幅な出札窓口の合理化が行われることになりました。3月以降に有人窓口が残るのは、羽生・熊谷・武川・ふかや花園・寄居・長瀞・秩父・御花畑・影森・三峰口の10駅のみ。他の27駅はPASMOの簡易リーダー導入により、一斉に無人化が図られることになります。

この報道が流れて来た時は、流石に驚きましたねえ。秩父線の駅ってーと、どんな小さい駅でもとりあえず一人は嘱託と思しき年配の駅員さんがいて、30分に1本くらいの電車が着くたびに、改札だけはしっかりやってた。改札の他にも、たまに訪れる観光客にフリー乗車券を売ったり、運転日にはSLの案内や指定席券の取次ぎをしていたりね。自動券売機もあったけど、窓口で乗車券頼むとフツーに硬券で出て来たりしてたから、それこそ切符趣味の人にとっては秩父鉄道って貴重な会社だったんじゃないかなあ。勿論、撮り鉄的な目線から見ても、ローカル私鉄的な路線でここまで各駅に駅員のいる鉄道会社ってのは魅力的だったんですよ。写真のモチーフにさして貰った事もあるし、何より人の姿がある事による安心感と言うか・・・ね。

あまりにもドラスティックな秩鉄の合理化策。中間の小駅はしょうがないにしても、市の中心駅である行田市の駅もそうだけど、ここ皆野の駅まで無人化の対象とは驚いたものです。一応町の玄関口の駅でもあるし、SL停車駅だからねえ。皆野。まあ私なんか古い人間だから、駅の役割って何だろう、駅における窓口の役割って何だろうって改めて考えてしまう。ピッと入ってピッと出るだけであれば、人などは必要ないのかもしれないけど、緊急時の連絡とかトラブルとかだってあるだろうしね。それこそ貨物列車の多い秩父鉄道だから、時刻表にない列車もやって来る訳であって、駅の安全要員としても駅員がいる意味はあるとは思うのだけど・・・おそらく、各駅に勤めていた嘱託の駅員氏については、そのまま職を辞する人も多い事と思います。この施策は、地味に地元の雇用って面でも後退するけど、うーん。コロナ禍で傷んでしまった鉄道会社には、一刻も早い合理化が必要なのも分かるのが辛いところ。

街の中心駅ですら、春からは駅員の姿が無くなること。コロナがいみじくも地方鉄道の疲弊と窮状の針を進めたこの2年。コロナがなければ、この駅から人が消えることはなかったのか。それとも、ICカード導入は前向きな設備投資による合理化として受け止められ、コロナ関係なく人の姿は消えていたのだろうか。駅前の川魚屋から、鰻を焼く芳しい香りが漂う皆野の駅。郷愁を誘う赤屋根の駅舎を掠めて、返空7205レ。

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