青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

お盆関西見聞録その11 ミナミの最も濃いトコを

2015年09月05日 23時15分26秒 | 阪堺電軌

(参道・鳥居・太鼓橋@住吉鳥居前電停)

住吉鳥居前電停を出る堺トラムこと1001型1002編成。阪堺電気の体質改善を目的に、堺市と国の補助金で導入された阪堺初の超低床車両。軌道用車両に特化したアルナ車両のブランドである「リトルダンサー」シリーズのひとつで、同系統の車両は全国の軌道線に導入されております。シャンパンゴールドの車体に堺市の花であるハナショウブのパープルをあしらった、落ち着いたカラーリングです。

   

2つの路線の交わる住吉電停は、住吉大社の北側の参道口に面しています。朝方の小雨交じりの天気から、雲間からは夏の太陽も顔を出して来て猛烈に蒸し暑くなってきました…恵美須町方面行きの電停は市道の真ん中の安全地帯にあるため、道路脇にはバス停よろしく待合所が設置されています。住吉大社の社殿を意識したであろうそのデザインは、たぶん結構な時代物なんじゃないかと思いますが…

 

先ほどは天王寺駅前から住吉まで上町線を下って来ましたが、今度は阪堺線に乗り換えて恵美須町方面へ。日中6分間隔の高頻度運転である上町線と比べて、阪堺線は日中15~20分間隔とだいぶ間隔が開きます。これは、阪堺線が恵美須町~住吉間をほぼ南海本線と並走しているせいもあるんでしょうねえ。住吉から続く併用軌道を東粉浜に向けて走る500型、マスコン回りはいかにも路面電車と言った感じの簡素な造り。そういや粉浜と言えば河合奈保子の出身地だよな。別に聖地巡礼してる訳じゃないけど(笑)。

 

電車は南海高野線の下を潜ると専用軌道区間に入り、新今宮駅前でJRへの乗り換え組がドッと降りると、車内は閑散として終点の恵美須町駅に到着しました。大坂の私鉄は大阪環状線の内側にターミナルを持つ会社が多いですね。現在の阪堺電気は、明治時代に設立された阪堺電気軌道(現在の阪堺線)と大阪馬車鉄道(現在の上町線)が敷設した両線を祖としたもので、同じく大正時代に阪南電気軌道がこの恵美須町から阿倍野を通って平野へ向かう平野線を含め大正時代に南海鉄道へ合併。長らく南海の軌道路線として営業を続けておりましたが、昭和後期に改めて軌道線は阪堺電気軌道として分社化されました(平野線は廃止)。現在でも阪堺の株式は100%南海が保有しており、シンボルマークも南海と同じものを使用しております。

  

天王寺駅前が簡素な停留所なのに対し、恵美須町は古レールで組まれた広いトタン屋根の下に3面2線の頭端式ホームがあり、阪堺電気軌道のターミナル駅としての雰囲気を保っています。堺筋に沿った恵美須町の駅は、ミナミのシンボル通天閣を西に望み、北側には「でんでんタウン」と呼ばれる大阪の電気街が続いていますが、駅自体は平野線の廃止や運転本数の減少とあいまってかつての活気は失われているのかな…と言う感じ。都会の駅で終電22時半ってのもちょっと早いよね。


ここでデジカメの電池がかなり厳しくなってしまったので、ネットカフェを見つけてしばし充電+休憩。ここからは阪堺線を再び住吉方面へ下って行きます。ネカフェから恵美須町へは戻らず新今宮駅前。以前は南霞町と言う名前の電停であったのだが、駅前で日本人と韓国人労働者らしきオッサン同士が怒鳴り合っているのもいかにも…と言う光景である(笑)。


新今宮駅前に滑り込むモ600型。新今宮の駅の南側は、いわゆる釜ヶ崎…あいりん地区を抱える日本一の日雇い労働者の街でもある。駅の周りには「TV付き1泊1,200円」などの看板を出したドヤ(簡易宿泊所)が並びます。肩からデジタル一眼を提げた体であんまりウロウロしにくい地区でもありますが、少しディープなあいりん地区の風を感じに堺筋を歩く。この辺りの阪堺線は線路際を高い金網で囲んでいるのだが、いわゆる釜ヶ崎の路上生活者たちによる不法侵入や不法占拠への対策であるらしい。西成で暴動が続いたころは、電車に向かって投石されちゃうんでバラストもあんまり撒かなかったんだとか…


堺筋と阪堺線を挟んで、西はあいりん地区・東は飛田新地。ミナミの最も濃いトコを左右に抱えながら走るのが阪堺線でもある。ちょいと飛田新地の路地をブラリとしてみたのだが、オトコが一人でヨメさん子供残して飛田新地の近くをウロウロすると言う行為自体昼間でも情状酌量しにくいよなあ(笑)。とある事情通によればお値段も凄いがレベルもハンパないんですってね…飛田から堺筋を渡ってちょっとあいりん地区の路地を歩くだけで、全身モンモンのオッサンがステテコ一丁で縁台将棋をやってたりするほのぼのとした光景が(笑)。今池電停はあいりん地区の西側の盛り土の上にあるのだが、停留場に上がって行く階段の右と左に釜ヶ崎の労働者風情がぎっしりとたむろして暗い目をしながら酒を飲んでいるのがとても嫌だ。平日の川崎競輪のスタンドを思い出すよ。


今池電停に滑り込む阪堺線あびこ道行きモ600型。ちなみにこの駅のベンチにも電車に乗る訳でもない釜ヶ崎の住民たちがたむろしていて、粘っこい目で明らかなヨソモノたる私をじろじろとネメ付けて来る。正直写真を撮るのもちょいと憚られるんだけど何にも悪い事はしていないしなあ…まあ過去の素性の暗い方たちも多数流れ込む地区であり、興味本位で見られることに異様な警戒感があるのは分からなくもないんだけど。


今池電停を出るあびこ道行きの車窓から。私をネメ付けていた労働者たちがトボトボと次の休憩場所へ向かって行った。今池電停に隣接するはどんな胃腸の丈夫な方でも裸足で逃げ出すスーパー玉出(とりあえずググれ)。駅南側のガードの下には以前天王寺~天下茶屋間を結ぶ南海天王寺支線が走っており、このガード下に今池町という駅がありました。そのために今池の電停は盛り土の上にあったんですね。南海天王寺支線はその真下に地下鉄堺筋線を通すため、工事着手に伴って天下茶屋~今池町が廃止。以降も今池町~天王寺間を離れ小島の路線として残していましたが、1993年に全線廃止されています。堺筋線の天下茶屋延伸工事について既存路線である天王寺支線の路盤を拠出させたのは、公権力が何かしようとすると色んな市民団体利権団体がわらわらと湧いて出て来る特殊地域であり、南海天王寺支線の下しか地下鉄の掘りようがなかったんだとか…

その南海天王寺支線の跡は、廃線後20年を過ぎてもなおすべて高いフェンスか金網で覆われ、とても有効活用されているとは言えません。やはりちょっとでも空いた土地があるといつの間にかそこに住みつき段ボールとブルーシートの家が勝手に立ってしまうと言うこの地区ならではの特殊事情があり、ヘタに手が付けられないと言う事なんでしょう。
コメント
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