司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

登記記録上任期が満了していることが明らかな社会福祉法人の理事に係る資格証明書及び印鑑証明書

2010-07-26 10:43:28 | 法人制度
 かつて,登記記録上任期が満了していることが明らか(就任日から2年を経過している場合)な社会福祉法人の理事に係る資格証明書及び印鑑証明書は,交付されない取扱いであったが,平成18年7月10日最高裁第二小法廷判決が出て,これに対応する平成19年1月11日付法務省民商第30号法務省民事局長回答が発出されたことから,それ以降,上記資格証明書及び印鑑証明書は,交付される取扱いとなっている。

【平成18年7月10日最高裁第二小法廷判決】抜粋
 社会福祉法は,理事の退任によって定款に定めた理事の員数を欠くに至り,かつ,定款の定めによれば,在任する理事だけでは後任理事を選任するのに必要な員数に満たないため後任理事を選任することができない場合(理事全員が退任して在任する理事が存在しない場合も含まれる。)について,同法45条で仮理事の選任について定めた民法56条の規定を準用するのみで,新たに選任された取締役が就任するまで退任した取締役が取締役としての権利義務を有する旨定めた商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)258条1項の規定を準用していなかったし,これと同旨の会社法346条1項の規定も準用していない。したがって,社会福祉法は,上記のような場合については,原則として,仮理事を選任し,在任する理事と仮理事とにおいて後任理事を選任することを予定しているものと解される。しかし,社会福祉法人と理事との関係は,基本的には,民法の委任に関する規定に従うものと解されるから,仮理事の選任を待つことができないような急迫の事情があり,かつ,退任した理事と当該社会福祉法人との間の信頼関係が維持されていて,退任した理事に後任理事の選任をゆだねても選任の適正が損なわれるおそれがない場合には,受任者は委任の終了後に急迫の事情があるときは必要な処分をしなければならない旨定めた民法654条の趣旨に照らし,退任した理事は,後任理事の選任をすることができるものと解するのが相当である。


 しかし,代表権を有する理事に関して資格証明書及び印鑑証明書が発行されるといっても,就任日から2年を経過している理事は,あくまで任期満了により退任しているのであって,民法第654条による善処義務を果たす必要がある限りの行為をすることができるに過ぎない。権利義務承継の規定は,株式会社以外の法人に関する根拠法にはない(極めて例外的に,あることもあるかもしれないので,断言は避けておくが。)からである。

民法
 (委任の終了後の処分)
第654条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。


 したがって,不動産取引において,当該理事に当該法人を代表する権限がないのはもちろんである。

 会社その他の法人が登記申請人となる場合には,司法書士としては,当該法人の商業・法人登記事項証明書の調査をすることが必要不可欠とされている。代表者事項証明書及び印鑑証明書だけを手にして安心してしまうことがないように,留意すべきである。
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