永子の窓

趣味の世界

3日夜の餅

2010年12月11日 | Weblog
平安時代の結婚・三日夜の餅(みかよのもち)
 
 平安時代の婚姻成立までの過程は、まず、当時の女性は顔を見せないようにしていた為、男性は「垣間見」(のぞき見)や世間の噂から意中の女性を見つけるのである。そしてその女性に「懸想文(けそうぶみ)」といわれる恋文を贈り相手の女性から承諾の手紙をもらい、女房に手引きを頼んで吉日の夜にその女性の部屋へと行くのである。一夜を共にした後「後朝の歌(きぬぎぬのうた)」を贈答し、三日間続けて女性のところに通うのである。そして三日目に「露顕の儀」「三日夜(みかよ)の餅の儀」などを行って初めて婚姻が成立するのである。

 ここで注意しなくてはならない点は男性は三日間続けて女性の所に通わなければならない、という点である。これからはあなたを棄てません、という誓いとなる。三日間ではなく一夜限りの関係では単なる浮気、とみなされてしまうからである。「三日夜の餅の儀」とは三日目の朝に「三日夜の餅」という祝餅が届けられ、催される盛大な宴のことである。

◆参考:清泉女子大受講生のページから。


源氏物語を読んできて(865)

2010年12月11日 | Weblog
2010.12/11  865

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(42)

 次の夜は結婚三日目の夜となって、

「三日にあたる夜餅なむ参る、と、人々のきこゆれば、ことさらにさるべき祝ひの事にこそは、とおぼして、御前にてせさせ給ふもたどたどしく、かつは大人になりて掟て給ふも、人の見るらむことはばかられて、面うち赤めておはするさま、いとをかしげなり」
――結婚三日目の夜は祝いの餅を召しあがるものです、と、侍女たちが大君に申し上げますが、大君も特別にお祝いせねばならない御祝儀だとは思っても、御前でお作らせになりますものの、実はどうしたらよいものか見当もつきません。その上、大人ぶって指図なさるのも、人の目に恥ずかしく、お顔を赤らめていらっしゃいます。いかにも可憐なご様子です――

「このかみ心にや、のどかにけだかきものから、人の為、あはれになさけなさけしくぞおはしける」
――(大君は)姉のせいでしょうか、おっとりと上品であるうちにも、他人にたいして、慈しみ深く思いやりの深いご性質なのでした――

 そこへ薫から御文が届けられました。そこには、

「昨夜参らむと思う給へしかど、宮仕への労もしるしなげなめる世に、思う給へうらみてなむ。今宵は雑役もやと思う給へれど、宿直所のはしたなげに侍りしみだり心地、いとど安からで、やすらはれ侍る」
――昨夜御伺いしたいと思いましたが、一生懸命お仕えの甲斐もなさそうな、あなたとの間を恨めしく存じまして。今宵も(三日夜の)雑用もあろうかと存じますが、先夜のあなたの情れないおもてなしで風邪をひきまして、今なお治らずぐずぐずしております――

 と、

「陸奥紙においつぎ書き給ひて、設けの物ども、こまやかに縫ひなどもせざりける、色々おし巻きなどしつつ、御衣櫃あまた懸子に入れて、老人のもとに、「人々の料に」とてたまへり」
――風情のないごわごわした陸奥紙(みちのくがみ)に、行を揃えて几帳面にお書きになって、三日夜(みかよ)のお祝いに御入要な品々を(お急ぎになられたせいか)、きちんと縫い上げてなどしていなくて、ぐるぐる巻きにした物など、御衣櫃(みぞびつ)をたくさんの懸子(けんし)に納めて、老女(弁の君)のところへ「女房たちのご用に」と差し上げられました――

◆あはれになさけなさけしく=あはれに情け情けしく=しみじみとご愛情深く

◆宮仕への労(ろう)もしるしなげなめる=ご奉仕の甲斐もなさそうな。大君に対して。

◆陸奥紙(みちのくがみ)=良質ではあるが厚手の紙。恋文などには適さない紙。

◆御衣櫃(みぞびつ)あまた懸子(かけご)に入れて=衣裳箱をたくさんの懸子(外箱のふちにかけて、中に落ちないようにして、ひと回り小型の箱をはめこむように作った箱)に入れて。

◆絵:大君への思いの叶わなかった二日前の朝。

では12/13に。