永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(873)

2010年12月27日 | Weblog
2010.12/27  873

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(50)

「男の御さまのかぎりなくなまめかしくきよらにて、この世のみならず契り頼めきこえ給へば、思ひ寄らざりし事、とは思ひながら、なかなか、かの目馴れたりし中納言のはづかしさよりは、と覚え給ふ」
――匂宮の、えも言われぬ優雅で清らかな男君が、この世ばかりでなく来世までもご一緒に、と、お誓いになりますので、中の君としては、このようなことになろうとは思いもかけなかったことでしたが、却って、あのよく知りあっている薫の堅苦しさよりは、とお思いになります――

 さらに、

「かれは思ふかた異にて、いといたく澄みたるけしきの、見えにくくはづかしげなりしに、よそに思ひきこえしは、ましてこよなく遥かに、一行書き出で給ふ御返事だに、つつましく覚えしを、久しくとだえ給はむは、心細からむ、と思ひならるるも、われながらうたて、と思ひ知り給ふ」
――あの薫中納言の方では、本当は私ではなく、姉君を思っておられて、ひどく取り澄ましたご様子が気づまりでした。噂にお聞きしていた匂宮は、ましてこの上なく遠い感じで、ただ一行のお文のお返事さえ気後れのすることでしたのに、これから匂宮が久しくお出でにならないとしたならば、どんなに心細いことでしょうと思われてきますのも、われながら浅ましい変わりようだと、つくづくとお考えになるのでした――

 供人たちが、盛んに咳払いをしてご帰京をお促し申し上げますので、京にお帰りの頃が日中になっては人目について具合がわるいと、お心が急きます。匂宮は、「ここに来られぬ夜があっても、私の心からではないのですから」としきりに言い訳をなさって、

(匂宮の歌)「中絶えむものならなくにはし姫のかたしく袖や夜半にむらさむ」
――二人の仲が絶えるものではないのに、あなたは独り寝のさびしさに夜半泣きぬれることでしょう――

 匂宮は後ろ髪を引かれる思いで、なかなか立ち去り難くていらっしゃいます。

(中の君の返歌)
「たえせじのわがたのみにや宇治橋のはるけき中を待ちわたるべき」
――御仲の切れませんのを私の頼みとして、長い絶え間をお待ちし続けなければならないのでしょうか――(「宇治橋の」は「はるけき」の序ことば。「たえ」「わたる」は橋
の縁語。

「言には出でねど、物歎かしき御けはひ、限りなくおぼされけり」
――恨み言は胸におさめて悲しげな中の君のご様子を、匂宮はたまらなくいとおしくお思いになるのでした――

◆男(おとこ)=男女の実事があったことを描写するときに、「男」、「女」と表現を変える。ここでは匂宮のこと。

◆一行書き出で給ふ御返事だに(ひとくだりかきいでたもう御かえりごとだに)=ただ一行のお文へのお返事でさえも。

では12/29に。