2011.1/17 882
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(59)
明石中宮は、
「かうやうの御ありきは、しのび給ふとすれど、おのづから事ひろごりて、のちの例にもなるわざなるを、重々しき人数あまたもなくて、にはかにおはしましにけるを、きこしめしおどろきて、殿上人あまた具して参りたるに、はしたなくなりぬ」
――このような皇子の御外出は、内密のおつもりでも、自然に世の中に広がって、後世の例にも引かれるものであるのに、上達部の数も少なく、軽々しい突然のお出ましとお聞きになり、驚いて殿上人の人数を整えて、早速に馳せ参じさせられたのでした――
「宮も中納言も、苦し、とおぼして、物の興もなくなりぬ。御心のうちをば知らず、酔ひみだれて、遊びあかしつ」
――匂宮も薫も、このような成り行きになった以上は、今更山荘にお渡りになるわけにもいかず、具合悪いことになってしまい、すっかり折からの興もお醒めになってしまわれました。殿上人たちは匂宮や薫の御心中も知らず、酔い痴れて一夜を遊び暮らしたのでした――
匂宮は、
「今日はかくて、とおぼすに、又、宮の大夫、さらぬ殿上人など、あまた奉れ給へり。心あわただしくて、くちをしく、かへり給はむそらなし。かしこには御文ぞ奉れ給ふ」
――今日はこのまま宇治に留まりたいとお思いのところ、御所からはまたまた中宮の大夫やそのほかの殿上人を大勢差し向けておいでになります。匂宮はお心も落ち着かず、いかにも残念で、京にお帰りになるお気持にもなれません。中の君にはお手紙を差し上げられます――
その御文には、
「をかしやかなる事もなく、いとまめだちて、おぼしける事どもを細々と書き続け給へれど、人目しげく騒がしからむに、とて、御かへりなし」
――風流めいた洒落っ気のこもった書きぶりの余裕もおありにならないらしく、ただ生真面目にお心の内を細々と書き連ねてはありますが、中の君は、人目も多くお取り込みであろうからと、お返事差し上げられません――
中の君はお心の内で、
「数ならぬ有様にては、めでたき御あたりに交じらはむ、かひなきわざかな」
――自分のようなつまらぬ身では、あのようなご立派な匂宮のお側に立ち交じるのは、所詮無理というものなのでしょう――
と、しみじみ悟られるのでした。
では1/19に。
四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(59)
明石中宮は、
「かうやうの御ありきは、しのび給ふとすれど、おのづから事ひろごりて、のちの例にもなるわざなるを、重々しき人数あまたもなくて、にはかにおはしましにけるを、きこしめしおどろきて、殿上人あまた具して参りたるに、はしたなくなりぬ」
――このような皇子の御外出は、内密のおつもりでも、自然に世の中に広がって、後世の例にも引かれるものであるのに、上達部の数も少なく、軽々しい突然のお出ましとお聞きになり、驚いて殿上人の人数を整えて、早速に馳せ参じさせられたのでした――
「宮も中納言も、苦し、とおぼして、物の興もなくなりぬ。御心のうちをば知らず、酔ひみだれて、遊びあかしつ」
――匂宮も薫も、このような成り行きになった以上は、今更山荘にお渡りになるわけにもいかず、具合悪いことになってしまい、すっかり折からの興もお醒めになってしまわれました。殿上人たちは匂宮や薫の御心中も知らず、酔い痴れて一夜を遊び暮らしたのでした――
匂宮は、
「今日はかくて、とおぼすに、又、宮の大夫、さらぬ殿上人など、あまた奉れ給へり。心あわただしくて、くちをしく、かへり給はむそらなし。かしこには御文ぞ奉れ給ふ」
――今日はこのまま宇治に留まりたいとお思いのところ、御所からはまたまた中宮の大夫やそのほかの殿上人を大勢差し向けておいでになります。匂宮はお心も落ち着かず、いかにも残念で、京にお帰りになるお気持にもなれません。中の君にはお手紙を差し上げられます――
その御文には、
「をかしやかなる事もなく、いとまめだちて、おぼしける事どもを細々と書き続け給へれど、人目しげく騒がしからむに、とて、御かへりなし」
――風流めいた洒落っ気のこもった書きぶりの余裕もおありにならないらしく、ただ生真面目にお心の内を細々と書き連ねてはありますが、中の君は、人目も多くお取り込みであろうからと、お返事差し上げられません――
中の君はお心の内で、
「数ならぬ有様にては、めでたき御あたりに交じらはむ、かひなきわざかな」
――自分のようなつまらぬ身では、あのようなご立派な匂宮のお側に立ち交じるのは、所詮無理というものなのでしょう――
と、しみじみ悟られるのでした。
では1/19に。