永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(886)

2011年01月25日 | Weblog
2011.1/25  886

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(63)

なおも、大君はお辛くて、

「何事も筋ことなる際になりぬれば、人の聞き思ふことつつましう、所せかるべきものと思ひしは、さしもあるまじきわざなりけり、あだめき給へるやうに、故宮も聞き伝へ給ひて、かやうに気近きほどまでは、おぼし寄らざりしものを、怪しきまで、心深げにのたまひわたり、おもひの外にみ奉るにつけてさへ、身の憂さを思ひ添ふるが、味気なきもあるかな」
――しかし、尊いお方ともなれば、世間の聞こえや思惑も憚られて、よもやそのような軽はずみなこともないであろうと安心していましたのは、とんでもない思い違いでした。父宮が匂宮の好色々々(すきずき)しくていらっしゃるとは、お耳になさっておいででしたので、このように家にお迎えしようなどとはお考えになりませんでしたのに、薫が妙なくらいに、匂宮の志が深いように言ってこられ、思いがけず中の君の結婚ということにまでなってしまい、その事までもわが身の辛さに加えられた気がして、なんと侘しいことであろうか――

「かく見劣りする御心を、かつはかの中納言も、いかに思ひ給ふらむ、ここにもことに恥づかしげなる人はうち交じらねど、おのおの思ふらむが、人わらへにをこがましきこと」
――このように思ってもおりませんでした匂宮のお仕打ちを、しきりにお取り持ちなさったあの薫中納言は、いったいどう思われておいででしょうか。ここには格別気のおけるような者も居りませんけれど、侍女たちはお腹の中では、何と思っていることやら、愚かしく物笑いなことになったことよ――

 と、次から次へとお考えになられる内にご気分も悪くなられて、ひとしお打ちひしがれていらっしゃる。

 ご当人の中の君は

「たまさかに対面し給ふ時、かぎりなく深きことを頼め契り給へれば、さりともこよなうはおぼし変はらじ、と、おぼつかなきも、わりなき障りこそは物し給ふらめ」
――時折りご対面の折に、匂宮がこの上なく深いご愛情を示され、お約束なさいましたので、まさか全くお心変わりをなさる筈はありますまい、きっとよんどころないご事情がおありなのでしょう――

 と、お心の内で一人慰めておられます。それでも、なまじお近くにお見えになりながら、素通りしてしまわれたことが辛くも口惜しくも思われて、やはり切ないお気持でいらっしゃるのでした。

では1/27に。