永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(978)

2011年07月27日 | Weblog
2011. 7/27      978

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(39)

「女君もあやしかりし夜のことなど、思ひ出で給ふ折々なきにしもあらねば、まめやかにあはれなる御心ばへの、人に似ずものし給ふを見るにつけても、さてあらましを、とばかりは、思ひやし給ふらむ」
――(中の君も)あの宇治での人まちがいで過ごしたあやしげな一夜のことを、思い出す折がないではないものの、真面目で親切な薫のお人柄が類まれでいらっしゃるのを見るにつけて、ああこの君と連れ添っていたならば、と、いうくらいのことはお思いになるでしょう。(お思いにならないこともないでしょう)――

「いはけなき程にしおはせねば、うらめしき人の御ありさまを、思ひくらぶるには、何ごともいとどこよなく思ひ知られ給ふにや、常にへだて多かるもいとほしく、物思ひ知らぬさまに思ひ給ふらむ、など思ひ給ひて、今日は御簾のうちに入れたてまつり給ひて、母屋の簾に几帳そへて、われもすこしひき入りて対面し給へり」
――(中の君は)もうお若いというお歳でもありませんので、薄情な匂宮のなされようと思い較べては、なにもかもこちらの薫の君が立ち優っていらっしゃることが、はっきりとお分かりになるせいでもありましょうか、いつも隔てがましく物越しでお逢いしていましたのがお気の毒で、さぞや物分かりの悪い女とお思いになっていらしたとお考えになって、今日は御簾の内に招じ入れ、母屋の簾に几帳を添えて、ご自身はすこし奥に引き入ってお逢いになります――

 薫が、

「わざと召しと侍らざりしかど、例ならずゆるさせ給へりしよろこびに、すなはちも参らまほしく侍りしを、宮渡らせ給ふ、とうけたまはりしかば、折悪しくやは、とて、今日になし侍りにける。さるは、年ごろの心のしるしもやうやうあらはれ侍るにや、へだてすこし薄らぎ侍りにける御簾のうちよ。めづらしく侍るわざかな」
――格別お召しにあずかったわけではございませんが、いつになく訪問をお許しくださった嬉しさに、さっそくにもお伺い申し上げたいと存じながら、昨日は匂宮がこちらへお出でになると伺いましたので、折悪しく存じまして今日にしたのでございます。それにしましても、長年の私の心尽しをようやくお認めいただけたのでしょうか、いささかなりとも隔てを取り除いて、御簾の内に入れていただくとは、珍しいことでございます――

 とおっしゃるのが、中の君にはやはりたいそう恥ずかしく、何と申し上げてよいのか戸惑っていらっしゃる。そして、

「一日うれしく聞き侍りし心のうちを、例の、ただ結ぼほれながらすぐし侍りなば、思ひ知るかたはしをだにいかでかは、と、くちをしきに」
――先日の故父君の御法要を手厚くお計らいいただきましたのに、いつものように、ただ黙って過ごしましては、お礼の一端さえどうしてお分かりいただけようかと、それが残念にぞんじまして――

 と、

「いとつつましげにのたまふが、いたくしぞきて、たえだえほのかにきこゆれば、心もとなくて」
――まことに控えめにおっしゃるのが、たいそう奥まったあたりから、途切れ途切れにかすかに聞こえてきますので、薫はもどかしく――

では、7/29に。