永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1049)

2012年01月05日 | Weblog
2012. 1/5     1049

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(20)

「宮わたり給ふ。ゆかしくて物のはざまより見れば、いときよらに、桜を折りたる様し給ひて、わがたのもし人に思ひて、うらめしけれど、心には違はじと思ふ常陸の守より、様容貌も人の程も、こよなく見ゆる五位四位ども、あひひざまづき侍ひて、この事かの事と、あたりあたりの事ども、家司どもなど申す」
――匂宮がこちらへお渡りになりました。北の方がどんな方かと心惹かれて、そっと物陰から覗き見ますと、まことにお美しく、まるで桜の花を折ったようなお姿でいらっしゃいます。自分では夫を頼りとして、恨めしい事の数々にも逆らうまいとひたすら堪えて連れ添っている常陸の介よりも、様子も姿形も、人品もずっとすぐれて見える五位四位の家司たちが、皆揃ってひざまづいて畏まり、それぞれ分担のあれこれを申し上げています――

「また若やかなる五位ども、顔も知らぬどもも多かり。わが継子の式部の丞にて蔵人なる、内裏の御使ひにて参れり。御あたりにもえ近く参らず」
――また若々しい五位など顔を知らない者が大勢います。自分の継子(ままこ=常陸の介の先妻の子)の式部の丞(しきぶのじょう)で蔵人が、御所からのお使いとして参りましたが、宮のお近くにも伺えません――

「こよなき人の御けはひを、あはれこは何人ぞ、かかる御あたりにおはするめでたさよ、よそに思ふ時は、めでたき人々ときこゆとも、つらき目見せ給はば、と、もの憂くおしはかりきこえさせつらむあさましさよ、この御ありさま容貌を見れば、織女ばかりにても、かやうに見たてまつり通はむは、いといみじかるべきわざかな、と思ふに、若君抱きてうつくしみおはす」
――(北の方は)この上もなく尊い匂宮のご様子を見上げて、「何とまあ、このお方はご立派なことよ。中の君がこんなご立派なお方のお側にいらっしゃるとは、何とお仕合せなことでしょう。はたで考える時には、いくらご立派な方々と申しても、奥方に辛い目(他に歴とした女君を持って)をお見せになっては、お気の毒で、匂宮に対して厭な思いを持っていましたが、とんでもない浅はかな事でしたよ。このご様子、御容姿をお見上げするにつけても、天の川で彦星と織姫が一年に一度逢える七夕の程度でも、お目にかかり、お通いいただければ、それだけでまことに素晴らしいことではないか」と思うのでした。匂宮は若君を抱いて、しきりに慈しんでいらっしゃいます――

「女君短き几帳をへだてておはするを、おしやりて、物などきこえ給ふ。御容貌どもいときよらに似合ひたり。故宮のさびしくおはせし御ありさまを、思ひくらぶるに、宮達ときこゆれど、いとこよなきわざにこそありけれ、と覚ゆ」
――女君(中の君)は、短い几帳を間に置いていらっしゃいますが、匂宮はそれを押しやって、何かお話をなさっています。お二人ともお顔がまことに綺麗で、しっくりとお似合いでいらっしゃいます。亡くなられた八の宮の、あの山里のお暮らしと思い比べますと、同じ親王と申し上げても、なんと大きな違いがあるものかと、北の方はしみじみ思うのでした――

◆桜を折りたる様=容姿を美しくする意

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
では1/7に。