2012. 1/17 1055
五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(26)
「容貌も心ざまも、えにくむまじうらうたげなり。物恥もおどろおどろしからず、さまよう児めいたるものから、かどなからず、近くさぶらふ人々にも、いとよく隠れて居たまへり。物など言ひたるも、昔の人の御様に、あやしきまでおぼえたてまつりてぞあるや」
――(浮舟は)ご器量も気立ても憎げなところなどなく、まことに愛らしい。恥じらう様子も大袈裟ではなく、ほどほどにおっとりして才気もほの見えて、近くにお仕えする女房達からも、さりげなく身を隠しておいでになります。ものを言う声なども、亡き姉上に不思議なほど似ていらっしゃること…――
「かの人形もとめ給ふ人に見せたてまつらばや、とうち思ひ出で給ふ、折しも、大将殿参り給ふ、と人きこゆれば、例の、御几帳引きつくろひて、心づかひす」
――大君の身代わりをお探しになっておられるあの方(薫)にお見せ申したいものです、と思っている折りも折り、薫大将殿が参上なさいました、と人が言上しますので、いつものように女房たちは御几帳を直したりして、御対面の用意をします――
この浮舟の母君は、
「いで見たてまつらむ。ほのかに見たてまつりける人の、いみじきものにきこゆめれど、宮の御ありさまには、えならび給はじ」
――それでは私もそっと拝見させていただきましょう。ほのかに拝した人は皆、素晴らしいお方だと申しているようですが、匂宮のご立派さには、とてもお立ち並びになれますまい――
と言いますと、御前に侍る人々が、
「いさや、えこそきこえさだめね」
――さあ、いかがでしょう。それはどちらともお決め申せません――
とお互いに話合っています。「ただ今、御車からお降りの由です」という声が聞こえますが、うるさいばかりのお先払いばかりで、急にはお姿はお見えにならない。やがて歩み寄られた御様子を拝見しますと、なるほど、匂宮に較べれば、
「げに、あなめでた、をかしげとも見えずながらぞ、なまめかしうあてにきよげなるや」
――まったくご立派で、宮に比べてはそれほどとも思えないながら、いかにも雅やかで、しかも気品があって清楚です――
では1/19に。
五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(26)
「容貌も心ざまも、えにくむまじうらうたげなり。物恥もおどろおどろしからず、さまよう児めいたるものから、かどなからず、近くさぶらふ人々にも、いとよく隠れて居たまへり。物など言ひたるも、昔の人の御様に、あやしきまでおぼえたてまつりてぞあるや」
――(浮舟は)ご器量も気立ても憎げなところなどなく、まことに愛らしい。恥じらう様子も大袈裟ではなく、ほどほどにおっとりして才気もほの見えて、近くにお仕えする女房達からも、さりげなく身を隠しておいでになります。ものを言う声なども、亡き姉上に不思議なほど似ていらっしゃること…――
「かの人形もとめ給ふ人に見せたてまつらばや、とうち思ひ出で給ふ、折しも、大将殿参り給ふ、と人きこゆれば、例の、御几帳引きつくろひて、心づかひす」
――大君の身代わりをお探しになっておられるあの方(薫)にお見せ申したいものです、と思っている折りも折り、薫大将殿が参上なさいました、と人が言上しますので、いつものように女房たちは御几帳を直したりして、御対面の用意をします――
この浮舟の母君は、
「いで見たてまつらむ。ほのかに見たてまつりける人の、いみじきものにきこゆめれど、宮の御ありさまには、えならび給はじ」
――それでは私もそっと拝見させていただきましょう。ほのかに拝した人は皆、素晴らしいお方だと申しているようですが、匂宮のご立派さには、とてもお立ち並びになれますまい――
と言いますと、御前に侍る人々が、
「いさや、えこそきこえさだめね」
――さあ、いかがでしょう。それはどちらともお決め申せません――
とお互いに話合っています。「ただ今、御車からお降りの由です」という声が聞こえますが、うるさいばかりのお先払いばかりで、急にはお姿はお見えにならない。やがて歩み寄られた御様子を拝見しますと、なるほど、匂宮に較べれば、
「げに、あなめでた、をかしげとも見えずながらぞ、なまめかしうあてにきよげなるや」
――まったくご立派で、宮に比べてはそれほどとも思えないながら、いかにも雅やかで、しかも気品があって清楚です――
では1/19に。