永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1134)

2012年07月19日 | Weblog
2012. 7/19    1134

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その42

「女宮に物語など聞え給ひてのついでに、『なめしともや思さむ、と、つつましながら、さすがに年経ぬる人の侍るを、あやしき所に棄て置きて、いみじくもの思ふなるが心苦しさに、近う呼び寄せて、と思ひ侍る』
――女二の宮(薫の正妻)にお話をなさるついでに薫が、「失礼なとお思いになりますまいかと恐縮なのですが、実は、長年世話をしている女がありまして、むさくるしい田舎に棄て置きましたところ、たいそう沈みこんでいますので、近くに呼び寄せようかと思っているのです」――

 つづけて、

「『むかしより異やうなる心ばへ侍りし身にて、世の中を、すべて例の人ならですぐしてむ、と思ひ侍りしを、かく見たてまつるにつけて、ひたぶるにも棄てがたければ、ありと人にも知らせざりし人の上さへ、心苦しう、罪得ぬべき心地してなむ』ときこえ給へば、『いかなることに心置くものとも知らぬを』といらへ給ふ」
――「わたしは昔から人と違う気持ちがありまして、現世を一切人並みでなく送りたいと思いましたのに、こうして貴女と一緒に暮らすにつけて、一途に遁世もしにくくなり、今では人にも知らせずにいました女のことまでもが可哀そうになり、きっと罪障になるような気がしますので」と申し上げますと、女二の宮は「どんなことに気兼ねしなくてはならないのか、それさえ存じませんのに」とお返事なさる――

「『内裏になど、あしざまに聞し召さする人や侍らむ。世の人のもの言ひぞ、いとあじきなくけしからず侍るや。されどそれは、さばかりの数にだに侍るまじ』などきこえ給ふ」
――(薫は)「それについて、あるいは帝に私のことを悪く告げ口申す人などがあるかも知れません。世間の口というものは、まことに不当なつまらぬものです。しかし、今申した女は、そういう噂の種になるほどの者でもありませんよ」などと申し上げます――

「つくりたる所にわたしてむ、と思し立つに、『かかる料なりけり』など、はなやかに言ひなす人やあらむ、など、苦しければ、いと忍びて、障子張らすべきことなど、人しもこそあれ、この内記が知る人の親、大蔵の大夫なるものに、むつまじく心やすきままに、のたまひつけたりければ、聞きつぎて、宮には隠れなく聞こえけり」
――薫は今度建てた邸に浮舟を移したいと計画なさったけれど、「こういうお積りであったのか」などと大袈裟に取り沙汰されるのも心苦しいので、ごく内々に、襖や障子を張らせるのでしたが、それが人もあろうに、親しく心安いところから、あの大内記の妻の父の、大蔵の大夫にお言い付けになりましたので、話は次々に伝わって、何もかも匂宮のお耳に入ってしまったのでした――

では7/21に。