永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(100)

2016年02月22日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (100) 2016.2.22

「また二日ばかりありて、『心の怠りはあれど、いと事繁きころにてなん。夜さり物せんにいかならん、おそろしさに』などあり。『心地あしきほどにて、えきこえず』と物して、思ひ絶えぬるに、つれなく見えたり。あさましと思ふに、うらもなくたはぶるれば、いと妬さに、ここらの月ごろ念じつることを言ふに、いかなる物とたへていらへもなくて、寝たるさましたり。」
◆◆それから二日ほどして、あの人から「私の怠慢から伺わない日が続いているが、公務も多忙でしてね。今夜伺いたいと思うがご都合はいかが。こわごわながら」などとありました。「気分がすぐれません折から、お答え申しあげかねます」と返事をして、すっかりあきらめていますと、平気な顔をしてやってきました。あきれたと思っているのに、けろっとしていちゃついてくるので、憎らしく、ここのところの我慢に我慢を重ねてきた恨みつらみをぶつけると、何一つ返事もせず、寝たふりをしています。◆◆


「聞き聞きて、寝たるがうちおどろくさまにて、『いづら、はや寝たまへる』と言ひ笑ひて、人わろげなるまでもあれど、岩木のごとして明かしつれば、つとめて物も言はで帰りぬ。」
◆◆よくよく聞いておきながら、寝ていて急に目が覚めたふりをして、「どれ、もうお寝すみかね」と言って笑い、きまり悪いくらいからかって、みっともないくらいの振る舞いをしてくるけれど、私はその手に乗るまいと身体を固くして一晩過ごしたので、早朝あの人は物も言わず出て行ってしましました。◆◆


「それよりのち、しひてつれなくて、例のことはり、『これとしてかくして』などもあるもいと憎くて、言ひ返しなどして、言絶えて廿よ日になりぬ。『あらたまれども』といふなる日のけしき、鶯の声などを聞くままに、涙の浮かぬ時なし。」
◆◆それから後、ことさら平気な態度で、「この着物をこうして、ああして」などと言ってくるのも憎らしく、断って返したりして、音沙汰なくなって二十日あまりにもなってしまったのでした。「改まれども…」と古歌にある春の日差し、うぐいすの声などを耳にするにつけても、「ふりゆく」わが身が思われて、涙の浮かばぬ時とてないのでした。◆◆


■例のことはり=未詳

■あらたまれども=古今集「百千鳥さへづる春は物ごとに改まれどもわれぞふりゆく」