永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1141)

2012年08月11日 | Weblog
2012. 8/11    1141

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その49

「かどかどしきものにて、供にある童を、『この男に、さりげなく目付けよ。左衛門の大夫の家にや入る』と見せければ、『宮に参りて、式部の少輔になむ、御文はとらせ侍りつる』と言ふ」
――薫の御随身は才覚のある人で、供に連れてきている童に、「あの男の跡を、素知らぬ風をして目を離すな。左衛門の大夫時方の家に入るかどうか、見届けて来い」と言いつけてやりました。「あの者は匂宮邸に参上して、大内記にお手紙を渡しました」と言います――

「さまで尋ねむものとも、劣りの下衆は思はず、ことの心をも深う知らざりければ、舎人の人に見あらはされにけむぞ口惜しきや」
――それほどまで探られていようとは、匂宮の智慧の劣る下僕は考えず、また事情もよく知りませんでしたので、薫の随身の童に顔を見知られてしまったとは、残念であったことよ――

「殿に参りて、今出で給はむとするほどに、御文奉らす。直衣にて、六条の院に、后の宮の出でさせ給へる頃なれば、参り給ふなりければ、ことごとしく、御前などもあまたもなし」
――随身は薫の邸に参上して、今お出かけになろうとする時に御手紙を差し上げてもらいます。薫は直衣をお召しになっておられます。丁度明石中宮が六条院にご退出中でいらっしゃるので、御機嫌伺いにお出でになるところなのでした。薫の御前には御先駆の者など、ものものしくは揃っていません――

「御文参らする人に、『あやしきことの侍りつる、見給へ定むとて、今までさぶらひつる』と言ふを、ほの聞き給ひて歩み出で給ふままに、『なにごとぞ』と問ひ給ふ。この人の聞かむもつつまし、と思ひて、かしこまりて居り。殿もしか見知り給ひて、出で給ひぬ」
――御文を取り次ぐ人に、「妙なことがございまして、それを確かめようと存じまして、今までかかってしまいました」と言っているのを、薫はちらっとお聞きになって、歩み出て来られながら、「何ごとか」とお問いになります。随身は取り次ぎの人に聞かれてはよろしくないと思って畏まっています。薫も、なにか訳があるらしいとお察しになって、そのままお出かけになってしまわれました――

 后の宮(明石中宮)のご気分がいつになくお悪いご様子であるというので、親王たちもみな、六条の院に参上なさいましたが、それほど重いご容態でもないようでした。あの大内記は太政官の役人で公務が多忙なのか、遅れて参上しました。

「この御文を奉るを、宮、台盤所におはしまして、戸口に召し寄せて取り給ふを、大将、御前の方より立ち出で給ふ、側目に見通し給ひて、せちにも思すべかめる文のけしきかな、と、をかしさに立ち止まり給へり」
――その大内記が、浮舟からのお返事を差し上げますのを、匂宮は台盤所においでになって、戸口に呼び寄せてお取りになりますのを、薫が御前から退出しての通りかがりに、遠くから横目に御覧になって、よほど深く愛しておられる女からの手紙らしいな、と、興味深さに立ち止まられました――

では8/13に。