敗戦記念日が近くなりました。今日と明日は、戦時中の二宮町を舞台にした小説を二冊、私の友人でアナウンサー・朗読研修講師の原良枝さんの著書「彼女の場合 神奈川・文学のヒロイン紀行(かまくら春秋社)」から紹介したいと思います。
「読み手側からの朗読の魅力として、尽きせぬ感動との出会いがある。その感動と会うために私は今読み手として、先の戦争の作品に、山川方夫の『夏の葬列』を加えている。昭和四十年に、交通事故で三十四歳という若さで夭折した作家・山川方夫が、戦時中、二宮に疎開していた当時のことをモチーフに書かれたものである。
濃緑の葉を重ねた一面のひろい芋畑の向こうに、一列になった小さな人かげが動いていた。線路わきの道に立って、彼は、真白なワンピースを着た同じ疎開児童のヒロ子さんと、ならんでそれを見ていた。 この海岸の小学校(当時は国民学校といったが)では、東京からきた子供は、彼とヒロ子さんの二人きりだった。二年上級の五年生で、勉強もよくできた大柄なヒロ子さんは、いつも彼をかばってくれ、弱虫の彼をはなれなかった。 よく晴れた昼ちかくで、その日も二人きりで海岸であそんできた帰りだった。
二人はここで空襲に遭う。そして彼は、助けようとしてきてくれたヒロ子さんを突き飛ばしてしまった。なぜなら彼女が白いワンピースを着ていたからだ。白は目立つために敵機にみつかりやすい。彼は彼女を目の前から突き飛ばしたのだった。その直後、ヒロ子さんのワンピースは血で真っ赤に染まり、彼女は意識がないほどの重傷を負った。
(中略)
ヒロ子さんの生死を確かめられず懊悩する彼の心情や、失われたヒロ子さんの将来のこと、娘を亡くし娘の人生まで生きた母親の哀しい人生についての思いが、読むたびに膨らんできる。せつなく、つらく哀しい。でもだからこそ私はことばを信じて、朗読する女としてその思いを表現したいのだ。」
私は、この本を読んでいません。子どもの頃から小説はほとんど読みませんし、戦争物にアレルギーがあるためですが、いつかこの本を読める心境になるまで気長に待ちたいと思います。