ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

「あなたは “底着き” をしていない」と言われて

2017-11-16 06:19:18 | 病状
 恐らく依存症に共通することかと思いますが、アルコール依存症(アル症)は “底着き体験” がなければ回復しにくいと言われています。

 最初の内はこのことを知らなくとも、専門病院に通っていると自然に耳に入ってくるのが “底着き(体験)” という言葉です。しかも回復に関わることなので、自分に “底着き(体験)” があったのか否かはアル症者にとって結構切実な問題となります。

 つい先日のミーティングで “底着き体験” をテーマに選んだ司会者がいました。断酒歴1年ほどの人ですが、「あなたは “底着き” をしていない」と医者から言われ、そのことが今でも尾を引いているようなのです。それで仲間がどんな “底着き” を経験したのか是非聞いてみたいということでした。

 このようにハッキリ負い目を口にした人は二人目です。“底着き” がないなどと告げられたら患者は戸惑うばかり、と医者にはわかっているはずです。それなのになぜ医者は敢えてこれを告げたのか、私にはいまだに解けない謎でした。

 テーマに沿って語る仲間の話に耳を傾けている内に、ひょっとして医者の言葉そのものが “底着き” になり得るのでは(?)という思いが募って来ました。各人の体験が過酷だったことは間違いないのですが、そのとき付け足すように彼らが軽く触れていた医師のコメントの方が決め手だったと思えて来たのです。

 “底着き” とは自分にはどうにもならない状態のことです。言い換えれば、誰からも見放され、縋るものが何もない状態とも言えるでしょう。

 身体が言うことを聞かなくなった末期のアル症者なら、まさしくどうにもならない状態にあります。こんな場合は、アル症専門医に縋る以外急性離脱期から救われる道は他にありません。そんな非常事態について、改めて医者がとやかく言うこともないでしょう。

 場面を変え、もし目の前に身体が回復したからと復職を焦る断酒中のアル症者がいたとします。どう見ても、再飲酒のリスクが依然として高い状態なのでしばらく加療を続けさせようする場合、アル症専門医としてどんな秘策を講じるのでしょうか?

 「あなたは “底着き” してない」というのはその秘策 / 奇策で、再飲酒を一層用心するよう促す脅しの意図だったと考えることもできるのです。アル症者がそのことを気にし始めたらシメタもの。アル症専門医は、ベテランであればあるほど患者自身に考えるよう仕向けるものだからです。私の主治医の院長ならやりかねません。

 専門クリニックに掛かる直前のことですが、私自身にも同様に思い当る節がありました。もしもあのとき一般病院から強制退院させられていなかったなら、さらにこれに追い打ちを掛けるように、もしも妻にも見放されていなかったなら、多分今の自分はない・・・ということです。これらを仕掛けたのはいずれも一般病院の救急救命(ER)の主治医で、彼女が講じた秘策だったのです。

 初期の段階では自覚症状に乏しい糖尿病や高血圧などの生活習慣病の場合、禁煙とか節酒しなければ病気が悪化すると医者に脅されても聞かない人が多いと思います。禁煙や節酒程度で済むぐらい病気が軽いのかと甘く見くびってしまうか、医者の言いつけを破っても見捨てられはしないとタカをくくるか、そのどちらかででしょう。

 もしも医者に「もう来るな!」と言われて匙を投げられたらどうでしょう? 専門医が少ない領域なのにひょっとして医者に見放されるかも(?)と背筋に薄ら寒いものを感じたら、さすがに飲み続ける人はいないはずです。

 私の姪も飲める口ですが、しばらく前に会った時にこんなことを言っていました。手に震え(振戦)があって間違いなくアル中だったようですが、酒を飲み続けたら婦人科領域の持病のホルモン療法を続けられないと医者から言われ、それからキッパリ酒を断ったと。これも医者から見放されたらもうお終いと思ったことが決め手だったのかもしれません。

 その時は、そんなことぐらいで酒が止められるのか(?)と半信半疑だったものですが、諸々の事情を考えると今では十分あり得ることと考え直しました。

 アル症は、まず否認を認めさせ、底の深い病気だと患者自身に自覚させることが肝要です。アルコールが脳から抜け切りさえすれば、例外なしに自分の異常さも自覚できるようになれます。人によってはそうなるまでの仕掛として、専門医による奇策の一言が必要なのかもしれません。こんなふうに考えるのは少し穿ち過ぎでしょうか。



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