2011年8月17日-2
実験と虚験、モデルと計算
コンピュータ・シミュレーションを、「模擬実験」と呼ぶ人がいるが、「思考実験 thought experiment」と同様に、実験ではなく、(あえて名付ければ)虚験である。つまり、数値計算自体は当然ながら、現実と照合しているわけではない。(数値計算する際の問題はさておき、)その計算の元となる模倣モデル simulation model のたとえば予測上の信頼性は、そのモデルがどのような種類と程度で確証されているか、つまり現実と照合されているか、に関わる。
下記は、池田清彦(1996.5)の「実証実験が不可能な科学的安全性とは何か」という節(あるいは章?)からの引用である。
「巨大科学技術における安全性もまた、実は厳密には実験により実証されているわけではない。それはあくまでもシミュレーションにすぎない。たとえば、原子力発電所の安全性を実験により確かめるためには、実際に事故を起こさせて放射能がもれるかどうか確かめてみればよい。しかし、もし現実に放射能がもれてしまえは大事故になるから、そんなことは恐ろしくてできない。そこで水素を燃やすなどのシミュレーション実験を行〔な〕ったり、コンピュータで事故確率の計算を行〔な〕ったりして、科学的に安全だと言っているわけである。
耐震性もまた、実際の地震を起こして確かめているわけではない。震動実験を行〔な〕ったとしても、それは安全性を実証しているわけでなく、安全に関する理論により安全性を予測しているにすぎない。最大の問題は、安全性に関する理論は未来に起こる地震の規模や手抜き工事の確率を予測できないところにある。だから事故が起きたとき、理論は多くの場合、事故は理論的予測の将外の問題であるとして、反証を免れようとする。しかし、よく考えてみれば、実際に事故が起きたときに反証を免れる安全性理論とは何か。それは「大地震が起きなければ安全です」と言っているに等しい。
科学的安全性とは、実は安全を保障するものではなく、巨大土建事業にゴーサインを出すための装置のひとつにすぎないことを阪神大震災は見事に暴いてみせた。それでもニッポンは、科学的に安全な高速道路や新幹線や原発をこの先もずっと作り続けるつもりなのか。」(池田清彦 1996『科学教の迷信』: 96-97頁)。[この文章の初出は、『図書新聞』1995年4月8日号だと、217頁の「初出一覧」にある。]
[I]
池田清彦.1996.5.科学教の迷信.220pp.洋泉社.[B960609, Rh960611, y1900]
実験と虚験、モデルと計算
コンピュータ・シミュレーションを、「模擬実験」と呼ぶ人がいるが、「思考実験 thought experiment」と同様に、実験ではなく、(あえて名付ければ)虚験である。つまり、数値計算自体は当然ながら、現実と照合しているわけではない。(数値計算する際の問題はさておき、)その計算の元となる模倣モデル simulation model のたとえば予測上の信頼性は、そのモデルがどのような種類と程度で確証されているか、つまり現実と照合されているか、に関わる。
下記は、池田清彦(1996.5)の「実証実験が不可能な科学的安全性とは何か」という節(あるいは章?)からの引用である。
「巨大科学技術における安全性もまた、実は厳密には実験により実証されているわけではない。それはあくまでもシミュレーションにすぎない。たとえば、原子力発電所の安全性を実験により確かめるためには、実際に事故を起こさせて放射能がもれるかどうか確かめてみればよい。しかし、もし現実に放射能がもれてしまえは大事故になるから、そんなことは恐ろしくてできない。そこで水素を燃やすなどのシミュレーション実験を行〔な〕ったり、コンピュータで事故確率の計算を行〔な〕ったりして、科学的に安全だと言っているわけである。
耐震性もまた、実際の地震を起こして確かめているわけではない。震動実験を行〔な〕ったとしても、それは安全性を実証しているわけでなく、安全に関する理論により安全性を予測しているにすぎない。最大の問題は、安全性に関する理論は未来に起こる地震の規模や手抜き工事の確率を予測できないところにある。だから事故が起きたとき、理論は多くの場合、事故は理論的予測の将外の問題であるとして、反証を免れようとする。しかし、よく考えてみれば、実際に事故が起きたときに反証を免れる安全性理論とは何か。それは「大地震が起きなければ安全です」と言っているに等しい。
科学的安全性とは、実は安全を保障するものではなく、巨大土建事業にゴーサインを出すための装置のひとつにすぎないことを阪神大震災は見事に暴いてみせた。それでもニッポンは、科学的に安全な高速道路や新幹線や原発をこの先もずっと作り続けるつもりなのか。」(池田清彦 1996『科学教の迷信』: 96-97頁)。[この文章の初出は、『図書新聞』1995年4月8日号だと、217頁の「初出一覧」にある。]
[I]
池田清彦.1996.5.科学教の迷信.220pp.洋泉社.[B960609, Rh960611, y1900]