新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

ちょっとした抗癌剤治療の話・・・その2

2013-11-20 23:21:38 | 医学系

書きだしたら止まらなくなってきました。

 

研究を続けるというのはある意味結果がすぐに出ないからしんどいですよね。将来、必ず患者さんたちの役に立って見せようとは思いますが、今は限られた時間しか診療もしていませんし、患者さんたちの役に立っているという実感が少ないのですよ。

僕は研究は自己満足で終わるのではなくて、必ず患者さんに還元できなくては意味がないと思っています。それができるかどうかで、今後の人生も決まるだろうな~。

 

さて、それでは少し書き加えていきます。近藤誠氏の話から書き始めた「ちょっとした抗癌剤の話」シリーズですが、僕は血液内科医ですから白血病や悪性リンパ腫など「抗癌剤だけで治りうる」疾患を対象にしています。そう、僕はもともと「がんを薬で治したい」「がんを撲滅するために、免疫を学びたい」「手術はしたくない(ネガティブw)」で血液内科医になりました。

 

ちなみに一般的に言われている話ですが、癌というのはがん細胞が1~2㎝、重さでは約1g(10^9なので、10億個)を超えると臨床的ながんということになります。白血病の倍化時間は非常に早いですが、一般的な腫瘍(転移性肺がんに関するネット上の記載は3ヶ月でした)の速度を考えると1→2→4・・・・・とすると30回くらい経たないとこの大きさになりません。90か月以上の経過ということになります。転移した癌は基本的に増殖速度は速いですので、実際は10年以上前にできた腫瘍が悪さをしてきているという話だと思います。ただ、ここから10回の分裂(増殖)する時間を経過するとあっという間に1kgまで大きくなるといわれています。

 

何が言いたいかというと、今いる癌はずいぶん昔にできたやつなんだという話です。

 

で、その癌に対して抗癌剤を一般的に使用するか・・・という話ですが、YesでもありNoでもあると思います。

 

まず、白血病などは抗癌剤がよく効きますし、手術で取りきるなんてできません。ワシントンではないですけど…全身の血を抜くつもりか(笑)

 

それでTotal cell killという話が出てきます。これは

1個の白血病幹細胞を移植すれば全身に広がり致死的になる

癌細胞の増殖は指数関数的で一定(対数グラフで直線)

抗癌剤の効果はがん細胞の数が多かろうと少なかろうと一定

という話から、すべてのがん細胞をつぶさないとダメ(1個残ればまた増えてくる)という話になりました。癌細胞の増殖速度よりも早く、多くのがん細胞をつぶしていこう…となったわけです。

 

癌細胞というやつらは・・本当は正常な細胞が「修正しなさい」という命令をしたら、自分を治して元通りになるのですけど・・その命令を聞くことができずに悪くなってしまったので。癌細胞は修復能力は普通の細胞よりも弱いわけです。それ故同じダメージを受けた後の回復は正常な細胞の方が早いと考えられています。白血病やリンパ腫の治療が抗癌剤を一定レベルで繰り返すのはそういう理由があるからです。癌細胞に大ダメージを与えれば、正常細胞の方が先に回復してくる(はず)。たとえ、増殖速度が「やつら」の方が早くても、回復速度はこっちの方が早いのだ・・・。

 

白血病では「増殖速度が常に早い」ということで・・・(専門的には違うことが書けますが・・・・難しいので、白血病などは増殖が速いので上の理屈が成り立つということにしてください)

一般のがん腫はどうか…という話になります。

 

固形がんの場合・・・専門家ではないので完璧な説明にはなっていないかもしれませんが、抗癌剤をよく使うグループで癌の研究をしている人間からのコメントだと思ってください。

 

固形がんの場合、上の「一定速度で増え続ける」という過程が間違いであるといわれています。一般的に小さい時にはよく癌は増えるが、大きくなると増えにくくなる(増殖が遅くなる)といわれています(Simonの仮説、Compertzian増殖モデル)

増殖速度が落ちる…という個とは理屈上「抗癌剤は効きにくくなる」ということになります。

 

よく、術後化学療法の話がありますが、僕は理屈的にはよくわかる話だと思います。一つ目の理屈はある程度の大きさの腫瘍を手術すると、血液中に癌細胞が流れているのが確認できるという話からです。別にどこかに定着できるかどうかは(要するに転移するという話)、その環境によるとされていますが0ではないと思います。

2つ目に統計学的に再発のリスクがある群、ない群で抗癌剤投与の有無で生存を比較をして差が出ていること。

3つ目は上の仮説を考えると癌細胞が少ない時の方が抗癌剤は効きやすいことになります。

 

以上から、術後抗癌剤治療というのは理にかなっているのだと思います。

 

もちろん、将来的にはさらに研究が進んでこういう人にはやったほうが良い、この人はやらなくてよいというのがわかってくるのだと思いますが、今はある程度「こういった患者さんたちにはやったほうが良い」としか言えないのでしょう。

 

治療をいつまで継続するか・・・に関しては、治療効果があって副作用が許容範囲であることが絶対条件だと思います。先日読んだ「悪医」という小説にも書かれていましたが、引きどころは難しい。

 

どのタイミングでも引く可能性は考える必要があると思いますが、個人個人によると思います。医師は常に患者さんのメリットとデメリットを考えながら治療の計画を立てています。患者さんによっては自由に動く時間が必要な方もいるでしょうし、患者さん個々に合わせるしかないのですよね。

 

そうすると将来の医師数が本当に心配だ・・・・。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

コメント (4)
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