未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




前から疑問に、そして不愉快に思っていたのだが、なぜ薬物犯罪を犯した芸能人が出演しているテレビ番組の放映や映画の上映、DVDの販売などを取り止めなければならないのか。

実はそこには、論理的な、正当な根拠は存在しない。

間違わないで欲しいので、初めにお断りしておくが、この投稿では「薬物犯罪の功罪」や「アメリカでは合法化しつつある」とかの議論は一切しないし、決して「薬物犯罪者」を擁護するための物ではない。

ただ一点、「薬物犯罪を犯した者が出演してるドラマの放映、映画の上映、ドラマのDVDの発売停止などを実施する必要があるのか?その根拠は?」について探って行きたい。

※長くなったので、特に異論のない方は「15.何が問題なのか」からどうぞ。

その根拠は何か。

1.「犯罪者が関わっている作品は放映してはならない。」のか。

この理屈で言えば、他の業界の場合

・「犯罪者が関わっている製品は販売してはいけない」

ことになるのだが、そうなると

・「工場の生産ラインで働いたものが犯罪を犯した場合、その者が製造に関わっていた製品を販売してはいけない。」
・「その現場で働いていた者が犯罪を犯した場合、そのマンションやビルを販売してはいけない。」

ことになる。

「屁理屈」だとか「論理の飛躍」だとかの指摘する者がいるかもしれないが、一蹴する前に良く読み解いて欲しい。

この観点のみから言えば、上記の『理屈』は全く正しい。

だが、工場やビルについてはそこまでやる必要性を全く感じないのに、映像作品についてはそれが当たり前のように思われるのは何故なのか。

「犯罪者が関わっている作品を放映してはいけないに決まっている。」との単純な主張では、根拠が薄弱である。

そこにある違いは何なのか。

2.「犯罪者が『出演』している作品は放映してはならない。」

その違いは、この一点しかないように思われる。

では、もう一歩踏み込んで、なぜ「犯罪者が『出演』している作品は放映してはならない。」のか?その正当な理由を、まずはちょっと考えてみて欲しい。

3.「犯罪者の顔や姿を見たくない。」

犯罪者の顔を見ることで、不愉快な思いをする者がいるので、放映してはならない。

一番最初に思いつく理由だ。

だが、ワイドショーは言うに及ばず、報道番組ですら、これでもかとばかりに犯罪者の顔写真や、護送中や現場検証中の犯罪者の「顔」を垂れ流している。

だからこの理由を、正当な根拠として上げることは出来ない。

4.「犯罪者が犯罪者として報道されている姿は 〇、そうでない場合は ×。」

一見もっともらしいが、であれば、犯罪者が犯罪を犯す前の写真や映像は、報道番組でも使ってはいけないことになるが、出所の怪しい、明らかに犯罪を犯す前の画像など、それらも平気で垂れ流されている。

5.「撮影時に薬物を使用していた可能性がある。犯罪が実行されている瞬間を収めた映像を流してはいけない。」

強盗の瞬間の監視カメラ映像などは、それを特集した番組が定期的に放送されているので、単純に「犯罪の映像はNG」との理屈は当てはまらない。

そもそも撮影時に薬物を使用していたかどうかは解らないし、使用していたとしても殆どのケースでは、見て解るものではない。

そこには「倫理的」な、なんらかの理由が存在する気もするのだが、明確な指摘が出来ない。なぜ、それがダメなのか?と。

6.「面倒だな。単純に、犯罪者が出演しているドラマなんか、見たくないんだよ。」

色々と根拠が抜け落ちているが、最終的には、この辺りの理由に落ち着く。

だがそれであれば、見なければ良い。だけの話になる。

代役を立てて、続行。既に撮影済みの回については、「〇月〇日に撮影、〇〇の出演シーンがあるで注意」

のテロップ表記で済むはすだ。

7.「うっかりと見てしまう恐れがあるから NG。」

うっかりと「薬物犯罪者」が出演しているシーンを、一瞬(でも10秒でも1分でも)見てしまったが故に、何らかの被害を被るものがどれほどいると言うのか。

そういう人々の事を配慮しようと言うなら、3.に戻って、報道での本人画像の使用も、一切禁止にするべきではないのか。

なぜ、ドラマだけを中止しなければならないのか。

8.「犯罪者の姿を子供に見せてはいけない。」

感情論を正当化するためのワードとして「子供」云々が良く使われる。

「あなたは人の家の子供の将来のことに、責任を持てるのか!」

などと使われると、もう、正常な議論を続けることは出来ないので、そこでもう諦めてしまうしかない。相手はそれで、論破したと思っているからタチが悪い。

「そんなことはない。私が正しいから言い争いに勝っただけ。」

と、そこまで言う人にのために、では、薬物犯罪を犯した俳優が出演しているドラマを子供が見た時に、一体その子の将来に、どんな悪影響が発生すると言うのか。

「犯罪を犯しても、テレビに出てお金貰えるんだ。」と言われたら「これは犯罪が発覚する前に撮影されている。逮捕後は役者を辞めてテレビには一切出ていない。」など、ちゃんと説明すれば、ちゃんと物事の判断が出きる子供になるはずだ。

「子供がテレビを見ている時に、ずっとそばに居て、いちいち説明するのは不可能。」

それが出来ず、なおかつ子供の将来に非常に気を使っているのであれば、子供にテレビを見せてはいけない。

テレビでは、もっと恐ろしい事がタレ流されているからだ。

報道番組風の番組で、高校の制服姿の女の子の顔にモザイクを入れ、「※声は変えています。」のテロップのもと、

「くすり?みんなやってるよ」「ダイエットのため」「アハハ」

※あくまでも個人の感想です。の注釈すらない。

もう一度念を押しておくが、「それに比べたら薬物犯罪者がドラマに出ているぐらい、どーってことはない。」と、軽視しているわけではない。

「薬物犯罪者」が出演している映像作品にのみ、世間が過剰に反応していることを、問題にしている。

9.「報道でも禁止にするべきなのだが、時代が追い付いていないだけ。過渡期の混乱状態。」

ではなぜ、報道で、犯罪者の顔写真を、手に入らない場合には何十年も前の卒業アルバムの写真まで持ち出して、放送するのか。放送したがるのか。

それは、視聴者が見たがるから、顔写真を出した方が視聴率が上がるから、に尽きる。

現場のカメラマンは、それを撮るのに必死だ。それだけのニーズがあるからだ。

見たくないという人もいるが、見たい人も大勢いるのが実状だ。

そろそろ明らかになって来たことがある。

彼らは役者や芸人が「犯罪者として叩かれているところ」は見たいのだが、「しれっとドラマに出演しているところ」は見たくないのだ。

だがやはり、それだけでは「見たくないなら見なければ良い」のであって、「DVDの発売を取りやめる」理由には結び付かない。

10.DVDの発売を取りやめる必要があるのか。

そもそも、これを主張する者は、自分がうっかりとそのDVDを買ってしまった場合を想定して、「発売禁止」を訴えているわけではないであろうし、「うっかりと買ってしまった人に危害が及ぶ」ことを憂いているわけでもない。

むしろ、ドラマのDVDを購入するほどのファンであれば、犯罪者が出演していようが、どうしようが、そんなことで自分の『推し』が出演しているドラマのDVDが発売中止になる方に、憤りを感じているに違いない。

薬物犯罪者による被害を、それ以上広げないことを願うならば、むしろDVDを販売するべきである。

11.誰であろうと、犯罪者が関わった作品で、利益を得てはいけない。

この理屈が正しいのであれば、冒頭の、犯罪者が製造に関わった家電やマンションなども、販売してはいけないことになる。これを「映像作品」にのみに適用しようとするのは、今まで見て来たようにムリがある。

12.DVDの発売を取りやめさせる目的

DVDの販売により、犯罪者に新たな利益を与えることを憂慮している訳でもない。その程度のことであれば、「DVDの売り上げは〇〇被告には一切渡ることがない。」旨の契約を結び、それを発表してから販売すれば済む話である。

もう一つ解って来たことがある。彼らは、薬物犯罪者に対して、出来きる限りの制裁を与えようとしているのだ。

「薬物犯罪。それは許されることではない。最大限の代償で、償わせるべきである。」と。

一見、正義の様に聞こえないこともない。

薬物犯罪で捕まれば、その時点で社会的なダメージを受けるし、実刑判決が出れば、それなりの懲役なり罰金なりが課される。

一般人でも芸能人でも、それは犯した罪に対する代償であるので、特に芸能人にのみ、さらなる代償を払わせようと画策するのであれば、それなりの理由が必要となる。

13.「社会的な影響力のある者が犯した罪は重い。」

いわゆる有名人や警察関係者や教師などが犯罪を犯した場合、特に大きく報じられる傾向がある。

「それが抑止力にも繋がる。」

との考え方もあるようだ。

だが、今、話題にしているケースに限れば、それによる抑止力は期待出来ない。

「放映中止などにより、数億円の賠償を支払うことになる。ちょっとした出来心が悲惨な結果になるので、絶対してはダメ。」

と、言われても、

「オレが薬物で捕まっても、映画が上映中止になったりするわけぢゃないから、そんなことにはならないよね?」

と、軽く躱されてしまうであろう。

14.実際に行われていることは何か。

「有名税」と言う言葉がある。

有名だからという理由を言い訳にして、彼らのプライバシーを侵害することを正当化している。

いや、「言い訳」などの罪悪感すら感じていないはずだ。それが当たり前と思っている者の、なんと多い事か。

この考え方が一歩進んで、現在は「芸能人が薬物犯罪を犯したら、可能な限りの代償を支払わせて良い。」とのコンセンサス(社会的合意)が出来上がっているように思う。

「こう言う人は叩いて良い」という社会的な符丁が、いつのまにか定着してしまっている。

今回の場合は「薬物犯罪を犯した芸能人」だ。

そして彼に出来る限りの制裁を与えようと、「彼の関わる作品全て」をターゲットにして攻撃を始める。

もはやそこには、「上映を中止することに、ちゃんとした根拠があるのか?」などの考慮が入り込む余地は微塵も存在しない。

前例によって、今までに作り上げられて来た慣習に従い、パターンに一致した対象に対して、それは自動的に発動される。

自分がしていることによって、どのような被害が発生するのか?などは全く意識に登らないし、もちろんそれに対して責任を感じることもない。

「だって、犯罪者だろ? 何、被害者とか言ってんだよ。」と、言うであろう。それこそが、何も考えていない証拠である。

私がここで被害者と言っているのは、その作品に情熱を捧げて来た、他のキャストやスタッフの事だ。

「そんなの、5億でも10億でも、原因となった本人に払わせれば良いだろ?」

だから、自分のしていることは、犯罪者本人以外には、迷惑をかけていない。と言いたいのであろうが、そのような賠償は、制作会社の金銭的な損害を担保する程度の効力しか持たない。

映像制作に関わった者の多くは、現場での拘束時間に対して支払われた対価のためだけに、仕事をしている訳ではない。

その作品が公開された時の、全世界からの反応によって、さらに自分の価値を高めて行く。

そのために、日夜腕を磨き、現場での工夫や先人の技を学んで、さらなる高みを目指す。

作品が公開されない場合、全てがムダに終わる。とまでは言わないが、大きなダメージを被ることになる。

それらに対して、それ相応の代償を支払うことは不可能であるし、かつて同様のケースで、何らかの補填が行われたこともないであろう。

15.何が問題なのか。

被害者は存在する。

だが、攻撃者が、自分が被害を与えた存在に対して、何らかの考慮をすることはない。

社会はそのようにして、叩いても良い生贄を探している。

攻撃しても、反論して来ないような立場の弱い者、立場的に反論出来ないような状況に追い込まれている者。

いじめ問題も根底は同じだ。

いじめてもいい子。という認識をクラス内で作り上げ、あいつはいじめてもいいから。との認識を一度浸透させてしまうと、被害者の気持ちを考慮することをせず、皆がいじめているのだからと、自分の行為に何らかの責任を感じることもない。

「いじめられる方が悪い。」と、平然と言ってのけ、自分のしていることが正当なことだと妄信しはじめる。

これが今、薬物犯罪者に対して、世間が行っている実態である。

立場の弱い物を見つけるや否や、可能な限り最大限の罰を与えようと群がって来る。

コンビニなどで、ミスとも言えないような小さな瑕疵を突き、幾ばくかの商品の購入を盾に「俺は客だぞ!」と声を荒げ、店員に「土下座しろ!」と、高圧的な態度を迫る。

そんな卑劣な連中と、やっている事は同じだ。と、私には、そうしか感じられない。

もっと憂慮するべきは、そのような者の中には「自分はこの店員の教育のために、この店が少しでも良くなるために、やっているんだ。」と、本気で信じている者もいる。

芸能人が薬物犯罪を犯した際に「ドラマを放送するな」「映画を上映するな」「DVDを販売するな」と、さも自分が正義であるかのように声高に叫ぶ者は、私にはそれらの同類にしか見えない。

そして、一番重大な問題は、これらのことが、「正しい事」として、社会に定着しつつあることだ。

確かに、この問題に異を唱えることは難しい。ヘタをすると、自分も攻撃されかねない。

一般的な虐めの問題と同じだ。

これはおかしいよ。と、思うことに対して異を唱えても、理屈の通じない多数の感情的な言葉に押し潰される。

ネットでは、いとも簡単にそれが出来てしまう。

コミュニケーションの主戦場がネットに移行した現代の社会において、それはもう、防ぐ手段が存在しないのか。

それともなんらか対策が打たれ、常識的な反論が世間に響き、人々に再考のチャンスを与えられるような、そんなシステムが現れるのか。

人類の行く末は、そんな小さなシステムの不備によって、決定付けられてしまうのであろうか。

「始めに言葉ありき」

だが、それが『ヒト』の手に堕ちた途端に、それは自らを滅ぼす刃に変わり果ててしまったのか。


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