まあどうにかなるさ

日記やコラム、創作、写真などをほぼ週刊でアップしています。

真田太平記

2012-05-07 19:39:00 | 書評
前から読みたいと思っていた池波正太郎著『真田太平記』全12巻
先日読み終えた。
よく出来た時代小説だと思う。なかなか痛快である。
ただ、忍びの話しが中心なので歴史小説としてはどうだろう。
勿論、真田家の話しの部分に史実と違うことは書かれていないはずである。
織田徳川連合軍により武田家が亡ぼされるところから、この長い物語は始まる。
武田配下の真田家はこのときより、苦難の路を歩み始める。
真田昌幸は秀吉には好意を持つが家康に対しては最後まで敵対することになる。
多くの歴史小説は徳川家康を描く場合、たいがいは良く描くか悪く描くかであるが、この小説はフラットに描かれているのが興味深い。
僕は天下を取った人間より、天下を取れそうで取れなかった武田信玄や伊達政宗のような男にたまらなく魅力を感じる。
そして、天下人に一泡ふかせたような真田幸村のような男も大好きである。
真田幸村が若い頃、人質として上杉の家老、直江兼続の元に預けられ、多大な影響を受けたと言われているが、この小説ではほとんど触れていない。どうも池波正太郎は直江兼続をかっていないようである。
関ヶ原のおり、兄の信之は東側に、父の昌幸と弟の幸村は西側に味方する。
徳川秀忠率いる主力軍を昌幸幸村父子は上田城に引き付け、関ヶ原の決戦に遅らさしめている。
それでも西軍は敗北し、二人は和歌山九度山に押し込められる。
やがて、父の昌幸は亡くなり、大坂冬の陣において真田幸村は、その名を一躍有名にする働きをするのである。幸村は、大坂城唯一の弱点である南側に真田丸と名付けられた砦を築き、そこに篭って、関東側を散々に打ち破る。
簡単に大阪城を落とせぬとみた家康は、和議を結び、堀を埋め立てさせるのである。
半年後の夏の陣において、家康は、裸城となった大坂城を再び包囲する。
この時も幸村は手勢を率い、囲みを破って家康のいる陣へ襲い掛かるのである。
家康は、もはやこれまでと思い、腹を切ろうとしたと記録にある。
幸村の突撃がいかに凄まじかったかを物語っている。
天下人徳川家康を震え上がらせた男として幸村は歴史に名を残すことになる。
幕府は真田家の取り潰しを謀るが、幸村の兄信之は九万石を守りぬき、維新を迎えるのである。
さすがの家康も関ヶ原で敗北した薩長によって三百年後に幕府が滅ぼされようとは夢にも思わなかっただろうと思う。
幸村もあの世で、さぞ意外な心持ちで維新を眺めていたにちがいない。


グラゼニ

2012-04-21 00:27:39 | 書評
週刊モーニングに連載中の『グラゼニ』というコミックをご存知だろうか?
原作 森高夕次 漫画 アダチケイジ の一風変わった野球漫画である。現在単行本は4巻まで発売されている。
『巨人の星』や『ドカベン』など、従来のスポ根モノとは一線を画す。よく、プロ野球は夢を売る商売だと言われるが、この漫画は金銭面からプロ野球を描いている。
主人公は神宮スパーダースに所属する中継ぎ投手、凡田夏之介。左のサイドスローという特長のある投法を武器に辛うじて1軍にとどまっているプロ8年目の26歳独身。
彼の年収は1800万。サラリーマンではちょっと考えられないほどの高い額である。
しかし、プロ野球選手はサラリーマンよりずっと活躍できる期間が短いため、人生の収支としては全然合わないのだという。
解説者やコーチになれる選手は一握り、プロ野球選手はたいがいはつぶしが利かないので、引退の翌年から年収100万円代ということもざらにある。
主人公はプロ野球選手名鑑を頻繁に見ていて、常に対戦相手の年俸を頭に入れている。
所詮プロは金、自分より年俸の高い選手は上に、自分より年俸の低い選手は下に見てしまう。これがぶっちゃけ、プロの野球選手というものだそうである。
中継ぎ投手の職場はほとんどがブルペン、マウンドにも行くが、圧倒的に長い時間を過ごすのがブルペンである。そこで、肩を作るためのキャッチボールを続け、出番を待つ。
中継ぎ投手はとにかく投球数が給料に反映されるという。
ある日、凡田夏之介は年俸700万の代打と勝負をする。
この打者は、30歳、幼い子供二人を抱えている。
もし、ここで打てなければ、まず間違いなく2軍に落とされ、来期の契約はないかもしれない。幼い子供を抱えた打者の家族の将来が夏之介の脳裏を横切る。
だが、ここで、この打者を抑えなければ明日はわが身なのである。
夏之介は、お気に入りの定食屋の女性店員に思いを寄せる。
彼女は、別の球団の熱烈なファン。
だが、相手球団の中継ぎ投手の顔などは全く憶えてくれない。彼女には、毎回のように普通の客としての対応しかしてもらえない夏之介。
でも、現実はこんなものかもしれない。
グラウンドには銭が埋まっている。それを略した言葉がタイトルになっている。
普段、プロ野球を観る時は年俸何億かのスター選手ばかりに目がいきがちだが、プロ野球選手は夏之介のような辛うじて1軍にくらいついているような選手の方が圧倒的に多い。
そして、そんな彼らがプロ野球を支えている。
そこにスポットを当てたこの作品は、よくできた大人の漫画だと思う。


ONE PIECE

2012-02-16 17:46:19 | 書評
年末年始に帰省したとき、コミック『ONE PIECE』を妹から借りた。
妹宅にある全64巻のうち50巻を車に積んで自宅に帰って来た。ご存知、『少年ジャンプ』に長期連載中の尾田栄一郎著人気少年漫画である。
妹は、久しぶりに面白い漫画で、お薦めだと言う。
妹は何度も読み返しており、何度目かの途中、ちょうど50巻まで読んだので、とりあえず、そこまでを貸してくれた。
この漫画はテレビアニメ化や映画化もされていて、人気があることは知っていた。でも、正直あまり興味はなかった。
帰宅して、早速読んでみた。
16世紀の大航海時代をモデルにした海賊の話し。
でも、物語の舞台は架空の世界である。
しかも、非現実的で子供だましのバカバカしい設定なので、本来なら大人にはまるで物足りない低俗な童話のような内容である。
主人公のルフィは子供の頃、麦わら帽子をもらった海賊に憧れていた。大人になり海賊王を目指し、海に出る。
ルフィはひょんな事で食べた悪魔の実により、体がゴムのように伸びるゴム人間になってしまう。
あまりに意味不明な設定である。
この、悪魔の実は物語に重要な役割を果たす。
同じ効力のある実は二つと存在しない。
ある実は火を操れたり、手にしたものを凍らせたり、動物に変身できる体になったりする。
ルフィはこの能力を巧に操り、敵と戦う。
航海に出発したルフィは、航海共にをする仲間を捜す。
両手に刀を持ち、更に刀を口にくわえた三刀流の使い手、医者のトナカイや死なない悪魔の実を食べたセクハラのガイコツ、体の前半分がサイボーグの船大工など、全く理解不能な有り得ない仲間を次々に船に乗せて航海を続ける。
行き先も、空中に浮かんでる都市だったり、都市そのものが船のように航海していたり、もうめちゃくちゃ。
想像力だけを頼りにしたようなリアリティのかけらもない設定である。
だが、ストーリーは緻密だし、少年漫画に徹しているため、恋愛関係のようなどろどろした人間関係は出てこない。
物語の大部分を占める決闘のところでも、ルフィは決して敵を殺すと言う表現は使わない。
「ぶっ飛ばす」と言う。
敵を倒したあとは必ず宴会で締めくくる様式も安心できていい。
また、敵も味方も実にマンガチックで個性的なキャラクターで魅力的である。
素手で敵をやっつけるという単純明快なシチュエーションが格闘技のような心地よさを感じさせ、解りやすい勧善懲悪な展開がかつてのヒーローを思い出させてくれる。
読んでいるときは夢中になるけど、読後はほとんど何も残らない。
でも、それこそが漫画の本道なのではないだろうか。
もし、子供のときにこの漫画を勉強もしないで読んでいたら、間違いなく親に叱られる内容だと思う。
何故か息子は今のところ興味は示さない。
実に下らなくて何のためにもならない、面白いだけの漫画。
潔くていいと思う。
残りの巻を読むのが楽しみである。



東電OL殺人事件

2011-11-17 19:44:00 | 書評
先日、久米宏のラジオ番組にノンフィクションライターの巨匠、佐野眞一氏が出演していた。番組で話題になったのは、新作の『津波と原発』ではなく、10年以上前に発表された『東電OL殺人事件』だった。
その事件は衝撃的だった。
東電の美人OLが渋谷のアパートで遺体で発見された。彼女は夜は売春婦という別の顔をもっていたため、当時、マスコミで大々的に取り上げられていた。
図書館の蔵書を検索すると、近所の分館にあることがわかり、早速借りてきた。
事件があったのは1997年3月、渋谷円山町のアパートの一室で渡邊泰子、当時39歳の遺体が発見された。首を締められたと見られ、死後10日以上経っていた。
彼女は慶應大学経済学部を優秀な成績で卒業し、東電初の女性総合職として入社したエリートである。
事件のあった円山町はラブホテル街として知られている。奥飛騨のダムに沈んだ村の人々がその補償金を元に旅館を始めたのが、いつの間にかラブホテル街になっていった。
久米宏は番組の前に実際に事件のあったアパートに足を運んでいる。驚いたことにアパートは当時のままだろうと思われる古びた姿を残していたそうである。
泰子は殺害される4年ほど前からこの街で毎晩、客引きを行っていた。東電の仕事が終わると会社のある新橋から銀座線に乗り、渋谷で降りる。道玄坂の入口にある109のトイレで夜の化粧を施し、着替えをしてから円山町に立つ。そこで通りがかる男に声をかけ、必ず一晩4人の客を取るという凄まじいノルマを自らに課していた。
その後、終電に乗り、円山町の最寄駅である井の頭線神泉駅から同じ沿線の西永福で降り、母親と妹の待つ家に帰宅した。
休日は日中五反田のテレクラで客を取り、夜は円山町に立つという生活を繰り返していた。
何故、彼女がそんな事をしていたのかは今でも解らない。
ただ、当時管理職だった彼女の年収は一千万近くあり、金に困っていたのではなかっただろうと思われる。
そこには堕落とか、変身願望などといった言葉では片付けられない凄みを感じさせる。
東電の政治献金に絡む裏金に彼女が穴を開けてしまい、その穴埋めのためだという報道もあったが、佐野氏はその話しは否定している。
やがてゴビンダというネパール人が容疑者として逮捕される。ゴビンダは金に困っており、泰子と行為の後、彼女を絞殺し、バッグから現金4万円ほどを奪ったとされた。だが、佐野氏によると彼は冤罪だという。
ゴビンダは一審でこそ無罪判決が言い渡されたが、その後の控訴審、さらには最高裁の判決により有罪判決を言い渡され、無期懲役の刑が確定した。
公判中、検察側に決め手になる証拠の提出はなく、状況証拠のみであり、ゴビンダは一貫して犯行を否認している。
泰子が殺害されたアパートは、当時空き家だった。ゴビンダの姉が来日することになり、大家からゴビンダが鍵を借りていたが、その後姉の来日がなくなったにも関わらず鍵はなかなか返さなかった。空き家なのをいいことにゴビンダはこの部屋に泰子を招き入れたことがあるため、有力な容疑者とされた。
だが、ゴビンダは鍵を事件のあった日以前には返却しており、しかも鍵は開いたままだった。
鍵が開いている事を泰子が知っていれば、客を連れてそのアパートの部屋に入った可能性もある。
ゴビンダが仲間と住んでいた場所は殺害現場と隣接しており、犯人であれば死体のすぐ近くで10日以上も生活できるとはとても思えない。
事件のあった夜、泰子と客と思われる男女二人がアパートに入るところを目撃した人物がいるが、顔は見ていない。
佐野氏は、当時ゴビンダが働いていた幕張のインド料理店に実際に行き、仕事が終わる時間から円山町まで電車と徒歩で移動するが、目撃された時間までに現場に行くことはとても無理だと結論付けている。
そして、佐野氏はわざわざネパールまで行き、ゴビンダの家族や当時ゴビンダと共同生活していた男性数人に取材をしている。
彼らは不法滞在だったため、強制的に帰国させられていた。
ゴビンダも不法滞在で有罪になったが、その日のうちに強盗殺人の容疑で再逮捕されている。
ラジオで語られていたが、泰子の唇と乳首から唾液が発見されており、その唾液の血液型はゴビンダとは違うと言う。
だが、この証拠は裁判中は提出されなかった。
現在では出てきた証拠は必ず提出しなければならないが、当時は必ずしも証拠を裁判に提出しなければらないという事にはなっていなかったそうである。検察は意図的にこの証拠を提出しなかった事になる。
何故ゴビンダに有罪判決が下ったのか。
佐野氏の分析によると、日本はネパールに莫大なODAを実施しており、苦情などがこないだろうと考えられた事も一因ではないかとしている。
これもラジオで話されていたことだが、泰子が売春を繰り返していた頃、泰子はよく東電の会議室に入り、一人で居眠りをしていた。
その会議室にそっと入って行く男がいた。
彼は彼女を起こすわけではなく、ニヤニヤしながら泰子を見ていたという。
彼女が売春をしていることを知っていたと思われる。
彼は当時泰子の直属の上司、福島第一原発の事故で国民に謝罪した現東電会長その人である。
こんな話をラジオでしても大丈夫なのだろうか?
この話しは事前に佐野氏から聞いた内容として久米宏自身が話していた。
テレビより影響の少ないラジオであるという事、久米宏という大物キャスターであるという事、東電は広告を控えており、現時点でスポンサーでないという事、そういったパワーバランスの変化を考え、今しか言えないタイミングを狙った放送だったと思われる。
もし、ゴビンダが犯人でないとすれば、犯人は別にいることになる。
一見の客だったかもしれないが、そうではなかったかもしれない。
泰子は、手帳に客の名前や入ったホテル、金額などを克明につけていたそうである。その手帳は公開される事はなかったが、中には東電社員の名前もあったと言われている。
もしかしたら現東電会長も客の一人だった可能性もある。
泰子の父も、東電に勤めていた。父は泰子を溺愛し、泰子も父を心から慕っていた。父は泰子が二十歳の時に病のため他界する。重役の一歩手前だったと言われていた。
泰子は大学を卒業すると、父の元部下の紹介で自らも東電に入社する。配属されたのは企画部調査課。そこで彼女は経済の豊富な知識を活かした仕事を手掛けている。
泰子は研究所に出向になった事があり、その時にいくつか論文を発表している。いずれもハイレベルであり、彼女の優秀さを物語っているという。
泰子はあらゆる産業に不可欠な電気を作り出す会社に勤めている事を誇りにしていた。
佐野氏は泰子の母や妹に取材を試みるが、本人に断られたため、それは実現しなかった。
彼女が何故売春婦に滑落したのか、佐野氏は彼女がかつて拒食症になった事に注目し、本書の最後に精神科医への取材を行っている。
その中でインセストタブーを匂わせる記述がある。あるいはその事が泰子のトラウマになっていたのかもしれないが、今となっては薮の中である。
泰子はほの暗い闇に足を踏み入れたまま永久に抜け出ることはなかった。
闇の部分は日本の警察や東電をも包み込んでいるのかもしれない。
そして、その闇の中に足を取られたゴビンダは今も服役中である。


MASTERキートン

2011-11-07 19:10:07 | 書評
     
時々眠れない夜がある。
昨晩もなかなか寝付かれずにいた。
ふと、目覚まし時計を見ると、液晶の文字が消えている。
電池が切れている。
布団から出て、電池を取りに行く。
電池交換して、セットが終わると2時近く。すっかり目が醒めてしまった。
ここ数年、僕は一人で寝ている。
スタンドを点けて、ゴソゴソと漫画本を何冊か取り出した。
眠れない夜はよく漫画を読む。
長編だと途中で止められなくなるので、オムニバス形式がいい。
選んだ漫画は浦沢直樹著『Masterキートン』
20年ほど前の作品、全18巻
主人公は英国人の母と日本人の父をもつ平賀・キートン・太一。
かつて英国陸軍特殊空挺部隊に属しサバイバル術の教官をしていた経歴をもつが、今はロイズ保険の調査員をしている。
彼はオックスフォード大学出身の考古学者という一面も持ち、週に一度、日本の大学で講師として教鞭をとる。
歴史的な骨董品などに保険がかけられることが多く、真贋を見抜く目が要求される。
舞台は主に英国だが、依頼されるまま世界のあちらこちらで活躍する。
腕力はないけど、身につけた知識を武器に、幾多の危機をくぐり抜ける知性派ヒーロー。
砂漠に何人かで取り残される話しがあり、どうやって砂漠を脱出するのかが大変興味深い。
キートンのサバイバル術が活かされる。
意外にも、長袖のスーツは直射日光を避け通気性もよく、砂漠には合っている。
砂漠でも飲み水や食糧を確保する方法はあり、昼間は穴を掘って休み、夜移動する。
どれもなかなかよくできた話しで、何度読んでも面白い。
小一時間ほど読んだあと、再び布団にもぐりこみました。