映画『藁の楯』を観た。
前半はそれなりに楽しめる映画だったが、後半は重く、気持ちが離れてしまう映画だった。
カンヌ映画祭に出品するという。
それなりに面白い映画だけど映画祭で高評価を得るにはどうだろう?
今から30年前、カンヌ映画祭でグランプリを受賞したのが今村昌平監督の『楢山節考』
姥捨て山を描いた底抜けに暗い作品である。
この作品を、僕は大学のときに観た。もう30年前なのに、衝撃的な作品だったので、いまだによく覚えている。
主演は坂本スミ子、実年齢の30歳近い上の69歳のおりんの役をこなしている。緒方拳が息子の辰平役。
坂本スミ子はこの映画のために前歯を全て抜いて役作りをしている。
舞台は江戸時代と思われる信州の小さな貧しい村。
食い扶持を増やさないために、結婚して子供を作れるのは長男のみ。次男は一生独身を強いられ、飼い殺しにされる。辰平の弟を左とん平が演じている。
そして、70歳になるとお山参りと呼ばれる、7つ向こうの山に捨てられる運命が待ち受ける。
長野は山が多く、稲作に向く平地が少ない。
貧しいがゆえに、一人が生まれれば、一人死ななければならない。
映画では衝撃的なシーンがいくつも出てくる。
妊娠しても、子供は間引きされ、途中で下されることが多い。
胎児を田んぼに捨てるようなことが平然と行われる。
村には盗みを厳しく禁じる掟がある。盗みは、盗まれる側にも生きる上で切実な問題となるため、絶対に許されない。
盗みを働いた者は女房子供といっしょに生き埋めにされる。
そして、主人公の辰平は70歳になった自分の母親を背負い、お山参りへと出発する。
険しい山をいくつも越え、やがて二人は目的地にたどり着く。
白骨がそこら中に横たわる場所に、母親を置き、雪のちらつく中、息子は村へと帰ってくる。
自分の母親を背負って捨てに行く息子の気持ちはどんなものだっただろう。
辰平は孝行息子として描かれている。おりんは自分が捨てられる運命をきちんと受け入れていたが、実際はそうでなかった事も多かったはずである。
老人を生かせておけば、全員が飢えるかもしれない、極限状態の中で生まれてきた悲しい風習である。
当時、農業の生産性が低く貧しかった長野県は、今では日本一の長寿県である。
貧しくて天寿を全うできずにお山参りに行った人たちは天国でどう思っているだろう…