ああ、ひでェ目にあった。
バケモノ屋敷だ。
え? あそこのほら、山ン中の一軒家さ。
おデブの飼い猫が何匹もごろごろしてるだろ。
猫穴は開けっぱなし、食い物だって置きっぱなしでよ。
無用心もいいとこさ。
じつは、このごろ、オイラ、ちょいちょい行ってたんだ。
昨夜はまたとびきりの冷え込みだったしな。
たまにはうまいもん食ってあったまらなきゃ、
野良暮らしはやってられねェや。
なァに、あそこん家の若い奴とは話がつけてあるんだ。
オイラがにらめば引っ込んでおとなしくしてるのよ。
人間? ああ、なんかいるみたいだけどな。
あいつら夜はさっさと寝ちまうから心配ない。
そいで、オイラ、堂々と猫穴から入ってったわけさ。
ちょっくらごめんよ。
おじゃましますよ。
え? オイラだって挨拶くらいするんだぜ。
大きな声ではっきりとな。それが礼儀ってもんだ。
黙って入るのはドロボウだからなドロボウ。
あとは勝手知ったる他ニャンの家。
さてまずは腹ごしらえを、って、奥へ行きかけたら、
2階からドンドンて足音が。
なんだなんだ。
おい、みんな寝てるはずじゃなかったのか。
いきなりこっち来るぞ。
こういうときはすみやかに逃げるが勝ちだ。
逃げ道はいつもばっちり頭に入れとく。
な?
それが野良の常識ってもんだろ。
ところが、
見あたらねェんだよ猫穴が!
暗かったから…って、オイラ現役バリバリの野良だぜ。
暗闇でも見えねェわけがねェだろ。
足音がどんどんこっちへ来る。
それがなんか白っぽいぼーっとしたモノでさ。
人間か? いや、バケモノだバケモノ。
さすがのオイラも、うろたえた。
いや、正直、あせったぜ。
逃げ道をふさがれたってのがまずかったな。
表がだめなら裏だ、ってんで、とにかく裏へ走った。
あそこは、なんだ、風呂場か。
風呂場なわけねェだろ、ペンギンがいたぜ、ペンギン。
ちっこいのがうじゃうじゃと。
しかも窓は閉まってる。
オイラの手じゃ、あれは開けられねェからなあ。
で、また戻って。
そしたらバケモノと鉢合わせ。
あとはもう…パニック状態ってのか。
とにかく無我夢中だ。
あっち行って、こっち行って、あっちこっち体当たりして。
ああ、いっぺんくらい、バケモノの足踏んだかな。
なんだかむこうもぎゃあぎゃあ騒いでたけど、
オイラ、命がけなんだから、それどころじゃねェや。
そのうち、何がどうなったんだか、目の前の窓が開いたんで、
そこから飛び出して、まっしぐらのノンストップさ。
どこをどう走ったかもおぼえてないさ。
ああ、まいった。
あの家には近寄るんじゃないぞ。
バケモノ屋敷だ。
油断させといてつかまえる仕掛けがあるんだ。
出られなくなったら最後、バケモノに頭から食われちまうんだ。
いいか、おまえらも、気をつけろよな。