閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

東京駅の猪

2008-11-21 15:02:49 | 日々
地下街への階段をでたらめにおりたら、
フィレンツェの猪に会った。

地下街はとても広くて複雑なので、ここに来ようとしても
なかなかたどり着くことができない。
いつも偶然に通りかかっては「ああここだっけ」と思い、
すぐまた忘れる。そういう場所だ。
夜のまだ早い時間帯で、地上も地下もにぎわっているが、
この区画だけ奇妙にがらんとして、さびれた場末の雰囲気さえ漂う。

猪は待ち合わせ場所の目印なのかもしれないが、
待ち合わせをする人の姿は見あたらない。
鼻面は人の手に撫でられてぴかぴかに光っているものの、
全体的に猛々しすぎ、日本人好みでない気がする。
日比谷のゴジラのほうがまだ可愛らしい。
(あれだって、ゴジラじゃなくギーガーのエイリアン像だったら、
あんまり近寄りたくないんじゃないかと思う)

猪の背後には、ヤン・ヨーステン氏の首がある。
胸像と呼べればいいのだが、残念ながら頭部だけである。
自販機の隣に並べられ、うらめしげにむっつりしている。
この一帯の地名の元になった人物だというのに、ずいぶんな扱いだ。
猪にしろ首にしろ、銅像というものは地下には似合わない。

この巨大な多脚生物に似た地下街は、
空間デザインという意識が脚の末端のほうまで行き届かず、
お掃除だけで精一杯、という感じになっていくのである。
かつてはもっと怪しい薄暗い場所がいっぱいあった。
観葉植物のジャングルを抜けると熱帯魚がいて、
その先に映画のセットみたいな赤提灯があらわれたり。
ホームレスもおおぜいいたが、いつから見かけなくなったんだろう。

30分後にまた同じ場所を通りかかる。
リュックをしょった初老の女性がひとり、
足を止めて何かつぶやきながら猪の鼻をなでていた。
可愛がってくれる人が、いるのかもしれない。
コメント
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