久しぶりに面白古文書です。
11.9㎝x17.9㎝、23丁。江戸時代後期。
非常に珍しい本です。
これまでにもいくつか紹介してきた、面白瓦版を集めて冊子にしたものです(実際は、版を改めています)。『吾妻美屋希』との題ですから、江戸みやげだったのでしょうか。
一枚刷りの面白瓦版よりも相当小さいので、小回りがききます。そのかわりに字が小さく、読むのに苦労します。
23種ほどの面白瓦版(主として、見立て番付)が載っています。順に紹介していきます。小さい字で不鮮明な箇所も多く、これまで以上の難義が予想されます(言い訳尽くし(^^;)。解読できない部分(赤)のオンパレードになりそうですが、ブログ読者のアドバイスを、よろしくお願いします(^.^)
今回は、『當世人情へんねし穴盡』です。
上段(東の方?)と下段(西の方?)、それぞれについてみていきます。
上段:
上段前半:
當世 人情へんねし穴盡
【へんねし】ねたみうらやむこと。
大関 しまいかたにのるとミな上手なゐしやじやとしろふとハおもふてゐるといふ去年まであんまでゐた人
(しまいかたにのると皆、上手な医者じゃと素人は思ふていると言ふ去年まで按摩でいた人)
関脇 遊所で名高いつかひてをよつほどしにかねをつかふひとじやといふちいとばかりかねつかふてすいがつてゐる人
(遊所で名高い使い手を、よっぽど死金を使う人じゃと言ふ、ちいとばかり金使ふて粋がっている人)
小結 町かたのいとさんがげいこさんととりちがへるやうなけつく色町がいまでハといふ仲居やくわしや
(町方のいとさんが、芸子さんと取り違へるようなけつく色町が、今ではと言ふ仲居や詳しや)
前頭 しやうたくのねこを井戸ハたでくらわしているきんじよのことふれかヽ
(妾宅の猫を井戸端で喰らわしている近所の言触れ嬶)
同 なんぼよいなりをしたかきをおごつてもあのしやうばいハさがりじやといふしゆミたれた人
(なんぼ良い成りをし、高きを奢っても、あの商売は下がりじゃと言うしみたれた人)
同 堂嶋の人ハあかぬけハしてもたいこもちミたやうで上下モハにあわぬと言ふんどしのきたないかねかしの手代
(堂島の人は垢抜けしても、太鼓持ちみたようで、裃は合わぬと言ふフンドシの汚い金貸しの手代)
上段後半:
同 後家になつてからやつとはでにならしやつたあれでハ内のためにわるかろふといふ同行の佐平次
(後家になってから、やっと派手にならしやった。あれでは内のために悪かろと言ふ同行の佐平次)
同 さミせんやまひのさとへ謙々でるやつハなめくさりてうかめた男がおヽいといふ浄るりで〇かくふ人 (三味線病のさとへ謙々出るやつは、舐め腐りてうかめた男が多いと言ふ浄瑠璃で〇かくふ人)
同 他人どしあまりねんごろにするとしまひハらちもないことがある物じやといふつきあひのない人
(他人同士あまり懇ろにすると、終いは埒もないことがあるものじゃと言ふ付き合いのない人)
同 とミんとすればじんならずじやといふていへぬしの内福をそしるそどくしなんのなんじゆなじゆしや
(富んとすれば仁ならずと言ふて、家主の内福を誹る素読指南の儒者)
【内福】うわべよりも内実が裕福であること。
【素読】漢文の意味、内容は二の次とし、文章を暗唱するように読むこと。江戸時代に流行った。
同 からやうをミていしやのやうな手しやよつてまるでよめぬといふもんもうの人
(唐様を見て、医者のような手じゃ、よってまるで読めぬと言ふ文盲の人)
【唐様】楷書、隷書、篆書などの 中国風の書体。特に、江戸時代の知識人の間で流行した
同 おとわやより友三が地でハおとこがよつほどかミじやといらぬせわやく不おとこな人
(音羽屋より友三が地では男がよっぽど上じゃ、と要らぬ世話をやく不男な人)
【音羽屋】江戸歌舞伎を代表する名家、尾上家、坂東家の屋号。二枚目。
【(中村)友三】大阪の名道化役。三枚目。
下段:
下段前半:
大関 りつはなふしん見てありやほんまにかねハないのじや山じやげなといふかひしやうなし
(立派な普請見て、ありゃホンマに金はないのじゃげな、と言ふ甲斐性無し)
関脇 ながやへ来たよい女ほうをありやどこやらでほかこひしてゐたげなといふふきりやうなかヽしゆ
(長屋へ来た良い女房を、ありゃどこやらで外恋していたげなと言ふ不器量なかか衆)
小結 もうくわいたいなもしらずあのやうしハむすめがきらふてゐるげなといふおとこがつた人
(もう懐胎、なも知らず、名も知らず(<=Dr.Kさんのsuggestion)。あの容姿は娘が嫌ふているげなと言ふ男がった人)
前頭 みなミの薬やでもかまわずやくしやハありやかわらこじきじやといふはそくのたまつたわかい人
(ミナミの薬屋でもかまわず、役者はありゃ河原乞食やと言ふ歯糞のたまった若い人)
同 門頭さんハゑらい身持かわるいげな一かうぼうずのしよさいないげなといふ他家のらうじん
(門頭さんはえらい身持が悪いげな、一こう坊主の所在なげな、と言ふ他家の老人)
同 ちいとよいなりをする女子衆を見てありやだんながつまんでゐるげなといふきんしよの人
(ちいと良い身なりをする女子衆を見て、ありゃ旦那がつまんでいるげなと言ふ近所の人)
下段後半:(2つ目の項目から)
同 おきに入りのかうぐやをてきの代ものハ高いげなといふだい所で女子しゆにふられた手代
(お気に入りの香具屋をてきの代物は高いげなと言ふ台所で女子衆に振られた手代)
同 評判のむすめをきずいなといふてあまつさへ〇〇にこつてゐるげなといふ色のきかぬ人
(評判の娘をきずいなと言ふて、あまつさへ○○にこっているげな、と言ふ色のきかぬ人) 【きずいな】わがままな。
同 かけかまわぬ人がげいこにこつてゐるのをありやだまされて居るのじやといふ茶やの喋しらぬ人
(掛構わぬ人が芸子に凝っているのを、ありゃ騙されているのじゃと言ふ茶屋の喋知らぬ人)
【掛構わぬ】関心のない
同 じつの子もないにあのやうにかねのばしてしまひハどうするつもりじやといふびんほうな人
(実の子もないに、あのように金のばして終いはどうするつもりじゃと言ふ貧乏な人)
同 おなごの子にゆうげいをおしゆるとミないたづらになるといふむげいな娘をもつた人
(女子の子に遊芸を教ゆるとみないたずらになると言ふ無芸な娘を持った人)
【徒(いたづら)】無駄。
同 はやりものをはやう仕たりきたりするのハちよう/\しいのじやといふしミたれのぜになし
(流行り物を早う仕(立)たり着たりするのは喋喋しいのじゃと言ふしみたれの銭無し)
【 喋喋しい】おおげさな。
現代の様にコピー機があれば苦労も無かったでしょうが凄いものだと思いました。
私もちょっと読んでみましたが・・・降参です。
よく読めるな~と、何時も感心しています(^_^)
下段前半の「小結」のところの、「もう懐胎なも知らず」の部分は、「もう懐胎、名も知らず」と読めば少し意味が通じるように思いました。
ありがとうございます。
こればっかりやっていると、茶の木畑へ入り込んで、別の発想ができなくなります。要するに、頭が固くなってくるのです。
まだ、こんな調子で20以上あるかと思うと、気が遠くなります(^^;