遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

面白古文書『吾妻美屋稀』15.「しんはん 生類せり合問答見立て 初編」

2024年03月28日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』も15回目となりました。今回は、「しんはん 生類せり合問答見立て 初編」です。「しんはん 生類せり合問答見立て」は、この後、二編、三編と続きます。

生き物をネタにした競り合い問答が続きます。これまでの問答とは異なり、横に対となっていますので、ブログではそのまま横書きで表します。

四つに分けて載せます。

しんはん 生類せり合問答見立て 初編

・いなにうすあれども粉をバ引もせず(イナに臼あれども粉をば引きもせず) ・・・イナ(ボラ)の胃は、臼、そろばん玉などと呼ばれ、食される。
・すきくわがあれども鯛ハ土ほれず(鋤鍬があれども鯛は土掘れず) 【鋤鍬】鯛の頭骨

 

・目八ッのうなぎハ見るも四人前・・・八ツ目ウナギ
・あるく事五十人前むかでなり(歩く事五十人前ムカデなり)

 

・まな板にのせる鯉ハさむらいよ(まな板にのせる鯉は士よ)・・・まな板にのった鯉は暴れず、武士のように最期が潔いとされた。
・白鷺ハ五位のくらゐのおくげさま(白鷺は五位の位のお公家様)・・・官位の五位とゴイサギをかけた。

 

・井の内の鮒ハ世間をみずにすむ(井の内の鮒は世間を見ずにすむ) 【井の鮒】世間知らず
・井の元のかハづ大海しらずなり(井の元の蛙は大海知らずなり)

 

・蜂の巣ハはいたの妙とこヽろえよ(蜂の巣は歯痛の妙と心得よ) ・・歯痛には、蜂の巣を粉状にしてごま油にひたし、それを噛み締めた。
・赤がいるかんのくすりの極最上(赤蛙癇の薬の極最上)・・・   赤蛙を焼いて、子供の癇の薬とした。

 

・四ッ脚をもみぢ鳥とハなぜいふぞ(四つ脚を、紅葉鳥とはなぜ言ふぞ) 【紅葉鳥】鹿
・知らざるや猿のかへ名ハよぶこどり(知らざるや猿の替名は呼子鳥)  【呼子鳥】猿。鳴き声が人を呼ぶように聞こえる。

 

・ほね斗くらふている犬のかひしよなし(骨ばかり喰らうている犬の甲斐性無し)
・鰹かけめしくふ猫ハおごりもの(鰹掛け飯食う猫は奢り者)

 

・雁がさと人がいやがる名をつけし(雁傘と人が厭がる名を付けし) 【雁傘】湿疹、痒疹。
・なまづとハからだきたなきかこだらけ(なまずとは体汚き鹿子だらけ)
【なまず】 癜風(デンプウ)のこと。癜風菌により、米粒から豆ほどの斑点が多く出る皮膚病。    【鹿子】鹿の子模様

 

・くものすハ灸のふたにはりてよい(蜘蛛の巣は灸の蓋に貼りて良い)・・・灸のあとには膏薬などを塗った紙を貼った。
・ほうそうに柳の虫のきヽめしれ(疱瘡に柳の虫の効目知れ)  ・・・柳の虫は、痘の毒を肌の外へ出すとされていた。

 

・龍車でもあとへ引した蟷螂よ
【龍車】天子の車  【蟷螂の斧】 カマキリが前脚をあげて龍車にたちむかうが如く、 弱者が、自分の力をかえりみないで、強者に立ち向かうこと。無謀な事のたとえ、その逆に、大敵に立ち向かう気概をたたえる場合も。     
・鳳凰ハとりの中でも王さまよ(鳳凰は鳥の中でも王様よ)

 

・手伝ハせねどつばめハ土はこぶ(手伝いはせねどツバメは土運ぶ)
・山雀ハ人とおなじう芸をする(山雀は人と同じう芸をする)・・山雀(ヤマガラ)を飼い慣らし、いろんな芸を仕込み見世物とした。

 

・いしかけの亀ハつんぼがあわれ也(石垣の亀はツンボが哀れなり)
・鳥目とてくれたら盲どうぜんよ(鳥目とて暮れたら盲同然よ)

 

・ものごとにおどろく馬のおく病もの(物事に驚く馬の臆病者)
・大きうて牛ハいつでもよだれくり(大きうて牛はいつでも涎繰)【涎繰】涎をたらすこと

 

・一命のおハるもしらぬ火とりむし(一命の終わるも知らぬ火取虫)【火取虫】夏の夜、灯火に集まってくる蛾などの虫。
・生きながらぢごくへおつるあれ鼠(生きながら地獄へ落つる荒れ鼠)・・・「比叡の山 経を喰ひ裂く 荒れ鼠 地獄落しも 恐れざりけり」(狂歌)

 

・はぢをしれあほう烏と人がよぶ(恥を知れ阿呆烏と人が呼ぶ)【阿呆烏】カラスを卑しめていう語。 愚か者。
・ぶさいくな魚とへハふぐの横とびよ(不細工な魚問へば河豚の横飛びよ)  【河豚の横飛び】ふくれた顔、腹の出ばった姿などをあざけていう語。

 

・鶯のうたハさだめて梅の題
・蛙がよむ歌ハやなぎの題ならん(蛙が詠む歌は柳の題ならん)

 

・千疋の馬のくるうも一疋から(千疋の馬の狂うも一疋から)・・ 「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」、群集心理を表す諺。
・千丈のつヽミくだけるありの穴(千丈の堤砕ける蟻の穴)

 

・花見すて帰る雁がね北をさし(花見捨て帰る雁金北をさし)
・磁石にもあらねど河豚の北をむく・・・  キタマクラとは死亡した人を北向きに寝かせることから、猛毒のフグの別名。

 

・すくな世を横にゆくのハすかぬ蟹(直くな世を横に行くのは好かぬ蟹)
・不孝ものおやをくらふたふくろ鳥(不孝者、親を喰らうたフクロ鳥)・・ フクロウは成長した雛が母鳥を食べるという言い伝えがあり、転じて「親不孝者」の象徴とされている。

 

・公治長すゞめの聲をききわける
【公冶長】孔子の門人で、女婿。鳥の語を理解したという。
・晴明ハからすのこへをさとるなり(晴明は、烏の声を悟るなり)・・ 安部晴明は、烏(八咫烏)の鳴き声で物事を占なったと言う。

 


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6 コメント

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Unknown (クリン)
2024-03-28 10:54:45
千疋の馬のくるうも一疋から・・
人間の群集心理に例えられたら、馬のほうもたまったものではないでしょうね🐴
馬に同情します・・🐻(「バカ」の中に馬の字が入っていて、昔から同情していました☁)
ハチの子ごま油で歯痛は治まったのでしょうか・・
昔の人ってかわいそう・・⤵⤵
(あと、今NHKの大河ドラマの紫式部のストーリーの中に安倍晴明が出てくるのですが、「あべのはるあきら」って呼ばれていて、うちのチットが「あ~そっか~」ってハッとしていました!)
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遅生さんへ (Dr.K)
2024-03-28 11:10:05
相変わらず、現代語に読み下してもらっても、解説が無いと解らないものが多いですね。
これまた、調べるのが大変だったことだろうと思います。


何時も、何時も、揚げ足取りみたいになって恐縮なのですが、2点、入力ミスと思われる箇所に気が付きました。
入力しているうちに、ついついミスしてしまうのですよね(~_~;) 細かなことばかり言っていてすみません(~_~;)
1点目:「蟻の巣ハ」の文中の「蟻」は「蜂」の入力ミスかなと思いました。
2点目:「龍車でもあとへ引した蝙蝠よ」の文中の「蝙蝠」は「蟷螂」の入力ミスかなと思いました。
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Unknown (ぽぽ)
2024-03-28 13:11:53
遅生さんへ
今回の動物ネタは解説ありきですが分かりやすかったです(^^)
ぼらのそろばんみたいな胃たべられるなんてYoutubeでみたことありますが昔からなんですね。
言葉の読み書きは外国語ですが習慣や考え方や文化は以外と共通点があり面白いですね。(^^)
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クリンちゃんへ (遅生)
2024-03-28 16:06:57
生き物にまつわる諺や逸話は多いですね。それだけ、人間とのかかわりが強かったのでしょう。なかでも、馬はトップクラスの動物です。
それに、馬の耳に念仏、馬鹿、馬齢を重ねる・・・なぜか、あまり良くない風に使われることがおおいですね。
馬さん、かわいそう。

江戸時代の民間療法には、傑作なのがゴマンとあります。また、紹介します。

本当のところ、平安時代の安部晴明の読み方はわからないようですね。文書にルビでもふっておいてくれればよかったのですが。大体において、日本語の発音時代、今とはかなり異なっていたらしいです。
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Dr.Kさんへ (遅生)
2024-03-28 16:15:11
今回も相当手こずりました。
〆切(ブログの(^^;)ギリギリまで、あーでもない、こーでもないとパズルと言葉遊びを繰り返して、直前に閃いたのがカマキリです。実は、この漢字を蝙蝠と読んで、ずーーーっとそのままにして、あれこれ考えてきました。蝙蝠が龍車止める・・・ありそうですが、ありませんでした。これはひょっとして!蟷螂!?となったのが、〆切直前。で、本文は、蝙蝠のままで行ってしまったというのが、実情です(^^; 蟻の巣も同じです(^^; 
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ぽぽさんへ (遅生)
2024-03-28 16:31:08
本当にそうですね、昔の人が、今の我々との同じように、キタマクラは危ない、などと言っていたのは痛快ですね。でも、本当は逆で、今の我々が、当時の言い回しや言い伝えを使っているのですね(^^;
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