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従来は大学の医局人事により、黙っていても、研修医達がどの地方中核病院にも交替で必ず回ってきていた。研修医達は医局の命令で動いていたので、どの病院で研修するのか?は研修医本人の意思とは全く関係がなかった。
しかし、現在では、研修医達の研修先は研修医本人の全くの自由意志で決められるようになった。その結果として、ちゃんとした研修ができる病院に研修医達が集中するのは当然の現象と考えられる。
症例が豊富でちゃんとした研修体制が整っている病院に研修医は多く集まり、十分な人手も確保されてゆく。まともな研修ができない病院には研修医は決して集まらないので、その病院はますます人手不足に陥って、医療体制は完全に崩壊してゆく。
今後、個々の地方中核病院が生き残ってゆけるか否かは、その病院に若い研修医達が大勢集まるだけの魅力ある研修体制が整っているかどうかにすべてがかかっていると言っても過言ではないと思う。
****** 毎日新聞、6月13日
医師不足 地域医療を崩壊させるな
医療の根幹が揺らいでいる。地方都市の病院で産婦人科や小児科が閉鎖されたり、時間外の救急医療ができないところが続出している。たった1人の産科医がたまたま不在だったため腹痛を訴えた妊婦に胃薬を与え死産に至ったケースも報道されている。
国民皆保険制度なのに、地域によってまともな医療が受けられないとは不公平極まりない。医師の数は全体として増えているのに、都市部に集中し地方は手薄となる。このまま手をこまねいていると、地域医療は崩壊しかねないところまで来ている。
なぜ医師の偏在が起きたのか。若い研修医たちの都会志向と地方病院の診療体制・労働条件悪化の相乗作用でもたらされたといわれる。2年前に導入された新臨床研修制度が引き金となった。この制度は、幅広く診療できる医師の養成を狙って、医師資格取得後の臨床研修を「努力義務」から「義務」に格上げした。大学病院や大規模な一般病院は研修プログラムを公開し、研修医が自由に研修先を選べるようにした。
研修医たちは高収入でいろいろな症例に接することのできる都会の大病院をこぞって目指した。このため研修段階から地方離れが一気に進む。派遣医師の減った地方病院では「当直が月10回」など勤務環境が悪化し、それに嫌気がさして開業する医師が増えた。医師が激減した地方病院で働こうという使命感を抱いた研修医が現れてこない。この悪循環で一向に出口が見えないのだ。
医師不足の原因はこの他にもある。現在大学の医学部に学ぶ約半数は女性なのに、女医が出産・育児をする際のカバー体制が整っていない。医師の使命感が薄らぎ、多忙、訴訟の多い診療科を敬遠する傾向が強い、などなど。
功罪両面あったが、これまでは大学の医局が研修医配置のコントロール機能を受け持っていた。医局制度が形がい化した現在、その機能を代替する司令塔がない。
単に医師の数を増やせば済むという単純な話でもなさそうだ。厚生労働省は、患者が安全で質の高い医療を受けられるよう地域の中核病院に医師を集め、少人数で過酷な勤務をこなしている現状を打破したいと考えている。
結局、制度改正や対症療法などいろいろな処方せんを組み合わせていくしか打開の道はない。
例えば、県の中核病院にその地域の医師配置コントロール機能を付与する。開業医になる資格条件として過疎地医療の研修医経験を設ける。地方に勤務する研修医の奨学金制度を充実させる。地方の病院に外国人研修医を受け入れる。過酷といわれる産婦人科医と小児科医の待遇改善に診療報酬で更なる増額をする。医学部へ「地方枠」で入学した学生は地元への就職を義務付ける。
思いつくままに挙げたが医師不足の解消は官僚まかせにする問題でない。医療の専門家集団である医師会が率先して取り組むテーマだ。国民の期待もそこにあることを真正面から受け止めてほしい。
(毎日新聞 2006年6月13日)