ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

お産の場どう確保

2006年06月25日 | 地域周産期医療

中核病院産婦人科の勤務医は、産科診療だけではなく、婦人科悪性腫瘍の高度な手術や化学療法、末期がん患者の緩和ケアなども実施している。良性婦人科疾患の内視鏡手術なども多数行っている。体外受精などの不妊症治療も行っている。

施設を「集約化」すれば、分娩件数は少なくとも年間千数百件にはなるだろうし、同時に婦人科の手術件数も年間数百件に及ぶことだろう。

「集約化」後の1施設あたりの産婦人科医数の目標が5人程度ではあまりに中途半端すぎて、「集約化」前よりもはるかに激務となってしまうことも予想され、職場環境が改善されるとはとても思えない。職場環境が改善されない限り、産科医減少に歯止めはかけられないし、新人も入って来ない。

やはり、日本産科婦人科学会の医療供給体制検討委員会が提唱しているように、「集約化」後の中核病院は産婦人科医10人以上の体制を目標にすべきと思われる

****** 朝日新聞、2006年6月20日

減る産科医「職場環境の改善」急務に

 お産を扱う医師と病院・診療所の減少が止まらない。過酷な勤務と訴訟の多さから敬遠され、医師不足が労働環境をさらに厳しくする悪循環が断ち切れないのだ。妊娠中に病院が閉鎖されるなど、産む場所を求めてさまよう「出産難民」も増え続けている。深刻度を深めるお産の場の危機。赤ちゃんが生まれる場をどう確保し、育てていけるのだろうか。(阿久沢悦子、龍沢正之、山内深紗子)

施設の「集約化」推進へ

 お産ができる施設は全国に3063ヶ所、医師は7985人。日本産科婦人科学会が14日、初めてまとめた周産期医療の全国調査は、産科医が予想を超えて減っていることを明らかにした。常勤医師数は1施設あたり平均2.45人、医局員が多い大学病院を除くと1.74人と2人を切る。

 筑波大学の吉川裕之教授(産婦人科)は「予想外に厳しい数字。今年2月、福島県で1人で産科を担っていた医師が業務上過失致死の疑いで逮捕された影響で一人医長は激減するだろう。すっぱり産科をやめるか、複数の産科医を確保して続けるか、病院の対応が二極化している」とみる。

 今後10年間で、産科医の4分の1を占める60歳以上の多くが退職、30歳未満の6割を占める女性医師が結婚や出産に直面する。状況は厳しい。

医師10人以上

 少ない医師数で産科医療をどう切り回してゆくか。吉川教授が委員を務める同学会の医療供給体制検討委員会は4月、中間報告をまとめ、安全性確保のために、分娩施設の「集約化」を提唱した。その新しい周産期医療体制の将来像は、産科医療圏ごとに、産科医10人以上を集めた24時間救急対応の中核的病院を置き、地域病院や診療所と役割分担・連携する。急変時、30分以内に帝王切開が可能な体制が原則だ。

 厚生労働省も基本的には同じ考え方で、集約先の病院には「5人以上の産科医」としている。同省は都道府県に対し、今年度中に集約化計画をつくるよう求めている。14日改正されたばかりの医療法でも「地域の実情に応じた医療供給体制・連携体制」を定めるのは都道府県の責務とした。

 集約化は、産科医を現場につなぎとめる「職場環境の改善」面でも期待されている。1施設あたりの産科医数が増えれば、当直や待機日数が減るし、麻酔科などの支援体制も整い、訴訟リスクも減らせるからだ。

(以下略)

(朝日新聞、2006年6月20日)


人口35万人の中核市・いわきの医療体制

2006年06月25日 | 地域周産期医療

**** いわきBiweekly Review、日々の新聞 第76号

病診連携を進めるのが理想 いわきの産婦人科医の減少

 医師不足。そのなかでも産婦人科医は全国的に深刻で、くらしている地域で出産ができないところも出てきている。いわき市内では共立病院の産婦人科医が4月から1人減って3人になり、8月には福島労災病院の産婦人科がなくなる。産婦人科医をとりまく状況、いわきの現状、そこでの共立病院の役割など、共立病院産婦人科部長の土岐利彦さんに聞いた。

いわき市立総合磐城共立病院 産婦人科部長 土岐利彦さん

 10年前、いわきで出産できる病院は共立、労災、松村、呉羽の4つ、それに診療所が12あった。いま病院は3つ、診療所は6つに半減している。しかし、分娩数は半減していない。8月には労災の産婦人科がなくなるから、病院は共立と松村だけになる。茨城県北部でも北茨城病院が外来だけになったり、出産を扱っているのは助産院を含めて3つだけ。
 共立病院は4月から医師が1人減って3人。3年前は比較的多くて6人いたが、それと比べると半減している。昨年の分娩数は649件、そのうち双胎分娩が29件。双胎分娩はほぼすべて共立で診ている。帝王切開は242件。それに婦人科の手術を193件した。
 関西だと医師の数が多いので、これだけの件数をやるのなら医師は2桁になる。最低でも8、9人。それを4人でやってきた。1人が160件ほどの分娩。以前は医師1人で200から300の結構な数をやったが、産科は突出して訴訟問題が増えた。分娩数は減っているが、1人1人への説明、それに手続きが面倒になった。
 医師が3人になって大変だろうと、4月から、1カ月に30件の出産制限を始めた。誤解されているようだが、正常分娩の人の予約も受け付けている。予約がいっぱいになっても、前回のお産で帝王切開だったとか、救急で来たりと、すべて引き受けているので、月50件ほどになりそう。
 4月、5月の分娩がものすごく多く、一時的かもしれないが、いまのペースでいくと年間600件。制限した意味はない。この状況が続くと、正常な経過の人の分娩は開業している診療所でという形になるしかない。
 産婦人科医の不足はやむを得ない。これからも増える要素は見られない。医師の研修期間中は産婦人科も好評だが、実際には専攻するまでにはいかない。産婦人科は夜中に呼び出しが多い。それに、若者は対人関係のトラブルを嫌う。どうしたらリスクを回避できるかと考えても、産婦人科は敬遠される。
 医師の派遣はほとんど大学頼り。その大学にいま医師が残らず、減り、関連病院への派遣は難しい。産婦人科、小児科、麻酔科は派遣しようにも入局者が減っている。
 共立の場合、NICU(新生児集中治療室)、麻酔科、放射線科など、いろんな科の医師が協力して診療できる。高度診療、ハイリスクの妊婦の管理・出産、産科の救急、婦人科の悪性腫瘍など、病院でなければできないことを担う。正常経過の人の診療や分娩は診療所が受け持つ。そういう役割分担、病診連携をもう少し進めるのが理想だと思う。
 患者さんのなかには、共立でなければダメという人がいるが、一次救急は診療所でやってくれればと思う。夜間や休日の一次救急が負担になっている。日によっては夜間に2回ぐらい起こされ、2、3時間しか寝ないで翌日の大きな手術をすることもある。
 以前はそれで通ったとしても、いま世の中の目が厳しくなっている。無理をすれば、危機管理が難しくなる。本当に困った患者さんが来た時、対応ができなくなる。
 いま「どこで産もうか」と病院や診療所を選べる時代ではない。今後、どうなるか予断は許さないが、当面 、いわき市民分の出産は何とかなる。しかし、里帰り出産は難しい。

****** 福島民報、2006年6月24日
http://www.fukushima-minpo.co.jp/news/kennai/20060624/ronsetu.html

大丈夫か、いわきの医療体制

 人口35万人の中核市・いわきの医療体制が揺らいでいる。8月から福島労災病院が医師不足で産婦人科を休診するのをはじめ、産科、小児科を中心に病院勤務医が減少し、市民が抱く心配が現実のものとなりつつある。市では県に対し市立の2病院への医師派遣を要請していたが、1人も認められなかった。現在進めている市立病院改革の根幹にかかわる医師確保が進まなければ、地域医療全体に及ぼす影響は計り知れない。1日も早い改善策が待たれる。

 福島労災病院ではこれまで、3人の常勤医師が診療に当たってきた。今年1月、医師を派遣していた福岡県内の医科大学の意向で引き揚げが決まり、以後、新規の患者を受け付けていない。4月からは2人体制で診療を行ってきたが、残った2人も8月で退職するため、休診を余儀なくされた。医師の確保と診療再開のめどは立っていない。

 医師不足は6月定例市議会でも取り上げられた。5月末現在、市内の医療機関で産科または婦人科があるのは19施設で、平成7年と比べ4施設減った。この中で、分べん可能な医療機関は病院3施設、診療所8施設、助産所2カ所。出生数は減少傾向にあるものの、それを上回るペースで施設、医師が減少しているのが現実である。年間約300件の分べんを扱っている福島労災病院が産婦人科を休診する影響は決して小さくない。

 小児科についても厳しい現実が見える。4月末現在で市内の病院に勤務する常勤医師は11人で、平成14年に比べ7人減少した。市内で小児科診療を行う医師の数はほぼ横ばいだが、病院勤務医の減少で市立病院も午後からの急患診療は原則、紹介状持参か救急車で搬送された場合に限られる事態になっている。重症患者については須賀川市の国立病院機構か、仙台市の病院に運ぶケースも出ているという。

 地方の勤務医が減っている現象については、臨床研修制度の義務化で大学医局に在籍する医師が減っているのに加え、医師の多くが東京など都市部での勤務を希望しており、産科や小児科など特定の診療科を希望する医師が減少していることが背景にあるといわれる。特に国が臨床研修制度を義務化して以来、勤務医の減少に拍車がかかった―と指摘する医療関係者は多い。

 市内で病院を経営するある医師は「産科、小児科に限らず脳外科、呼吸器内科なども専門医不足は深刻。臨床研修制度が見直されない限り、県に医師派遣を要請しても期待は薄い」と語る。

 いわき市は現在、総合磐城共立、常磐の2つの市立病院改革に向け市長を本部長とする推進本部を立ち上げ、運営全般の見直しに着手しているが、最優先課題は医師の確保をおいてあるまい。救急医療も担う基幹病院が充実してこその安全・安心のマチづくりだろう。厳しい情勢を承知の上で、市民ぐるみで知恵を出さなければいけない時期にきたと考える。医療関係者に限定せず幅広い意見を集約して改善策を模索してほしい。35万を超す人が住む中核市であり、双葉地方、茨城県北部までカバーする医療ネットワークが一部とはいえ、破たんをきたすことは許されない。(倉島 隆)

****** 福島民友新聞、2006年6月8日

産科医不足/集約化も現実的な選択では

 県内では産科医不足がより進みそうな状況だ。いわき市の総合磐城共立病院が産婦人科医の減少で新たな自然分娩(ぶんべん)を引き受けないことを表明。同市の福島労災病院でも医師2人の退職で八月から産婦人科を休診することにした。

 磐城共立病院は医師が1人減って3人になり、負担が増えたために、リスクの高い妊婦のみを診療することにしたためだ。福島労災病院では4月から1人減って2人になっていたが、その医師が退職する。

 両病院では合わせて年間約700件のお産を扱っていた。この分をどうするのかが、市や医師会、そして市民にとって差し迫った問題だ。

 公立小野町地方綜合病院では産婦人科などで常勤医がいなくなったことなどが響き、運営資金不足となった。運営母体の構成市町村がその分を負担する方向で急場をしのぎそうだが、同じような問題を抱えるほかの公立病院もある。

 産科医不足は小児科医とともに全国的な傾向だ。拘束時間が長く、訴訟も多い勤務医を嫌い、開業する医師も目立つ。一方で高齢化も進む。

 新しい研修制度も拍車をかける。卒業後2年間の臨床研修のあと、大学の医局に残らない医師が増え、医局がその分、派遣病院から医師を引き揚げるからだ。医師不在の診療科は休診を迫られる。

 厚生労働省が2年ごとに12月末現在で行う調査では、2004(平成16)年の全国の産婦人科医は1万163人で02年より455人も減った。本県では153人で2年前よりも11人減。いわき、県北、会津で減少が目立つ。

 県内では1年間に約1万8千件の出産がある。病院と開業医でおよそ半数ずつだ。一人医長がお産を扱ったり、非常勤医が外来を担当してかろうじて運営している病院もある。

 しかし、医師確保に決め手はない。長期的には産婦人科医の診療報酬アップなども考えられるが、さしあたり、現状を踏まえてどう新たな対策を立てるかだ。国や産婦人科の学会では拠点病院への医師の集約化を打ち出しており、現実味を持つ。

 病院に勤務する産科医や小児科医を公立病院を中心とした拠点病院に複数集め、24時間体制の高度な医療を整えようというのが目的だ。

 実現までにはいくつかの問題が浮かぶ。拠点病院までの通院時間や手段などだ。短時間に搬送が必要な緊急事態への対処もある。医師がいなくなる病院では経営的な支障も考えられよう。また、拠点病院には麻酔科医や外科医も必要だ。

 安心して産める環境がなければ、少子化の解決にもならない。県、医大、地域が医師集約化に伴う問題を十分に話し合い、納得したうえで、実現できる地域から着手していくのが現実的な選択ではないか。

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参考:産科医不足、地方で不足深刻