コメント(私見):
産婦人科の場合は、いつお産になるか全くわからないので、分娩件数が多かろうが少なかろうが、24時間体制で誰かが常に病院の近辺に拘束されます。例えば、年間分娩件数が150件程度の施設だと、平均すれば分娩は2~3日に1件程度しかないので、分娩に備えてずっと病院内に張り付いていたとしても、実質何日もほとんど手持ち無沙汰のこともあるかもしれません。しかし、いくら仕事がなくても、いざという時に備えて病院から離れることができません。そして、いざお産が始まって、いよいよ産婦人科医の出番だと思って張り切っても、分娩経過が異常化した場合は、常勤産婦人科医1人だけでは十分に対応できず、人手が十分に整っている施設に救急車で母体搬送せざるを得ないかもしれません。
現代の産婦人科の診療では、個人プレーでできることには大きな限界があり、周産期医療にしろ、婦人科腫瘍医療にしろ、非常に大きなチームで診療する必要があります。しかし、地方の公的病院では、病院単独でいくら医師確保の努力をしても、必要な常勤医師数をすべて自前でまかなうのは非常に困難です。
地域に産婦人科の機能を残していこうとするのであれば、将来的に地域で必要とされる産婦人科専門医をいかにして養成していくのか?また、養成された産婦人科医をいかにバランスよく各地域に配置していくのか?ということを真剣に考える必要があります。
現状では、国や県には医師派遣機能をほとんど期待できません。また、民間の医師派遣会社に依存して、地方拠点病院の産婦人科常勤医を長期・安定的に確保していくのも不可能です。いろいろな意見があるとは思いますが、現実的に考えて、地方の拠点病院に産婦人科医を長期・安定的に供給できる機関は、大学病院以外に考えられません。
病院や医師の集約化は、相当強力なリーダーシップが存在しない限り、実行は非常に困難です。もしも、『多くの人を引きつけるカリスマ性のある教授の強力なリーダーシップの下に、毎年新たな人材が安定・継続的に確保され、大学病院や県内各地の拠点病院で多くの有能な人材が育ち、県内各地で医師が適正に配置されるような状況が実現する』とすれば、それはそれで理想的なあり方の一つだと思います。その理想を現実化するためには、県内の関係者が一体となって全面協力していく必要があります。
****** 中日新聞、長野、2009年2月11日
出産へ「安心ネット」定着 松本地域、医療機関の分担進む
医師不足で分娩(ぶんべん)を扱う病院が減少する中、安全な出産を確保するため昨年始まった松本地域出産・子育て安心ネットワーク制度が定着し、分娩と健診を扱う医療機関の役割分担が進んできた。松本市では、妊娠当初から分娩医療機関で診てもらう市民の数が半減し、診療所など分娩を扱わない医療機関に移ってきている。
同制度では、分娩を扱わない地域の診療所や開業医が「健診協力医療機関」として妊婦健診を担当し、分娩医療機関の負担を軽減する。妊婦は共通カルテ「共通診療ノート」を持ち、異なる医療機関で情報を共有する。
市によると、制度が本格化した昨年7月から今年1月までで、妊娠が判明した市民が受けた妊娠証明のうち、分娩医療機関の取扱件数は前年同期比54・2%減の356件。健診協力医療機関は同121・2%増の823件だった。
妊娠証明を扱った医療機関が妊婦健診を実施するのが一般的で、妊婦健診が分娩医療機関から健診協力医療機関へとシフトしていることが浮き彫りになった。
(以下略)
(中日新聞、長野、2009年2月11日)