ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師の計画配置と公共の福祉

2009年02月24日 | 医療全般

コメント(私見):

地方病院の職場環境は、20年前の方が今よりもはるかに過酷でした。

自分の所属する職場でも、当時、産婦人科だけでなく、麻酔科、眼科、脳神経外科、心臓血管外科など多くの診療科が1人医長体制で、院内の他科の医師と協力し、大学病院とも連携して、みんな必死になって年中無休で自分の科を守ってました。当時、医師達は今よりもはるかに過重労働だったことは事実です。

当時は、自分が、どの病院で研修して、いかにキャリアアップし、最終的にどこの病院に赴任するのか?は、医師本人の意向とは全く関係なく、すべて知らぬ間に決定されてました。また、いつ自分に転勤命令が下るのかも全く予想できませんでした。

現行の臨床研修制度が始まるまでは、それが医師人生の常識で、みんなこれが当たり前だと認識し、全く疑問を持ちませんでした。

現行の臨床研修制度が始まって、すでに5年が経過して、現行制度下で初期研修および後期研修を終えて、専門医資格を取得した医師達が、これから世の中に大量に出回り始めます。その医師達は、初期研修先も後期研修先も自分の自由意志で決めてきた人達です。彼らがこれからの自分の就職先や居住地を決める際に、今さら、誰かの命令や国家権力の強制で、意に反して動くことはないと思われます。

ここ数年でみんなの考え方が大きく変化し始めました。もはや、時計の針を20年前に戻すことはできません。研修医だけでなく、ベテラン医師の間でも昔の常識はだんだん通用しなくなってきました。

今、医師を適正に配置するシステムを再構築する必要に迫られています。しかし、地方病院の職場も、『本当はこんな職場には来たくなかったけど、命令されたのでイヤイヤやって来た人達の集団』では、決して長続きしないと思います。「どうしてもこの病院で働きたい!」と、喜んで来てもらえるような職場環境に変えていく必要があると考えています。

****** 毎日新聞、北海道、2009年2月20日

医師不足招いた「臨床研修制度」 大学病院が人材難に 医学部定員増など対策も後手

 各地の病院で相次ぐ休診や分娩(ぶんべん)中止、救急当番からの撤退、搬送患者の受け入れ拒否--。その元凶となっている医師不足を深刻化させたのが、04年度から導入された臨床研修制度だ。

 それまで新米医師たちは出身大学の付属病院で研修するのが一般的だった。大学は潤沢な人材を背景に地方へ医師を派遣し、地域医療を支えた。しかし、臨床研修制度の導入で大学に残る卒業生が減り、道内で今春卒業予定の医学生のうち大学病院以外の医療機関を研修先に選択する学生は6割近くに達する。人材難に陥った大学が医師を地方から引き揚げている。

 危機感を強めた北大、札幌医大、旭川医大は研修を終えた若手医師を呼び戻す共同事業に着手。これまで医師を派遣する地方病院は大学ごとに系列化されていたが、今後は3大学で共有し、医師たちの「修行の場」となる病院の選択肢を増やすという。旗振り役の近藤哲・北大教授(腫瘍(しゅよう)外科学)は「若手医師はメリットがない限り戻らない。大学が選ばれるようなシステムを作るしかない」と力を込める。

 臨床研修制度について、厚生労働省は10年度から必須科目を減らし、2年目の大半を希望の診療科での研修に充てられるよう見直す方針。専門医を早く育て、医師不足解消につなげるのが狙いだが、手稲渓仁会病院の酒井圭輔・臨床研修委員長は「医師に広い知識を身につけさせるという当初の理念はどこに行ったのか。促成栽培で医師は育たない」と批判する。北大病院の筒井裕之・卒後臨床研修センター長も「(10年度の研修医が)一人前になるのは3年後。その間に医療は崩壊してしまう」と悲観的だ。

(以下略)

(毎日新聞、北海道、2009年2月20日)