atonic bleeding
【定義】 弛緩出血とは、分娩第3期または胎盤娩出後に、子宮筋の収縮不全(子宮弛緩症)に起因して起こる異常出血(500mL以上)である。
【病態】 子宮筋の収縮不良により、胎盤剥離部での生理学的結紮とよばれる止血機序が障害されて、大出血をきたす。
【発生頻度】 (最新産科学・異常編より)
500~1000mLの出血:15.2%
1000~2000mLの出血:2.6%
2000mL以上の出血:0.14%
【症状】
①持続的外出血
②子宮の柔軟と子宮底上昇
③全身症状:貧血、ショック
④その後の経過で、血栓および塞栓、腎不全、DICなどを起こすことがある。
Sheehan症候群:分娩時の大出血のショックに伴い、下垂体前葉に虚血性梗塞が起こり、その結果、下垂体細胞が破壊されて下垂体機能不全に陥った病態。
【予後】
2000mL以上の出血は極めて危険である。
母体死亡は出血死が第1位を占めている。
【弛緩出血の原因】
①多産婦
②子宮壁の過度の進展:
多胎、巨大児、羊水過多症
③子宮収縮を妨げるものがあるとき:
膀胱・直腸の充満、子宮筋腫、手術創(帝王切開後)、
胎盤・卵膜の遺残
④子宮筋の疲労:
微弱陣痛、遷延分娩、過強陣痛
⑤子宮弛緩作用のある薬剤:
吸入麻酔薬(セボフルランなど)
【治療】
(1) 出血性ショック対策:
①輸血、輸液、②ショックの治療
(2) 子宮収縮薬投与:
①オキシトシン、
②プロスタグランジンF2α、
③麦角剤(マレイン酸メチルエルゴメトリンなど)
(3) 子宮収縮促進処置:
①導尿、
②子宮底輪状マッサージ、
③遺残物除去
(4) 双手子宮圧迫法:
腟内に挿入した内手と腹壁上の外手の間に、子宮体および子宮頚を挟んで、恥骨結合に向けて強く圧迫する。数分ないし数十分間圧迫して止血を図る。
(5) 子宮腟強圧タンポン:
子宮腔および腟内に滅菌ガーゼで固く充填する方法。麻酔下で行うことが望ましい。外手で子宮底を触りながら、子宮腔の最上部より隙間なくガーゼを充填し、腟も同様に充填する。ガーゼはタンポンの役割を担い、周囲の神経叢を刺激して子宮収縮を促す。
(6) 子宮動脈塞栓術(UAE)
(7) 開腹手術:
①子宮摘出術
②子宮動脈結紮、内腸骨動脈結紮