ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

Hirschsprung病

2011年08月08日 | 周産期医学

Hirschsprung's disease

【病態】 肛門側腸管の壁内神経節細胞(Auerbach神経叢およびMeissner神経叢)が先天的に欠如するため腸管の蠕動運動が起こらず、腸閉塞症状をきたす。

Hirschsprung3
腹部の外観

【疫学】 本症の発生頻度は約5000人に1人で、低出生体重児が5%と少ないのが特徴である。男女比は3~4 :1と男児に多いが、病変範囲が長くなるほどほど女児の占める割合が高くなる。

本症の70%は孤立例だが、家族内発生が3~5%にみられる。12%に染色体異常を合併し、うち90%以上はDown症候群である。また、18%に他の奇形を合併し、心奇形や消化管奇形、口唇・口蓋裂、多・合指症などを認める。合併奇形は無神経節腸管の長い例や家族内発症例に多く見られる。

【臨床症状】 病変の長さにより臨床症状の程度に差がある。

本症の90%に胎便排泄遅延を認め、新生児例では腸管ガスの貯留が顕著で、胆汁性嘔吐をみることが多い。時に難治性腸炎を併発し、進行すると敗血症に陥る危険性がある。約 5%に消化管穿孔がみられ、穿孔部位としては盲腸や虫垂が多い。新生児期に原因不明の結腸穿孔をみた際には本症も考慮する。

無神経節腸管が非常に短い症例では、難治性の便秘症として管理され乳幼児期以降、場合によって成人になってから来院、診断されることもある。

【病型分類】 無神経節腸管の範囲により、short segment type(下部直腸に限局)、rectosigmoid type(S状結腸まで)、long segment type(S状結腸より口側の結腸に及ぶもの)、entire colon type(全結腸に及ぶもの)、extensive type(回腸終末部を越えて口側小腸に及ぶもの)に分類され、short segmentおよびrectosigmoid typeが本症の約80%を占める。

※ long segment typeの約50%にRET遺伝子異常が存在するといわれる。(家族内発生)

【診断】

● 直腸診で挿入した指を引き抜くと、多量のガスや水様便の噴出をみることがある。(explosive evacuation)

● 腹部単純X線検査:
腹部全体に腸管ガスの増加、拡張を認めるが、直腸は拡がらずガスが貯留しないため骨盤内のガスは欠如する。

Hirschsprung1

● 注腸造影:
無神経節部腸管はnarrow segmantとして描出され、その口側腸管は拡張し、典型例では巨大結腸(megacolon)を呈する。この腸管口径の変化(caliber change)が特徴的所見である。

Hirschsprung2
?: caliber change(+)

※ 無神経節部腸管が全結腸に以上に及ぶ病型では、典型的なnarrow segmant がみられずに鉛管状を呈する。

● 直腸肛門内圧検査:
正常例においては、直腸が伸展されると内肛門括約筋が弛緩して肛門管内圧が低下する。これは直腸肛門反射と呼ばれ、壁内神経を介して伝達される局所反射である。Hirschsprung病ではこの反射が欠如する。

※ 新生児期では正常児でも反射が出にくい場合があるので注意を要する。

● 直腸粘膜生検:
粘膜下層の神経節細胞欠如と、アセチルコリンエステラーゼ陽性の外来神経線維増生により確定診断が得られる。

【治療】 本症と診断されれば外科的治療が必要となる。

・ 根治手術(結腸pull-through手術): 肛門側の無神経節腸管を切除し、口側の正常腸管を引き下ろして肛門部に吻合する。

※ 基本術式として、Swenson法、Duhamei法、Soave法がある。今日ではこれらの術式を応用した鏡視下手術が標準術式となりつつある。

・ 無神経節部腸管が長く、浣腸や洗腸で排便コントロールが困難な場合には、人工肛門を造設し、乳児期(体重6~7kg)になってから二期的に根治術を行う。

【予後】 病変が全結腸以上に及ぶ症例を除くと死亡率は2%程度であり、予後は良好といえる。しかし、広範囲無神経節症においては排便管理や栄養管理に難渋し、腸炎による敗血症から死に至る例もある。