月経困難症は月経期間中に月経に随伴しておこる病的症状をいう。下腹痛、腰痛、頭痛、悪心、嘔吐、いらいらなどの諸症状がみられる。子宮筋腫、子宮内膜症などの器質的疾患を除外できれば機能性月経困難症と診断する。10歳代の月経困難症のほとんどは機能性月経困難症であり、初経後3年以内に始まり、年齢を重ねるに伴い徐々に軽快することが多い。次第に症状が増悪する器質性月経困難症とは対照的である。機能性月経困難症の主な原因は、子宮頸管の狭小やプロスタグランジン(PG)の過剰産生による子宮の過収縮である。月経に対する不安や緊張などの心理的要因も関与するとされている。
薬物療法
① 非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
機能性月経困難症治療の第一選択としてPG合成阻害薬を用いる。アスピリン、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)、メフェナム酸(ポンタール®)、イブプロフェン(ブルフェン®)などは即効性が高い。NSAIDsは機能性月経困難症患者の約80%に有効である。
② 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
NSAIDsで十分な疼痛緩和が得られない場合や副作用が問題となる場合には、LEPを選択する。LEPは機能性月経困難症患者の90%以上で疼痛が緩和される。ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠、ルナベル®配合錠LD、ルナベル®配合錠ULD、ジェミーナ®配合錠が保険適用となっている。投与法別では、28日周期で消退出血を起こさせる周期投与より、長期間連続投与のほうが疼痛日数を減少させるという報告がある。副作用としては静脈血栓症に注意する。
③ 子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)
経口剤による治療が難しい場合や血栓症リスク(肥満、喫煙者、家族歴など)がある患者ではLNG-IUS(ミレーナ®52mg)も有用である。
④ ジエノゲスト
ディナゲスト®︎錠0.5mgの有効成分であるジエノゲストは第4世代プロゲスチン(合成黄体ホルモン)で、アンドロゲン作用をなくした新しいプロゲスチンである。経口投与により子宮内膜へ強い作用を示すことと抗アンドロゲン作用が特徴である。ディナゲスト®︎錠1mgは子宮内膜症治療薬として2007年に承認され、2008年より発売されている。ディナゲスト®︎錠0.5mgは月経困難症治療薬として2020年1月に承認され、2020年5月より発売され現在使用可能である。喫煙などの血栓症リスクがあってLEPを投与できない場合などに有用と考えられる。
⑤ 漢方薬
PG産生抑制作用を有する芍薬を含む芍薬甘草湯、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰建中湯などの漢方薬も選択肢の一つである。即効性はないが、4~12週間の投与で症状改善が期待できる。
⑥ 鎮痙剤
子宮の過収縮を抑制するブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)が有効な場合もある。
非薬物療法
薬物療法が無効の場合は心理・社会的背景が関与している可能性があるので、カウンセリングや心理療法を考慮してもよい。月経に対する正しい知識を教育することも大切である。
産婦人科診ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ305 機能性月経困難症の治療法は?
1. 鎮痛薬(NSAIDsなど)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、またはレノボルゲストレル放出子宮内システムを使用する。(B)
2. 漢方薬あるいは鎮痙薬を投与する。(C)
参考記事:
子宮内黄体ホルモン放出システム
参考サイト:
ディナゲスト錠0.5mg、持田製薬株式会社
参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百枝幹雄編、2017