ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)

2020年08月09日 | 生殖内分泌

premenstrual syndrome : PMS
premenstrual dysphoric disorder : PMDD
selective serotonin reuptake inhibitors : SSRIs

月経前症候群(PMS)とは、「月経前3~10日間の黄体期に発症する多種多様な精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減弱あるいは消失するもの」をいう。重症型で精神症状主体の場合は、月経前気分不快障害(PMDD)と分類する。精神神経症状として、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などがあり、自律神経症状として、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感などがあり、身体的症状として、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。日本では生殖年齢女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を有するといわれる。欧米と同じ基準を適応すると生殖年齢女性の約5.4%で社会生活困難を伴う中等度以上のPMSが認められる。PMDDの頻度は日本では約1.2%である。PMS/PMDDの症状が患者の日常・社会生活に影響を与える場合には治療対象となる。

カウンセリング・生活指導・運動療法
生活指導には、症状日記の記録、疾患の理解、頻度と発症時期、重症度の位置づけの認識(認知行動療法)などがある。規則正しい生活を送り、定期的に有酸素運動を行い、喫煙とコーヒーなどの嗜好品を制限する。重症の場合には仕事の制限、家事の軽減などを指導する。

薬物療法:
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬利尿薬鎮痛薬漢方薬などがある。欧米ではSSRIsがPMS、PMDDの第1選択薬となっている。患者とよく相談して治療薬剤を決めることが肝要である。各薬物療法の効果、メリット、デメリットを詳細に説明をして、患者本人に処方する薬剤を選択してもらう(informed choice)ことを原則とする。

婦人科的治療としては、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬のほか、E₂貼付+レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)などもセカンドラインの選択肢として挙げられる。難治症例ではGnRHアゴニストによる排卵抑制の選択枝がある(保険適用外)。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬や精神安定薬を希望しない患者には漢方薬を投与する。(処方例:当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、女神散、抑肝散加陳皮半夏など)

PMS/PMDDの重症例(精神症状が強い時)は、精神科または心療内科に紹介する。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ404 月経前症候群の診断・管理は?

Answer
1.発症時期、身体症状、精神症状から診断する。(A)
2.カウンセリング・生活指導や運動療法を行う。(B)
3.利尿薬や漢方薬を処方する。(C)
4.ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠などの低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬を処方する。(B)
5.精神症状が主体の場合、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)により治療する。(B)
6.精神症状が強い時は精神科または心療内科に紹介する。(C)

月経前症候群の診断基準(米国産婦人科学会、2014)
過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、下記の情緒的および身体的症状のうち少なくとも1つが存在すれば月経前症候群と診断できる。
情緒的症状
 ・抑うつ
 ・怒りの爆発
 ・易刺激性・いらだち
 ・不安
 ・混乱
 ・社会的引きこもり
身体的症状
 ・乳房緊満感・腫脹
 ・腹部膨満感
 ・頭痛
 ・関節痛・筋肉痛
 ・体重増加
 ・四肢の腫脹・浮腫
※これらの症状は月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しない、いかなる薬物療法、ホルモン摂取、薬物やアルコール使用がなくとも存在する。その後の2周期にわたり繰り返し起こる。社会的、学問的または経済的行動・能力に、明確な障害をしめす。

月経前不快気分障害の診断基準(DSM-5)
(米国精神科学会、2013)
A. ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経修了後の週には最小限になるか消失する。
B. 以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
 ① 著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)
 ② 著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
 ③ 著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
 ④ 著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚。
C. さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。
 ① 通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
 ② 集中困難の感覚
 ③ 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
 ④ 食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
 ⑤ 過眠または不眠
 ⑥ 圧倒される、または制御不能という感じ
 ⑦ 他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加
D. 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。
E. この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。
F. 基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、前提的に下されてもよい)。
注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。

参考Webサイト:
月経前症候群、日本産科婦人科学会

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百瀬幹雄編、診断と治療社、2017