五感で観る

「生き甲斐の心理学」教育普及活動中。五感を通して観えてくるものを書き綴っています。

やまとびと

2010年11月21日 | 第2章 五感と体感
多摩川べりにある古墳のひとつは、五島美術館の敷地内にあります。多摩川を下に望み、ビルの無ければ富士山の姿を愉しむことができるはずなのですが、それでも風情を残し、ほどよく整備された山の斜面に茶室がいくつか点在しています。

どんな豪族の古墳かは解りませんが、ここに眠る魂はなんと幸せなこと、としみじみ思いながら敷地を散策してきました。

今、開催されている源氏物語絵巻展は、そのような環境の中で開催されています。

長方形のそれほど大きくない展示室を廻るように収められた絵巻物をじっくりと堪能するには少々混んでいましたが、観覧者はため息なんぞを搗きながら、それぞれに観入っておられました。

グループで来られる方の会話は、文化人類学的にとても面白く、絵巻を眺めながら耳を働かせると、とても興味深いことに気付きました。
それは、ほとんどの方が「源氏物語を読んでいない」のです。
草書を自在に操ることが出来る人や絵巻の隅々まで語ることのできる人はそうそういらっしゃらないとは思いますが、物語を読んでおらず、源氏物語のイメージに引き寄せられていらしている方の率のほうが高いようなのです。

やまとびと「大和人」の好奇心は、日本人としてのアイデンティティと言えるかもしれません。
奈良時代、海を越えてやってきた渡来人との交流、新しいもの、美しいものを見て、それを自分の中に摂取していく
能力は大和人の資質なのだと思います。

茶の湯の世界は、「○○好み」という言葉があります。「写し」という概念も肯定的な意味で継承されていきます。

そのようなことを思うと奈良遷都千三百年の現在、今生きている私たちが体内に宿らせている能力は如何程のものか、もしかしたら、潜在している能力のほうがはるかに多いのかもしれません。

他者の「好み」を受け容れ、それを「写し」ていくことが、美を静々と受け継いでいく大和人の細やかさを個性として体系付けてきたように思えてなりません。

やまとびとは、今に生きている、と思った源氏物語絵巻展でありました。

十一月二十八日まで開催です。
庭の散策を是非お薦めいたします。

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