いい後味じゃないのに、めちゃくちゃ残る。
複雑な気分です。
「ムサン日記~白い犬」70点★★★★
「息もできない」に続く才能と大評判の作品。
確かに「息も~」より、ワシには残りました。
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脱北し韓国にやってきた
おかっぱ頭の青年スンチョル(パク・ジョンボム。監督も)。
脱北仲間で同居人のギンチョル(チン・ヨンウク)は
よくも悪くも韓国暮らしに馴染み、
危ない仕事も手を出し、首尾良くやっているが、
無器用なスンチョルは
お金にならないポスター貼りのバイトをする日々。
ある日スンチョルは一匹の白い犬を拾い、
可愛がるのだが……。
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犬が出てくる映画なんで、相当な覚悟して見にきましたが、
やっぱり辛かった。
いつ犬に何か起こるんじゃないか、
スンチョルにも何か起こるんじゃないかと
127分気が気でなく
終わったあとにはぐったり。
正直、見終わってすぐは「見たくなかった!」と思いましたが
しかし不思議なことに、いま思い返しても
すべてのシーンが鮮明に蘇り、
胸の痛みまで、キシキシと蘇ってくる。
これは内容の好き嫌いでなく
評価すべき作品だと思いました。
脱北者として差別をうけ、仕事もなく、ポスター貼りをする
孤独なスンチョル。
彼の孤独の理由には、
高潔さや無垢さゆえの頑固さ、融通のきかなさがある。
画面では語られないけれど、さらに読み込むならば、
北朝鮮での過去や辛い経験が、
彼をそうさせているのだろう。
そんな彼の姿を、無垢な白い犬と重ね合わせて
描いているんですね。
主演・初監督のパク・ジョンボム氏には
型にはまらない若さと、
逆にあざとさギリギリで心をついてくる
微妙な巧妙さが同居している。
巧いんですが、
いかんせん暴力にまみれた世間で、
一人と一匹の姿があまりにか弱く、危なげで
犬がどうなるのかばかりに神経がいき、
別の意味で「息もできない」(苦笑)。
ラストの衝撃も、
おそらく観客の期待を裏切る方向の衝撃だと思います。
生きていくために無垢を捨て、世俗にまみれてゆかんとする
スンチョルへの罰なのか、と考えたけど
いやいや、あれは
汚濁を呑んだ、彼の心理を写すものに他ならない。
ある意味では大人になる汚さ、にも似ていて
ちょっと共感できる部分もあります。
どうにもならない現実への
冷めきった提示なのかなあと。
救いがないけど、忘れられない映画になりました。
★5/12(土)からシアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開。
「ムサン日記~白い犬」公式サイト