アメリカ人はよく酒を飲む。もちろんそれはルビー色の赤い酒、バーボンです。歴代大統領にもバーボン党は大勢います。あの16代大統領リンカーンからしてそう。南北戦争当時、「北軍司令官・グラント将軍が飲み過ぎて困る」と注進された時も、将軍を叱るのではなく、こともあろうに「彼の飲んでいる銘柄を教えて欲しい」と答えたという。それは後年調べたところによるとオールド・クロウでした。グラント将軍も18代大統領に選ばれています。
あるいは初代大統領ジョージ・ワシントン。彼は自宅にバーボン蒸留機を備え、晩年はそれで作ったバーボンを販売していたといわれる。アイゼン・ハワーはワイルド・ターキーをこよなく愛した。バーボンが人々を酔わせるのは、その赤い色の中に生きるアメリカン・スピリットのためです。WhiskeyであってWhiskyでない酒「バーボン」に、我々も酔いしれたい。
バーボン・ウイスキーのスペルのほとんどが「WHISKY」ではなく「WHISKEY」と「E」が入っています。(ご存知でしたか?)これを語るにはまず、バーボンを産み出した人々のルーツを説明しなければなりません。アメリカ大陸発見後、真っ先に移住したのはイギリスからの清教徒で、マサチューセッツやNYに住みました。18世紀になると、スコットランド人やアイルランド人も渡って来ましたが、清教徒たちは宗派が違うため同じ地に住む事を嫌った。そこでスコットランド人やアイルランド人は、ペンシルバニア、メリーランド、ヴァージニアなどに移り住み、開拓民となる。彼らがその地に移り住んで最初に作ったのは、ラム酒やリンゴのブランデーだったが、次第に簡単に手に入る、ライ麦やコーンを主原料としたウイスキー造りに励むようになる。といっても、この酒は飲むためより、通貨の代わりでもあった。
ところが、1776年独立戦争が終わると、無税だったウイスキーに税金がかけられるようになる。これに反発した開拓民たちは、税金から逃げるため、それまで住んでいた土地を後にして、さらに奥のケンタッキーに移り住む。そこはトウモロコシを作るには絶好の土地で、しかも石灰層から流れる良質の水「ライムストーン・ウォーター」が豊富に湧き出る所でした。
1789年バプティスト派のクレイグ牧師が、家計の足しにと庭先で造ったウイスキーが、香りよく、真っ赤な美しいルビー色をしていることで評判になる。(バーボンの始まりには諸説紛々)その色の理由は、内側が焼けた樽で熟成させたことにあった。この技術の発見については、うっかり焼いた樽に入れてしまったとか、魚を入れてあった樽を使うため、匂いが移らない様に樽を焼いた、等いろんな説がある。いずれにせよ、この焼いた樽のおかげでバーボンの原型が出来上がった。「バーボン」の名前の由来は、アメリカ独立を助けたフランス軍に感謝の意を表し、フランス王家の名「ブルボン」(バーボン群)が現在のケンタッキー州の一部に付けられたことから「バーボン・ウイスキー」と名付けられたらしい。
さて、肝心のwhiskeyの「e」です。バーボンの父と呼ばれるのはクレイグ牧師であるが、実際に蒸留元となったのは、開拓者の多数を占めた北アイルランドの人々だった。彼らの故国ではウイスキーをウイスケ「Hwiske」と発音し綴っていた。そのため「e」はここからきているのではないかという説が強い。現在でもアイリッシュ・ウイスキーは「Whiskey」と綴られ、スコッチ・ウイスキーは「Whisky」である。もっともバーボンの中にも「アーリー・タイムズ」など一部は「whisky」と綴られているが、これは蒸留者がスコットランド系だったのかもしれない。ウシュクベーハー(命の水)と呼ばれるウイスキーが作られたのは12世紀、北アイルランド人によってといわれる。このウイスキー造りの元祖の血を受け継ぎ、フロンティア・スピリッツから生まれたのが、「火の酒」バーボンなのです。
<バーボンウイスキー>
原料となる穀物の51%以上(80%以内)がトウモロコシであること。160プルーフ以下で蒸留。新品で内側を焦がしたホワイトオーク材の樽で2年以上熟成させる。熟成は125プルーフ以下。プルーフは、蒸溜酒のアルコール度数を表す際に使われる単位。 アメリカンプルーフは、0.5倍するとアルコール度数になります。120プルーフなら、アルコール度数60%ということです。
ところがこれだけの条件を満たしても、ケンタッキー州以外で造られたものは正確には「バーボン」とは呼ばれない。このことは、合衆国特許局に正式登録されています。だから、ジャック・ダニエルはアルコール法によればバーボンウイスキーだけれど、テネシー・ウイスキーと呼ばれるのはこのためでもあります。
<飲み方>
器にこだわったからといって、別に味が変わるわけではありません。しかし味わうことを楽しむなら、酒に合ったグラスを選びたい。バーボンをストレートで楽しむなら、まずショットグラス。ロックのためにオールド・ファッションド・グラス。そしてタンブラーがあれば、とりあえずはOK。好みもあるが、装飾の多いグラスよりもシンプルなグラスの方が、個性的なバーボンには似合うと思います。ズッシリとしたロック・グラスも1つ欲しいところです。
氷で酒の味は変わるのか?といえば当然変わります。家庭の冷蔵庫で水道水で作ったものより、コンビニで売っている氷の方が水割りも美味しいのは常識。透明で気泡のない氷が、バーボンを始めとした酒の香りを損なわない。バーなどで飲むロックや水割りが美味いのも、氷屋で作る大きな氷の塊を砕いて作るから。一時南極の氷が流行ったし、試してみましたが、あれは気分の問題が大きいと思う。とにかく喉に熱いバーボンを固くするためにも氷にはこだわりたい。
割るというと水割りだが、バーボンと水割りは実は大抵相性が悪いと思います。(水割りが美味しいバーボンもある)バーボンはソーダなどの発砲性ウォーターで割ると美味しい。炭酸のガスが香りを引き立てるような気がするからです。他にもジンジャーエールやコーラで割るのも美味しい。甘すぎる場合はソーダを加えると、味がしまる。自分の好みのバーボンに好みの割り方を重ねる。また美味くなる。これはバーボンに限らないが、無理してストレートでいくより楽しまなくては、酒がもったいないと思う。実際本家アメリカで、ジャック・ダニエル(テネシー・ウイスキーだが)の正式な本家がカクテル版が発売していました。