先日の北海道ツアーでは長旅の退屈しのぎに、ぶ厚い長編小説を2冊借りて読んだ。そのうち1冊が箒木蓬生の小説「逃亡」だった。この本は622ページにも及ぶ長編で、最後まで読めるだろうかと危ぶんだが、戦争の真実を掘り下げたスリリングな内容で実に面白く寸暇を惜しんで読んだ。
時は終戦末期、物語の主人公守田軍曹は占領地「香港」に勤務する優秀な憲兵隊員だったが、日本が敗戦し地元民に憎まれていた憲兵隊員は、収容所送りとなり死刑など重い懲罰を受ける可能性が高かった。
敵軍から武装解除される日の朝、守田軍曹は思いを同じくする同僚と結託し、憲兵隊の施設を密かに脱出する。それから彼の長い逃亡生活が始まる。身分を偽り何とか日本への帰還を果たし、再び妻や子との慎ましやかだが平穏な生活を得るが、それもつかの間戦犯として警察の追及を受け、家族の元を離れ再び孤独な逃亡者となる。
長い流浪の末、妻が送ってくれたコートを質屋に持ち込んだ事から足が付き、彼は警察に逮捕される。巣鴨の戦犯刑務所へ送られて、このまま香港へ送還され処刑されるだろうと覚悟を決めた彼は、憲兵勤務の中で犯した自分の罪と向き合う贖罪の日々を過ごす。
そんなある日、檻の前に米軍兵士らが立ち彼を檻の外へと連れ出す。この後の守田軍曹の運命は如何に、・・・意外な結末はこれから読み人の為に言わない事にしましょう。
戦犯となった加害者側の立場で戦争の過酷さを描いたこの小説は、国や社会、そして軍隊とは何だったのか、戦争の不条理を読む人に深く考えさせてくれる力作です。