平成25年9月11日(水) 天気=曇り
04:58登山口駐車場→ 05:10竹宇駒ヶ岳神社→ 0634~43横手分岐→ 0742~45刃渡り→ 08:00刀利天狗→ 0832~40五合目→ 09:12~17七丈小屋→ 09:50八合目御来迎場→ 10:37~52甲斐駒ケ岳→ 11:25八合目御来迎場→ 11:51~56七丈小屋→ 12:29~34五合目→ 13:03~08刀利天狗→ 13:19刃渡り→ 14:03~13横手分岐→ 15:13竹宇駒ヶ岳神社→ 15:20登山口駐車場
甲斐駒ケ岳、黒戸尾根コースは累計標高差が2400mもあり日本アルプス屈指の急登です。そのせいか近年甲斐駒を登る登山者の殆どは北沢峠からで、この道を登る人は随分減ったそうです。このハードさが受けたのか最近トレラン(山岳マラソン)の人がこのコースを日帰りで往復するそうです。
私もトレランじゃないけど、今回黒戸尾根から甲斐駒を日帰り登山してみる事にした。地図上のコースタイムは登り11時間半、降り7時間、計18時間半なので最低でもコースタイム1.5倍の速度でなければ日帰りは無理だ。コースのポイント毎に目標タイムを置きそれをクリアできなければ撤退する計画にした。
前夜は山麓の道の駅「はくしゅう」で車中泊、天気予報を聞くと「明日は曇り後雨」との事、少しガッカリだ。翌朝未明に目覚めると朝飯を作るのが面倒なので近所のローソンで購入して朝食を食べる。その後登山口のある竹宇神社の方へ移動する。此処には尾白川渓谷という観光名所もあり立派な駐車場がある。
登山口の駐車場(下山時)
AM4時半を過ぎたが外は真っ暗、いっそ雨でも降ってくれりゃ中止の口実ができるのにとヤル気が出ない。そんな気分を引きずりながらAM5時前に渋々と出発する。竹宇駒ヶ岳神社本殿(770m)で無事を祈願して合掌、尾白川に架かる吊り橋を渡って登山道を登り始める。
竹宇駒ヶ岳神社(下山時)
だんだん空が白み始めてきた。重かった身体が徐々に登山モードに変わっていく。樹林帯にジグザグと続く道は明瞭で気を遣う必要が無い。脳ミソを空っぽにして夢遊病者のように登って行く。
出発して1時間20分余で横手分岐に着いた。此処の標高が1530m、登山口から780m高度を稼いだ事になる。並みのハイキングなら既に山頂に着く高度差なのだが甲斐駒の山頂は更に1500m余の高みにある。まだ此処は序の口なのだ。
横手の登山道合流地点
分岐で休憩してると横手側から6~7名の中年男性が登ってきた。半分ほど白装束姿なので山岳信仰の人達だろうか。更に私が来た道をトレラン姿の若者が軽やかに通り過ぎた。その後をもう一人、青色シャツの青年が通って行く。彼も日帰り登山を目指しているようだ。
彼等を追うように私も出発する。休憩している信仰団体の人達に挨拶すると「慣れてるから脚が軽いネ。」と声を掛けてくれた。この先も延々と樹林帯の登りが続く。青シャツの青年の背後が見えてきた。私につかれるのを嫌ったのか彼は休憩し私に道を譲った。
横手分岐から1時間ほどで「刃渡り」と呼ばれる岩の痩せ尾根に着いた。鎖が設置されているので見た目ほど危険では無い。この先から道が急になり梯子場や鎖場が現れ始めた。単調な道よりはこんな変化に富んだ道の方が気が紛れてありがたい。トレランの若者が早々と降って来た。こんなに早く山頂へ行けるはずは無いから五合目辺りでUターンしたのだろう。
岩尾根の「刃渡り」
立派な祠がある刀利天狗(2049m)に着いてやっと標高2000mを越えた。黒戸山(2254m)の北側をトラバースして五合目まで一旦降りになる。大した距離ではないが、下山時スタミナ切れだったら、キツイ登りかも知れない。
刀利天狗の祠
五合目(右の梯子を登る)
五合目の先は行く手を阻むような岩壁で梯子場や鎖場が連続して続く。両手足を総動員して登って行く。時折下山者とすれ違うが、皆快く道を空けてくれる。やがてこのコース唯一山小屋である七丈小屋に着いた。人気は無く、チラッと見掛た無愛想なオッサンが管理人のようだ。清冽な水が蛇口からほとばしっているが宿泊者以外有料(100円)との事、私は2㍑以上冷茶を携行してるから欲しくも無い。
途中の梯子場(こんなのが延々と続く)
岩尾根の切れ間に架かる木橋
七丈小屋
第1小屋の奥に茶色い外観の第2小屋がある。こちらは冬期の避難小屋となるのだろう。更にその上がテント場で10張以上張れそうだ。しかし此処まで幕営具背負って登るには相当根性がいるなあ。
小屋の上辺りで森林限界を超えてきた。時折薄陽も感ずるが、道沿いはガスに覆われたままだ。天気が良ければ素晴らしい展望を得る事ができるのだろうが予報を考えれば雨が降らないだけでもありがたい。
八合目の御来迎場には倒壊した石の鳥居と立派な石碑が建っていた。その先も岩場の道が続く。行き交う人も無く自分のペースで歩けるのが嬉しい。
八合目の御来迎場
腕時計の高度計からすると山頂はまだズッと先と思っていたら以外な近さで山頂の祠が見えた。私の腕時計の高度計は気圧の変化で表示するからあまりあてにならない。
山頂が見えた。
AM10時37分、甲斐駒ケ岳(2967m)に到着した。登り約5時間半掛かった事になり思ったよりいいペースで来る事ができた。
山頂は今までの静寂が嘘のような賑わいで、老若男女それぞれに登頂の喜びに浸っている。陽射しはあるものの白い雲が周囲を埋め南アルプスの山岳展望を見る事は出来ない。しかし雨が降らないだけでも儲けものだ。
甲斐駒ケ岳山頂
山頂から摩利支天峰
さて私にはこれから長~い降りが待っている。そうそうノンビリもしていられない。記念の写真を撮り終えると山頂を後にする。
来た道を重力に引かれるように降って行くと八合目付近で青色シャツの青年とすれ違った。寡黙そうな彼とエールを交わし降って行く。お昼前に七丈小屋に着いた。これで明るいうちに降れると一安心する。
五合目上の梯子場で信仰団体の人達と再会した。話を伺うと彼らは江戸時代に甲斐駒ケ岳を開山した延命行者を信仰する人々で、今日は開山を祈念して道沿いの奉納物を清掃しお供えしながら登っているとの事、今宵は七丈小屋に泊り明日山頂の祠にお参りするとそうだ。この長大な登山道が立派に維持されているのも彼らの努力と精進のお蔭なのだと感じ入った。
信仰団体の方々とパチリ
五合目~刀利天狗を過ぎ刃渡りの岩場を抜けるともう危険個所は無い。長い単調な降りが続くだけだ。緊張感が無くなったせいか逆に疲れを感じ始めた。もう登る人は無かろうと思っていたら若者が一人登ってきた。背中のザックが大きいから幕営するのだろう。時間はまだ13時過ぎだし七丈小屋のテン場までは余裕で着くだろう。
刃渡り下の長い下り
横手分岐を過ぎても先は長い。降って行くにつれ街の騒音と渓谷のせせらぎの音がだんだん大きくなってきた。私はすっかり重くなった脚を重力に導かれるまま交互に動かし樹林の道に沿って黙々と降って行く。
尾白川に架かる吊り橋が眼下に見えた。あぁヤット着いたのだ。ホッと安堵の溜息が洩れた。15:13登山口の竹宇駒ヶ岳神社に戻って来た。降りは4時間20分掛かった。疲れもあるから降りは登り程にはタイムを縮める事は出来なかった。
尾白川に架かる吊り橋
車に戻ると早速近在にある日帰り温泉施設「むかわの湯」へ赴き、たっぷり溜まった山の汗と疲れを流す。今日の黒戸尾根から甲斐駒ケ岳の日帰り登山は前々から目標にしていた。最近何かとガタが多くなった私の身体だが今日は思った以上の働きをしてくれた。まだまだ錆びついていないようだ。「60半ばのオッサンにしては良くやったじゃないか。」と今日は自分で自分を褒めてやろう。