叔母と姪の二人は現在を生きることなく、過去に生きているという意味で幽霊に似ている。また、閉ざされた空間の中で生活している二人の、現実生活との齟齬を思わせるおかしな言辞によって、ジェイムズは奇矯な二人の性格を目に見えるように描いていく。
特にジュリアーナ・ボルドローの言動には突飛で謎めいたところがある。守銭奴のように法外な家賃を要求するかと思えば、「私」に対して決してうち解けようとはしないのに、姪のティータに「私」とのデートを勧めたり、「私」の目的を疑いを持ってみているにも拘わらず、突然「私」にアスパンの肖像画を見せたりする。
「私」にはミス・ボルドローの真意がまったく理解できない。この謎は小説の最後に明かされるのだが、それまで「私」はその謎を読み解くことができない。その謎はミス・ボルドローの秘められた願望にこそ潜んでいるのであり、ここでのジェイムズの仕込みは完璧と言ってもよい。
「私」はミス・ティータを通じて、ジュリアーナの腹を探ろうとする。押しては引き、引いては押す心理的な駆け引きは、「私」とミス・ティータの間に異常な緊張関係を作り出していく。この辺りの描写はヘンリー・ジェイムズならではのもので、この作品を一気に読ませる原動力となっている。
最後にミス・ボルドローが斃れ臨終の床につくところで、「私」はアスパンの恋文を求めて彼女の部屋を物色するのだが、その時、病に伏していたはずのミス・ボルドローが突然目の前に現れる。幽霊の出現を思わせるほどの衝迫力を持った描写がある。
「その瞬間、目に映ったものに驚愕してもう少しでランプをとり落とすところだった。わたしは思わず後ずさりしてしまった。ジュリアーナが寝巻のまま戸口に立ってこちらをじっと見ていたのだ!(中略)腰を曲げ、よろめきながら顔を上げたミス・ボルドローの白衣の姿、表情、態度は永久にわたしの脳裏から離れることはないだろう。私が振り向いたとたんに凄まじい勢いで吐き出すように言ったあの言葉も永久に忘れられまい。――「この出版ごろめ!」」
明らかにヘンリー・ジェイムズはこの場面を、ゴシック小説における幽霊の出現であるかのように描いているのであって、決して超常現象を描いているのではないが、それにも拘わらず、この作品を一編のゴースト・ストーリーと言いたくなるのも無理はないのである。
特にジュリアーナ・ボルドローの言動には突飛で謎めいたところがある。守銭奴のように法外な家賃を要求するかと思えば、「私」に対して決してうち解けようとはしないのに、姪のティータに「私」とのデートを勧めたり、「私」の目的を疑いを持ってみているにも拘わらず、突然「私」にアスパンの肖像画を見せたりする。
「私」にはミス・ボルドローの真意がまったく理解できない。この謎は小説の最後に明かされるのだが、それまで「私」はその謎を読み解くことができない。その謎はミス・ボルドローの秘められた願望にこそ潜んでいるのであり、ここでのジェイムズの仕込みは完璧と言ってもよい。
「私」はミス・ティータを通じて、ジュリアーナの腹を探ろうとする。押しては引き、引いては押す心理的な駆け引きは、「私」とミス・ティータの間に異常な緊張関係を作り出していく。この辺りの描写はヘンリー・ジェイムズならではのもので、この作品を一気に読ませる原動力となっている。
最後にミス・ボルドローが斃れ臨終の床につくところで、「私」はアスパンの恋文を求めて彼女の部屋を物色するのだが、その時、病に伏していたはずのミス・ボルドローが突然目の前に現れる。幽霊の出現を思わせるほどの衝迫力を持った描写がある。
「その瞬間、目に映ったものに驚愕してもう少しでランプをとり落とすところだった。わたしは思わず後ずさりしてしまった。ジュリアーナが寝巻のまま戸口に立ってこちらをじっと見ていたのだ!(中略)腰を曲げ、よろめきながら顔を上げたミス・ボルドローの白衣の姿、表情、態度は永久にわたしの脳裏から離れることはないだろう。私が振り向いたとたんに凄まじい勢いで吐き出すように言ったあの言葉も永久に忘れられまい。――「この出版ごろめ!」」
明らかにヘンリー・ジェイムズはこの場面を、ゴシック小説における幽霊の出現であるかのように描いているのであって、決して超常現象を描いているのではないが、それにも拘わらず、この作品を一編のゴースト・ストーリーと言いたくなるのも無理はないのである。