インドネシア海軍の潜水艦「KRIナンガラ」がバリ島近海で沈没した。
潜水艦は魚雷発射訓練の潜航中に事故を起こし、その後の捜索で漏出油や乗員の私物が発見されるとともに、水深850mの海底に艦体が3つに裂けた状態で沈没していることが確認された。
「ナンガラ」は1978年にドイツで建造され1,981年にインドネシア海軍に編入、韓国で改修(近代化?)されて2012年に再就役したとされているので、艦齢は実に40年を超えることになる。軍艦で40年以上現役で活動するのは珍しく、記憶にあるのは1945年に就役し1992年に退役(艦齢47年)した空母ミッドウェイくらいである。ミッドウェイの例では、度重なる改修工事で建造当時の面影はなく、退役まで建造当時のままであった箇所は無かったのではないだろうかと思っている。
水上艦では船殻の切り張りも可能であるが、潜水艦の内殻に手を加えることは無謀であり、韓国での近代化工事も搭載兵器や装備品の換装程度であったものと推測する。インドネシア海軍は沈没原因として、人為的な事故ではなく潜水艦(部材)の経年劣化を挙げているようであるが、40年間の度重なる潜航・浮上による繰り返し応力に部材が耐えられなかったのだろうと推測する。
いわゆる老朽艦に乗組まざるを得ず、しかしながら国防の任に当たり散華した「ナンガラ」乗員に心からの哀悼を捧げたい。
海上自衛隊の艦艇は「艦艇の老朽」をどのように測っているかといえば、艦種によって異なるが就役後適宜な期間経過後に「第1回老齢船舶調査」を行って船体・機関・電機・武器が戦闘や任務に継続使用できるか否かを判定する。調査によって継続使用と判断された場合の継続使用期間は概ね次回の定期検査までであり、そこでは「第2回老齢船舶調査」が待ち受けており再び適否が判定されることになっている。
クラシックカーは車検を1年しか与えられないと同様に、複数回の老齢船舶調査を経た艦艇では劣化の程度によって継続使用期間が短縮されたり速力制限を付される場合もある。
しかしながら、堅牢に作られた艦艇の船体が30年程度で使用に耐えられないほど腐食することは殆ど無く、機関も例えばガスタービン機関のように使用時数によって搭載替えを行うので老齢船舶調査でアウトになる可能性は低い。艦艇が任務に供し得ない(老齢)と判断される最大の要因は、搭載兵器が旧式化し、更には近代化のための新しい兵器を搭載する船体構造・スペースや電力量が不足するケースであるように思う。かっては防衛省の予算要求や財務省の査定も、海上自衛隊の能力要求を満たす必要最小限の規模で艦艇が建造されていたが、「いずも型」護衛艦の空母改修が実現した陰には、防衛・財務官僚が漸く「安物買いの銭失い」を実感した結果であろうと思っている。
必要最小限の能力整備が無駄の削減とする信仰は官民広く信じられている。しかしながら、過剰な箱物を否定した結果ワクチン接種場の確保に腐心し、余剰電力が無いために冷凍庫がダウンしてワクチンを廃棄したり、と「必要最小限整備信仰」は随所で破綻している。自然災害やパンデミックを考えれば「必要最小限」よりも「治にいて乱を忘れず」の方が、結果的に国民の利益に繋がるように感じられる。