ミャンマー国軍のクーデターによる混迷は解決の兆しを見せず、内戦突入の危機も囁かれている。
改めてクーデターの経過を眺めると、2020年11月に行われた連邦議会総選挙で与党・国民民主連盟(NLD)が改選議席476議席のうち2015年選挙を上回る396議席を獲得したことに端を発していると思う。日本的に見れば、政権与党が絶対的安定多数を得たように見えるが、国軍に代表される野党・反政府勢力は選挙の無効を主張して与党の勝利を認めていない。現に、治安悪化やコロナ感染防止という理由から200万人近い有権者が投票権を行使できないことが明らかで、国軍は1500万件もの選挙違反があったと主張していることと合わせれば、完全な民意であるとも断言できないように思える。
ミャンマーでは、ミャンマー(ビルマ)独立の父アウンサン将軍の愛娘であるスーチー氏が2015年の民政移管以降、事実上の国家元首として国政を担当していたが、対ロヒンギャに有効な政策を打ち出せずに治安は悪化し、経済の停滞や麻薬問題もあって一部の国民には不満が堆積していたともされる。
ミャンマー議会には選挙による信任を必要としない国軍議員が25%(166名)存在するとともに、国家が危殆に瀕した場合には非常措置として国軍が国家機能を掌握することが憲法に規定されており、 今回の騒擾も憲法規定に基づいたものであれば厳密な意味からはクーデターと呼べないものであるのかも知れない。
さらには、国軍は経済活動も活発に行っているために資金的には国家から半独立状態にあり、国軍とは名ばかりの既得権益者の私兵的な側面が強いと思える。NLDは完全な民生実現のために国軍の弱体化を柱とする憲法改正を発議したが、憲法規定では3/4以上の賛成が必要であるために25%の国軍議員の反対によって否決されたために国軍が国政の主導権を握る構図は健在である。
ミャンマーの反軍政行動に対して国軍は銃器をも使用した弾圧を加えており、既に国際機関の集計では600人を超える死者が報告されているが、国軍や国連の監視が不可能な武力紛争地域もあることから、実際の死者は1000人を超えるともされている。
この事態に対しては中露(日本も)を除く先進各国はミャンマー国軍の強圧的な弾圧を非難し、穏健な民生移譲を呼び掛けているが、中国の陰陽支援を受けている国軍は弾圧の軟化はもとより民政移譲の気配さえ見せていない。
現在、中国はミャンマーとの国境(雲南省)に高さ3mの有刺鉄線を「コロナ対策(入境者阻止)」として構築中とされているが、「ミャンマー難民対処」の思惑から事前に着手していたとすれば、国軍の行動は中国の指導・使嗾の出来事であるのかも知れない。