乾正人氏のコラムを読んだ。
コラムの大意は、Jアラートに関して「空襲警報に改称」と「発令権限を防衛相(省)へ一元化」であるが、一考すべき内容と思った。
恐らくの域を出ないが、実質的な空襲警報を「Jアラート」としたのは空襲警報という言葉の持つ禍々しさを嫌ってのことで、乾氏の指摘するように「撤退」を「転進」・「敗戦」を「終戦」と呼び変えた歴史と国民性の轍を踏んだとするのが正鵠を射ているのだろう。
Jアラートは、正式には「全国瞬時警報システム」と呼ばれて総務省が所管し、実質的には総務省隷下の消防庁が運用している。システム構成図を眺めると、発令には2つの系統があって、地震や台風等の自然災害情報は気象庁が、空襲警報に当る国民保護情報は「内閣官房」が出すことになっており、以後の情報の配布・伝達は「消防庁送信システム」によって自治体・テレビ・携帯に一斉送信される。
では、精度云々は別に、緊急地震速報がほぼ発震前に送信されるのに対して、空襲警報(国民保護情報)が時期を失する原因は何故だろうと考えれば、ミサイル飛来を先ず把握するだろう防衛相(省)の情報(警報)が内閣官房を介してしか発信できないことに帰するように思える。
乾氏は、大戦時の空襲警報は政治家・官僚の判断・思惑を超えて準軍事的に大本営が発令していたので、現在にあっても空襲警報発令は防衛相(省)に一元化すべきとされている。
先日、韓国の集団崩壊事故に関連して「当直責任者(当直幕僚)の資質」に言及したが、方針決定の遅れは、当直責任者~意思決定者(決裁者)間の結節の多寡に依る場合が多く、その結節に連なるうちの一人でも逡巡すれば費消時間は更に長くなる。大方の人は驚天の報告を受けた人が先ず「本当か?」と反応した経験を持っていると思う。ミサイル発射に関しては「本当か?」に続いて「米軍情報は?韓国は?確度は?」と続いたならば、それらの応答だけで貴重な数分が消えてしまうだろう。国民保護情報を発令すべき内閣官房の当直体制と決済者がどのようになっているかは知らないが、当直責任者に仮眠が許されたり専決権が与えられていない場合には、逡巡に加えてそれらに対する諸々も消費時間に加味されるのではないだろうか。
「ミサイル着弾後にJアラートを発令」した先日の失態について、政府(官房長官)はシステムの見直しに言及したが、防衛省それも自衛隊情報本部(制服)の判断で空襲警報(国民保護情報)が出せるようにすれば、現行よりも遥かに費消時間が短縮できるのは間違いのないところと思う。
それでも誤報や発令遅れが生じた場合には、制服の情報本部に公の場での釈明・説明の機会を与えるのは当然で、そのような一連の手続きが制服の成長と健全なシビリアンコントロール育成に益あるものと考える。