政府が、防衛産業から撤退する民間企業の事業継承を可能とする法整備の検討に入ったことが報じられた。
報道によると、防衛産業から撤退する企業が相次ぎ、受け皿企業が見つかるまで該当兵器が生産停止に陥っているとされている。
撤退の理由は利益率の減少とされ、欧米では10%を超える利益率も日本では7%程度で、かつ近年の発注量の減少に伴って防衛産業では飯を食えない現状であるらしい。「親方日の丸」という言葉があったように、貸し倒れの心配がない防衛産業や公共事業は不況に強いとされてきたが、企業も防衛産業部門の不振を民需部門でカバーすることが続いて、防衛部門は既に企業のお荷物化しているのが現状とされている。
防衛装備庁規模には程遠い末端部隊での・さらには30年前の経験に過ぎないが、部隊が必死に無駄を省いて積算し13%と記憶するGCIPを上乗せした調達要求書が、契約部門で一律に直接費10%減と査定、競争入札価格はそれすら下回ることが一般的であった。当時から、これでは企業の利益は出るのかと心配していたし、経営者からは「不況に備えて国との契約実績を積み重ねる保険価格」と聞いたこともある。末端部隊の少額の調達ですらこの有様であったので、装備庁の大型契約はさらに手厳しいものであったのだろう。官民の癒着や情実は排除されなければならないが、企業も適正な利益を得ることは必要と思える。
現役時代、艦艇の船体・装備機器の整備・修理に充当する艦船修理費が、新造後から年々減額されるという不思議な予算措置があった。そのため艦齢20年近くなると充当される艦船修理費は極めて少なく、年1回の「底洗い(入渠させての牡蠣落とし・塗装)費用」程度とされていた。車を例にすれば、購入直後の新車の修理予算が最も高く、修理費も嵩む廃車寸前の修理予算が雀の涙というもので、当然のことながら造船所も工事量が少ない老朽艦艇の修理には及び腰で、応札企業が現れずに修理担当部門は法定検査の実施に苦慮した例も聞いている。
かっての造船界の好況時、多くの造船所が武器修理部門を縮小・廃止し、武器修理の熟練者を商船部門に配置転換したために艦船の建造・修理に支障を来したことがあったが、造船不況に伴って艦船修理で露命を繋ごうとしたものの、既に武器修理熟練者の技能伝承は途絶えていたために、その回復に数年かかった例もある。
このように、防衛産業からの撤退は企業が保持する技術の喪失を伴って有事の緊急所要・急速拡張は望めないこととなるので、懐の深い事業継承策を講じて欲しいものである。