もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

飛鳥Ⅱ・タラップ・ギャングウェイ

2021年05月02日 | 自衛隊

 乗客の中国コロナ発症が確認された「飛鳥Ⅱ」が横浜港に帰港・接岸し、感染していない船客は下船したことが報じられた。

 本日は、クルーズ実施のあれこれ・可否についてではなく、船客や乗員の上下船通路に関するあれこれである。
 船や航空機の乗降時に使用される階段は、一般的には「タラップ」と表現される。タラップはオランダ語の「trap:階段」で英語では「パッセンジャーステップ」と云うそうであるが、海軍~海上自衛隊では「舷梯(げんてい)」と呼び、文字通り艦の玄関である「舷門」に掛けられた梯子である。
 基地の係留施設が十分でないことや行動を共にする護衛隊間の要務処理に便利なために同一の岸壁に複数の艦が接舷して係留することが多く、この係留方法は通常「目刺し係留」と呼ばれる。岸壁と最内側艦の間には、艦名の書かれた側幕付きの舷梯(タラップ)が渡される(「飛鳥Ⅱ」下船写真にもASUKAⅡの側幕がついている)が、外側艦は内側艦との間に最内側艦に掛けられた舷梯(タラップ)よりも軽易な渡り板を掛ける。この渡り板も海上自衛隊では舷梯と呼ぶが、アメリカでは「ギャングウェイ」と呼ばれる。安全が徹底している現在の自衛隊ではギャングウェイであっても手摺や転落防護ネットのついた堅固なものを使用しているが、創生期にあっては道板と呼ぶ幅30Cmほどの木製の板を2・3枚カスガイで止めて使用していた。勿論、手摺や転落防護ネットなど無かったために、酔って帰還した乗員が海に落ちた事例を複数回知っている。
 何故ギャングウェイと呼ばれるのかをネットで調べて見ると、《もともとは船員同士が仲間うちで自分たちを「ギャング」と称したことから使われるようになったという説、オランダ語の「gang =通路」に由来する説がある》が《船員たちが使いはじめた言葉ですが、英語の一般名詞としても使われています》となっていた。海上自衛隊では「舷梯」と呼ぶが「渡船橋」とも訳されているようである。

 海上自衛隊の岸壁には共用品として、艦艇には基地外での使用を考慮した搭載品として、それぞれ中型の舷梯(タラップ)を保有しているが、近年の艦艇は大型化して乾舷が高くなったために中型のタラップでは用を足さなくなった。またタラップを大型にすれば人力で掛けることが危険であるために、乾舷の高い護衛艦や補給艦は商船と同じ様な昇降装置付きの大型タラップに変わっているが、ギャングウェイは艦艇の目刺し係留が続く限り現在の形態で残り続けると思う。
 空港施設の充実に伴って旅客機への搭乗の多くはボーディングブリッジに変わり、タラップを利用するのは利用客の少ない一部ローカル線のみとなった。クルーズ船のタラップがエスカレータになる日も近いと思われるが、艦艇の舷梯(タラップとギャングウェイ)は、帰投・出港する自衛官の哀歓と共に有り続けることだろう。


さとり世代と路上呑み

2021年05月01日 | 社会・政治問題

 飲食業の時短営業や営業自粛に伴って、若者を中心とした「路上呑み」が報じられている。

 コロナ禍以前の路上呑みは、ローン支払いや子供の学資負担のしわ寄せとして小遣いを削られた中年者が、コンビニ駐車場等で缶酎ハイ片手のささやかな交流を、多少の後ろめたさを「パーキング・バー」「ガレージ・バー」と自虐して行っていたと思っているが、映像で見る昨今の路上呑みは、若年者が文字どおり歩道脇や公園内で人目もはばからずに開いているようである。
 現在20~30代前半の若者は「さとり世代」と称されるので、傍若無人に自己主張する「ゆとり世代」よりも穏やかで一応の常識を備えたように変化したのかと思っていたが、そうでもないようである。
 ウィキペディアでは《「さとり世代」の特徴は「欲が無い」「恋愛に興味が無い」「旅行に行かない」などが典型例として指摘され、休日は自宅で過ごしていることが多く、「無駄遣いをしない」「気の合わない人とは付き合わない」傾向が高い》とされていたが、路上呑みを観る限りいささか実情を反映した括りでは無いように思われる。
 もともと不特定多数の一団の思考や行動様式を一括りにすることは無理があったのであろう。「段階の世代」という括りには、戦後復興による出生数の爆発的な増加を受けて住宅・教育・年金等の社会インフラ整備の必要性から呼ばれたものであり、該当者の特質や性向を指すものでは無かったと思うが、後発の「ゆとり世代」や「さとり世代」は、社会背景よりもそれによって引き起こされたとする行動様式や思考に重点を置いているように思える。
 また、「さとり世代」と云う言葉も、2013年の「新語・流行語大賞」にノミネートされたものの、認知度は「ゆとり世代」に遥かに及ばないようである。
 退職以前には「ゆとり世代」とも交流があったためにネーミングはある程度彼等の特質を捉えていたと思っていたが、「さとり世代」はそれほどの重みと深さは無いようであり、さとり世代の色メガネはかけないことが望ましいように思える。

 話題は変わるが、昨今ラーメン屋やファストフード店で若者のみならず中高年者にも帽子をかぶったまま喫食する人を良く見かける。聞くところでは、ハットかキャップのどちらかでの着帽喫食はマナー違反ではないとされるが、古来から日本では食事の際には帽子や被り物を取ることがマナーや礼儀であるとされている。
 若者が「路上呑み」に違和感を感じなくなったのも、着帽喫食をする中高年の背中を観た結果であるかもしれない。子供の時から、箸の持ち方を教えると同時に、立ち食い・着帽喫食は「みっともない」ことを教育して欲しいものである。