乗客の中国コロナ発症が確認された「飛鳥Ⅱ」が横浜港に帰港・接岸し、感染していない船客は下船したことが報じられた。
本日は、クルーズ実施のあれこれ・可否についてではなく、船客や乗員の上下船通路に関するあれこれである。
船や航空機の乗降時に使用される階段は、一般的には「タラップ」と表現される。タラップはオランダ語の「trap:階段」で英語では「パッセンジャーステップ」と云うそうであるが、海軍~海上自衛隊では「舷梯(げんてい)」と呼び、文字通り艦の玄関である「舷門」に掛けられた梯子である。
基地の係留施設が十分でないことや行動を共にする護衛隊間の要務処理に便利なために同一の岸壁に複数の艦が接舷して係留することが多く、この係留方法は通常「目刺し係留」と呼ばれる。岸壁と最内側艦の間には、艦名の書かれた側幕付きの舷梯(タラップ)が渡される(「飛鳥Ⅱ」下船写真にもASUKAⅡの側幕がついている)が、外側艦は内側艦との間に最内側艦に掛けられた舷梯(タラップ)よりも軽易な渡り板を掛ける。この渡り板も海上自衛隊では舷梯と呼ぶが、アメリカでは「ギャングウェイ」と呼ばれる。安全が徹底している現在の自衛隊ではギャングウェイであっても手摺や転落防護ネットのついた堅固なものを使用しているが、創生期にあっては道板と呼ぶ幅30Cmほどの木製の板を2・3枚カスガイで止めて使用していた。勿論、手摺や転落防護ネットなど無かったために、酔って帰還した乗員が海に落ちた事例を複数回知っている。
何故ギャングウェイと呼ばれるのかをネットで調べて見ると、《もともとは船員同士が仲間うちで自分たちを「ギャング」と称したことから使われるようになったという説、オランダ語の「gang =通路」に由来する説がある》が《船員たちが使いはじめた言葉ですが、英語の一般名詞としても使われています》となっていた。海上自衛隊では「舷梯」と呼ぶが「渡船橋」とも訳されているようである。
海上自衛隊の岸壁には共用品として、艦艇には基地外での使用を考慮した搭載品として、それぞれ中型の舷梯(タラップ)を保有しているが、近年の艦艇は大型化して乾舷が高くなったために中型のタラップでは用を足さなくなった。またタラップを大型にすれば人力で掛けることが危険であるために、乾舷の高い護衛艦や補給艦は商船と同じ様な昇降装置付きの大型タラップに変わっているが、ギャングウェイは艦艇の目刺し係留が続く限り現在の形態で残り続けると思う。
空港施設の充実に伴って旅客機への搭乗の多くはボーディングブリッジに変わり、タラップを利用するのは利用客の少ない一部ローカル線のみとなった。クルーズ船のタラップがエスカレータになる日も近いと思われるが、艦艇の舷梯(タラップとギャングウェイ)は、帰投・出港する自衛官の哀歓と共に有り続けることだろう。