障害者の“国民体育大会”第14回全国障害者スポーツ大会(長崎がんばらんば大会)が2014年11月初旬、県内5市2町で行われる。同年10月に本県で開かれる国体と比べて規模は小さいが、スポーツが生み出す感動という点では、決して負けてはいない。人と人が支え合いながら、それぞれの目標に向かってまい進する。時に激しく、時に強く、そして温かく…。2年後の秋、スポーツとともに生きる全国のアスリートが、本県を舞台にした感動ドラマの主役になる。
同大会は団体、個人を合わせて、正式13、オープン1競技を実施する。県実行委員会(会長・中村法道知事)が4月下旬に発表した県民意識調査によると、同大会の認知度は56%と低いが、競技、運営の両面で準備は進んできた。県障害者スポーツ大会課の大庭茂雄課長は「県民の皆さんと一緒にやっていきたい。参加したらきっと感動をもらえる」と呼び掛ける。
■地元は予選免除
通常、団体は九州予選、個人は県大会で好成績を残した選手が全国大会に出場できる。地元開催の場合は予選免除となっているが、アスリートである以上、やはり結果にもこだわりたい。県内には、これまでチームがない競技もあったが、2年後を見据えて団体競技も動き始めた。
知的バスケットボールは一昨年の10月にチームを結成。当初はドリブルなどの基本さえもままならなかったが、今では試合ができるまでに成長した。26、27日には、九州予選(福岡市)に初挑戦する。川内真吾コーチ(サンビレッジ)は「せっかく立ち上げたので、日本一まで持っていきたい」、山口健一主将(県央不燃物再生センター)も「最初と比べて上達している。2年後は優勝」と夢を膨らませている。
■全国経験し成長
陸上、水泳など個人競技の選手たちは、27日の県大会(長崎市総合運動公園かきどまり陸上競技場ほか)へ向けて練習に励んでいる。中高生27人が陸上にエントリーした県立ろう学校の堀江勇治監督は「全国を経験したら一回り大きく成長する。多くの生徒に経験してほしい」。武富誠主将も「一人でも多く全国大会に出られるように頑張りたい」と燃えている。
水泳の選手たちも、それぞれ自己ベスト更新を目指して力泳中。男子の古賀壮(希望が丘高等特別支援)は「50メートル平泳ぎで自己ベストの40秒を切りたい」、女子の柳迫友希(長崎市)も「2年後の全国大会でメダルを三つ取る」と気合十分だ。
サウンドテーブルテニスは視覚障害者の卓球競技。長崎市視覚障害者協会の同好会「ピュアホワイト長崎」のメンバーは、週1回の練習を楽しみにしている。チーム名は「純粋な気持ち」と「白いピンポン球」をかけてつけた。自らもメンバーで全盲の宇原弘代表は「地元で大きな大会があるならメダルを取りたい」と2年後に向けて闘志を燃やしている。
過去に本県代表として国体に出場した選手もいるほど盛んなアーチェリー。21年前の事故が原因で車いす生活となった平林章(県身障者アーチェリー協会)は「仕事の農作業も、競技のために体を鍛えていると思えば楽しくなる」と明るく笑う。フライングディスクも健常者と障害者が同じ舞台で競い合える。県障害者フライングディスク協会の長井庄吾事務局長は「重度の障害があってもできる。競技を始めてリハビリにつながった方も多い」と、こちらも笑顔でアピールする。
■閉会式の一体感
障害という個性を受け入れ、スポーツを生きがいとする選手たち。それを心で支えるスタッフ、ボランティア。大会最終日、選手をはじめ、関係者のほとんどが参加する総合閉会式。昨年の山口大会を見てきた県障害者スポーツ協会の亀田信樹事務局次長は目を細める。「人と人との絆で成り立つ大会のフィナーレは、言葉にならない一体感が生まれる。国体とは違った素晴らしさがある」
27日の県大会には、ロンドンパラリンピック車いすマラソン日本代表の副島正純(シーズアスリート、諫早市出身)も出場する。国体同様、各方面から徐々に盛り上がってきた。このムーブメントをさらに大きくできるかどうかは、県民一人一人の心にかかっている。
○ズーム/第14回全国障害者スポーツ大会(長崎がんばらんば大会)
障害のある選手がスポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害者の社会参加推進を目的とした大会。本県開催は初めてで、2014年11月1~3日に県内各地で行われる。正式競技13、オープン競技1の計14競技。開、閉会式は、諫早市の県立総合運動公園陸上競技場に選手団、ボランティアら約1万人が参加する。
○おもてなしの心みんなを笑顔に 情報支援ボランティア養成 本村順子さん
「おもてなしの心で選手を迎えたい」
そう手話で話すのは、県ろうあ協会の事務局長を務める本村順子さん。自身も聴覚障害者である彼女は、現在、がんばらんば大会の情報支援ボランティア募集、養成などで指揮をとっている。
情報支援ボランティアとは、聴覚障害者に対して情報を正しく伝えたり、会場の案内などをするもの。例えば、パソコンで司会者の発言を即座に文字にして、スクリーンに映し出して認識してもらう。「トイレはどこですか」のような簡単な質問には、手話で受け答えをする。
難しく捉えられがちだが、本村さんはそれを否定する。「これは自分が変わる一つのきっかけ。やってみると誰でもできるし、達成感もある。ここから生まれる新しい出会いや思い出が、きっと将来のやりがいや生きがいにつながる」。今回はボランティア養成講座を予定しており、初心者でも本番に対応ができるようになるという。
「長崎を訪れた人に来て良かったと思ってもらいたい。そのためには技術はまだまだでいい。おもてなしの心で迎える、それが一番大切」。話の中に度々登場する「おもてなし」の言葉。何かを「してあげる」などとはかけ離れたそのフレーズの中に、情報支援ボランティアが大会のゲストとホスト、双方の笑顔をつくり出す未来が見える。
◆情報支援ボランティア募集 長崎がんばらんば国体・大会実行委員会が、11月から募集を始める予定。募集人員は手話300人、手書き要約筆記200人、パソコン要約筆記100人。年齢不問。それぞれ養成講座がある。問い合わせは県国体・障害者スポーツ大会部障害者スポーツ大会課企画調整班(電095・895・2790)。
○最高の舞台でシュート! 車いすバスケット 川原凜選手(長崎明誠高1年)
きゅ、きゅ、きゅっ-。体育館に響く、車いすのタイヤの音。両腕から力強く放たれたボールが、すっとリングに吸い込まれる。「凜、ナイスシュート」。チームメートのはじける笑顔。今、最高にうれしい瞬間だ。
生まれつき脊髄に腫瘍があり、それが神経を圧迫して下半身がまひしている。このため、幼いころは何度も嫌な思いをした。友人たちと同じ行動ができない、周囲の好奇の目、さらには「車いすは楽やね」という心無い言葉…。人知れず涙を流した日もあった。
きっかけは1冊の漫画との出合いだった。長崎市立黒崎中1年の秋、車いすバスケットボールを描いた「リアル」を読んだ。心が動いた。何事も明るく笑い飛ばす主人公たちの強さ。当時、嫌なことの処理の仕方が分からずに、もやもやしていた自分の背中を押された気がした。車いすバスケットボールチーム「長崎サンライズ」でボールを追う日々が始まった。
コートの広さ、リングの高さなどルールは一般のバスケットボールとほぼ同じ。車いすからのシュートは腕力が必要だ。2歳からリハビリを兼ねて続けていた水泳で肩は鍛えていたが、なかなか入らない。そんな状態で出場した初めての試合。がむしゃらに放ったシュートが決まった。「にやけが止まらなかった。試合は確か、負けたんですけどね」。バスケットの楽しさにはまった。
今春、長崎明誠高に入学。階段の上り下りなど学校生活は楽ではないが、大学進学を目指して勉強にも励んでいる。「家族や友人の支えがあって、勉強も競技も打ち込めています」。母親の和恵さんも「競技を始めて、心身ともにたくましくなった。悩みがあっても、自分で考えて前向きに行動している」と息子の成長に目を細めている。
長崎がんばらんば大会を高校3年で迎える。今から楽しみで仕方がない。「体力とスピードを強化し、チームの主力として活躍したい。直前の国体も、いろんな競技を観戦して楽しみたい」。最高の舞台で、最高のシュートを決める日を夢見ている。
情報支援ボランティアスタッフへの参加を手話で呼びかける本村さん=長崎市、県聴覚障害者情報センター(右)
笑顔でバスケットボールの練習に励む川原選手=長崎市、もりまちハートセンター(左)
全国各地から約5500人の選手団が参加する全国障害者スポーツ大会。力の限りを尽くす姿が感動を呼ぶ(写真はコラージュ)
5月25日のながさきニュースー 長崎新聞